記事・レポート
「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」
更新日 : 2008年10月28日
(火)
第3章なぜボーイング777は、同じ機能のコンピューターを3つ搭載しているのか
北野宏明: 例えばここ六本木ヒルズ。高いビルですが、これがロバストな建築物かどうかというのは、例えば震度6の地震が起きても立っていられるかというふうなことが1つ。それからビルの中の3割の構造が破損した、そのときもまだ維持できるか、立っていられるか。また、そのとき、どのぐらいの地震までさらに耐えられるか。それがある程度耐えられるということだと「かなりロバストである」という言い方をします。
実際、そういうシステムをどうやってつくるかというのは、生物でも工学システムでもいろいろ調べると、基本的に共通の要素があることが分かります。これは、大体4つぐらいの基本的なメカニズムに集約されます。
例えば飛行機のボーイング777(トリプルセブン)などの最近の飛行機は、飛行機自体が高度なロバスト・システムなんです。具体的に言うと、Flight Control Surface、フラップとかラダーがピコピコ動きますよね、ああいう制御システムのことです。あと、エンジンがないと飛びませんからエンジン。これが飛行機の基本的な構造です。これがシステムです。
それに対して外乱・内乱というのは何かというと、外乱は乱気流とか、気流の変動とか。内乱というのはメカニカルなノイズであるとか、電気的なノイズであるとか、故障しちゃったとか、そういうのが内乱になります。
こういう外乱・内乱が飛行機に加わったときに、維持したいのは、「ちゃんと安定して飛ぶ」ということです。「飛行経路が維持できる」というのが飛行機の基本的な機能なわけです。内乱・外乱があったときに、こういう機能を維持するというのが飛行機のロバストシステムとしての機能です。
これをどうやって維持しているか。乱気流もそうですが、いろいろなことがあってフライトのパス(経路)は普通大体少しずつずれるのです。そのときにフィードバックループというのを使います。「ここをこういうふうに飛んでいたい」というのからずれていると、ずれをちゃんと検出して、それを戻すように方向舵を逆方向に向けるわけです。そういう働きをふるフィードバックというのをつけます。いわゆる制御工学の分野の技術を利用するのですが、これが1つのメカニズムです。
実はこうしたことは我々も普段やっています。車を運転していて、ハンドルを調整しますよね。自分が行きたいと思っているところ、予想しているところとずれているときに直しますね。これはフィードバックをかけているわけです。「ここら辺に行くはずだから」と目をつぶって運転するのは、フィードフォワード、フィードバックがかかっていない状態です。普通はフィードバックをかけています。
自動車を運転しているときや、自転車で走るとき、自分で歩いているときも我々はずれを直しています。フィードバックというのはいろいろな形でかかるから、変なところに行ったりしないわけです。
これを飛行機はコンピューターを使って制御しています。そのコンピューターですが、今の民間航空機の場合は3つのモジュールがあります。なぜ3つかというと、1つが壊れてもほかの2つが生きているのでそれらを使って飛行できるということなんです。これを冗長性、英語だとredundancyと言います。3つなくても本当はいいわけです。1個でも機能はするけれど、その場合は1個壊れてしまったらおしまいなので、機能はするけれどロバストではないわけです。
ロバストであるためには、それが壊れても機能が維持できなければいけないので、2つ、3つと使います。
では2つの場合は何が問題か。1個が動作しなくなったら、もう1つの生きている方を使えばいいわけで、これは簡単なんです。ところが、誤動作している場合があるのです。誤動作したときに2つだと、どちらが正しいかわからない。だから2つではだめなんです。3つなら、1個壊れていても生き残っている2 つが正しければ、多数決してマジョリティを使えばいいわけですから。だから、奇数個使うんです。
竹内薫:コンピューターシステムが3つあると考えていいんですか。
北野宏明:そうです。同じ機能を持っているコンピューターのボックスが3つあります。それで1個がおかしなことになっても多数決で決まるから大丈夫なわけです。裁判所が同じですよね。家庭裁判所などの簡単なものは1人の裁判官がやっていますが、大体3人いるじゃないですか。あとは5人とか、11人とか。2人だと意見が分かれたときに話がまとまらない。これもやはりロバストシステムで、1人が変なことを言っても、2人がまっとうであれば判決としてはまっとうな判決が出るというのが前提になっています。
竹内薫:ということは、裁判官の数というのは奇数の方がいいということですか。
