記事・レポート
「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」
更新日 : 2008年12月01日
(月)
第6章 A社とB社、どちらがロバストか?
北野宏明: では、工学システムでそんなことがあるかというと、実はあるのです。「F-22ラプター」という今最強の戦闘機があるのですが、これを打ち落とせる戦闘機は現存しません。アメリカの空軍がF-22ラプターとF-15とかF-16で空戦をやったら、150対0というスコアで勝てる。F-22ラプターは超音速巡航のステルス戦闘機です。航空自衛隊が「売ってくれ、売ってくれ」と言っても、アメリカは全然売ろうとしない。
これは空力的に不安定につくられています。普通の飛行機というのは安定するようにつくられています。だからパイロットが操縦かんをちょっと離しても、安定飛行するのです。ボーイング747とか737のトレーニングでは、新米のパイロットがいろいろやるとだんだん飛行機が不安定になってしまうことがあるのですが、操縦かんから手を離すとスーッと安定飛行するんです。というのは、空力的に何もしなければ安定状態になるように設計されているからです。
Pilot Induced Oscillationといって、パイロットが不安定性を自分でつくってしまうのです。先ほどフィードバックループの話をしましたが、車はハンドルを切ると直ぐに車体が反応しますよね。車のフィードバックループは、すぐに反応します。でも民間航空機の場合は、……
場合によっては数秒かかる。操縦かんをいじったらその変化が現れるのに最低少し時間がかかるわけです。だから右だ、いや左だと頑張っていじり過ぎて、だんだん訳がわからなくなるんですね。でも、手を離して放っておくと安定する。
ところがF-22ラプターの場合はそうじゃない。放っておくとすごく不安定になります。どうやって飛ばしているかというと、これは人には飛ばせません。コンピューターが全部制御しています。なぜわざわざそうしているかというと、戦闘機ですから、旋回性能が高くないといけないわけです。安定しているものは旋回性能がよくない。
戦闘機としては、ちょっとでもバランスを崩すと、すぐに回れるようにするのが一番いいんです。そのためにわざと不安定につくってあります。でもそれじゃあ飛べないので、コンピューターが精密な制御をする。この戦闘機の場合は、パイロットは基本的にはジョイスティックをいじっているだけです。
竹内薫: そうすると、この戦闘機の場合、パイロットの役割というのは……。
北野宏明: コンピューターの操作ですね。
竹内薫: 補助的なところにいってしまっているのですか。
北野宏明: 補助的だと思います。意思決定さえすれば後は完全自動で飛ばせると思いますし、多分その方が安定する。でも、それがいいかどうかという議論があるので人を乗せているだけの話だと思います。
F-22ラプターのは、敵というものに対してどうロバストに対応するかと考えた結果、旋回性能を上げなければいけないということで、そのために不安定にしたというわけです。
驚いたことに、実はボーイング787も空力的に不安定につくってあります。777も、もしかしたらそうかもしれない。どちらが民間航空機として最初だったか覚えていないのですけれど、確か787は若干不安定につくってあります。
竹内薫: 787は、まだ就航していない?