北野宏明:偶数はあり得ない。意見が分かれてしまったときに、話がまとまらないというか、結論が出ませんから。
実際、そういうシステムをどうやってつくるかというのは、生物でも工学システムでもいろいろ調べると、基本的に共通の要素があることが分かります。これは、大体4つぐらいの基本的なメカニズムに集約されます。
例えば飛行機のボーイング777(トリプルセブン)などの最近の飛行機は、飛行機自体が高度なロバスト・システムなんです。具体的に言うと、Flight Control Surface、フラップとかラダーがピコピコ動きますよね、ああいう制御システムのことです。あと、エンジンがないと飛びませんからエンジン。これが飛行機の基本的な構造です。これがシステムです。
それに対して外乱・内乱というのは何かというと、外乱は乱気流とか、気流の変動とか。内乱というのはメカニカルなノイズであるとか、電気的なノイズであるとか、故障しちゃったとか、そういうのが内乱になります。
こういう外乱・内乱が飛行機に加わったときに、維持したいのは、「ちゃんと安定して飛ぶ」ということです。「飛行経路が維持できる」というのが飛行機の基本的な機能なわけです。内乱・外乱があったときに、こういう機能を維持するというのが飛行機のロバストシステムとしての機能です。
これをどうやって維持しているか。乱気流もそうですが、いろいろなことがあってフライトのパス(経路)は普通大体少しずつずれるのです。そのときにフィードバックループというのを使います。「ここをこういうふうに飛んでいたい」というのからずれていると、ずれをちゃんと検出して、それを戻すように方向舵を逆方向に向けるわけです。そういう働きをふるフィードバックというのをつけます。いわゆる制御工学の分野の技術を利用するのですが、これが1つのメカニズムです。
実はこうしたことは我々も普段やっています。車を運転していて、ハンドルを調整しますよね。自分が行きたいと思っているところ、予想しているところとずれているときに直しますね。これはフィードバックをかけているわけです。「ここら辺に行くはずだから」と目をつぶって運転するのは、フィードフォワード、フィードバックがかかっていない状態です。普通はフィードバックをかけています。
自動車を運転しているときや、自転車で走るとき、自分で歩いているときも我々はずれを直しています。フィードバックというのはいろいろな形でかかるから、変なところに行ったりしないわけです。
これを飛行機はコンピューターを使って制御しています。そのコンピューターですが、今の民間航空機の場合は3つのモジュールがあります。なぜ3つかというと、1つが壊れてもほかの2つが生きているのでそれらを使って飛行できるということなんです。これを冗長性、英語だとredundancyと言います。3つなくても本当はいいわけです。1個でも機能はするけれど、その場合は1個壊れてしまったらおしまいなので、機能はするけれどロバストではないわけです。
ロバストであるためには、それが壊れても機能が維持できなければいけないので、2つ、3つと使います。
では2つの場合は何が問題か。1個が動作しなくなったら、もう1つの生きている方を使えばいいわけで、これは簡単なんです。ところが、誤動作している場合があるのです。誤動作したときに2つだと、どちらが正しいかわからない。だから2つではだめなんです。3つなら、1個壊れていても生き残っている2 つが正しければ、多数決してマジョリティを使えばいいわけですから。だから、奇数個使うんです。
竹内薫:コンピューターシステムが3つあると考えていいんですか。
北野宏明:そうです。同じ機能を持っているコンピューターのボックスが3つあります。それで1個がおかしなことになっても多数決で決まるから大丈夫なわけです。裁判所が同じですよね。家庭裁判所などの簡単なものは1人の裁判官がやっていますが、大体3人いるじゃないですか。あとは5人とか、11人とか。2人だと意見が分かれたときに話がまとまらない。これもやはりロバストシステムで、1人が変なことを言っても、2人がまっとうであれば判決としてはまっとうな判決が出るというのが前提になっています。
竹内薫:ということは、裁判官の数というのは奇数の方がいいということですか。
北野宏明:偶数はあり得ない。意見が分かれてしまったときに、話がまとまらないというか、結論が出ませんから。
※本セミナーで取り上げている病気や疾患などの説明および対処方法は、「ロバストネス」の観点からの仮説です。実際の治療効果は一切検証されていません。講師およびアカデミーヒルズは、いかなる治療法も推奨しておりませんし、本セミナーの内容および解釈に基づき生じる不都合や損害に対して、一切責任を負いません。病気や疾患などの治療については、信頼できる医師の診断と指示を必ず仰いでください。
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