北野宏明: いないです。全部フライ・バイ・ワイヤで完全にコントロールするのでが、その方が燃費がいいみたいです。
車のF1の場合も、そういうトレードオフがあります。ホイールベース(※編注:前輪中央と後輪中央の間の長さ)を長くすると、直進安定性は増すけれどカーブで曲がりにくい。短くすると回りやすいけれど直進不安定になる。両方取りというのは満たせない。
「じゃあ、2つのシステムのどちらがロバストですか?」とよく聞かれます。例えば「Aという会社と、Bという会社、どちらがロバストですか?」とか、「このビルとあのビル、どちらがロバストですか?」とかね。でも、それは言えないのです。なぜかというと、すべてに対してロバストなシステムというのは、多分できないからです。
トータルのロバストネス、または脆弱性というのは決まっていて、どこにそれを分散しているかだけの問題なのではないかというのが僕の仮説です。これはまだ仮説なのですが、多分それはそうだと思います。
(その7に続く、全23回)
これは空力的に不安定につくられています。普通の飛行機というのは安定するようにつくられています。だからパイロットが操縦かんをちょっと離しても、安定飛行するのです。ボーイング747とか737のトレーニングでは、新米のパイロットがいろいろやるとだんだん飛行機が不安定になってしまうことがあるのですが、操縦かんから手を離すとスーッと安定飛行するんです。というのは、空力的に何もしなければ安定状態になるように設計されているからです。
Pilot Induced Oscillationといって、パイロットが不安定性を自分でつくってしまうのです。先ほどフィードバックループの話をしましたが、車はハンドルを切ると直ぐに車体が反応しますよね。車のフィードバックループは、すぐに反応します。でも民間航空機の場合は、……
場合によっては数秒かかる。操縦かんをいじったらその変化が現れるのに最低少し時間がかかるわけです。だから右だ、いや左だと頑張っていじり過ぎて、だんだん訳がわからなくなるんですね。でも、手を離して放っておくと安定する。
ところがF-22ラプターの場合はそうじゃない。放っておくとすごく不安定になります。どうやって飛ばしているかというと、これは人には飛ばせません。コンピューターが全部制御しています。なぜわざわざそうしているかというと、戦闘機ですから、旋回性能が高くないといけないわけです。安定しているものは旋回性能がよくない。
戦闘機としては、ちょっとでもバランスを崩すと、すぐに回れるようにするのが一番いいんです。そのためにわざと不安定につくってあります。でもそれじゃあ飛べないので、コンピューターが精密な制御をする。この戦闘機の場合は、パイロットは基本的にはジョイスティックをいじっているだけです。
竹内薫: そうすると、この戦闘機の場合、パイロットの役割というのは……。
北野宏明: コンピューターの操作ですね。
竹内薫: 補助的なところにいってしまっているのですか。
北野宏明: 補助的だと思います。意思決定さえすれば後は完全自動で飛ばせると思いますし、多分その方が安定する。でも、それがいいかどうかという議論があるので人を乗せているだけの話だと思います。
F-22ラプターのは、敵というものに対してどうロバストに対応するかと考えた結果、旋回性能を上げなければいけないということで、そのために不安定にしたというわけです。
驚いたことに、実はボーイング787も空力的に不安定につくってあります。777も、もしかしたらそうかもしれない。どちらが民間航空機として最初だったか覚えていないのですけれど、確か787は若干不安定につくってあります。
竹内薫: 787は、まだ就航していない?
北野宏明: いないです。全部フライ・バイ・ワイヤで完全にコントロールするのでが、その方が燃費がいいみたいです。
車のF1の場合も、そういうトレードオフがあります。ホイールベース(※編注:前輪中央と後輪中央の間の長さ)を長くすると、直進安定性は増すけれどカーブで曲がりにくい。短くすると回りやすいけれど直進不安定になる。両方取りというのは満たせない。
「じゃあ、2つのシステムのどちらがロバストですか?」とよく聞かれます。例えば「Aという会社と、Bという会社、どちらがロバストですか?」とか、「このビルとあのビル、どちらがロバストですか?」とかね。でも、それは言えないのです。なぜかというと、すべてに対してロバストなシステムというのは、多分できないからです。
トータルのロバストネス、または脆弱性というのは決まっていて、どこにそれを分散しているかだけの問題なのではないかというのが僕の仮説です。これはまだ仮説なのですが、多分それはそうだと思います。
(その7に続く、全23回)
※本セミナーで取り上げている病気や疾患などの説明および対処方法は、「ロバストネス」の観点からの仮説です。実際の治療効果は一切検証されていません。講師およびアカデミーヒルズは、いかなる治療法も推奨しておりませんし、本セミナーの内容および解釈に基づき生じる不都合や損害に対して、一切責任を負いません。病気や疾患などの治療については、信頼できる医師の診断と指示を必ず仰いでください。
関連書籍
したたかな生命
北野 宏明, 竹内 薫オーム社
「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」 インデックス
-
第1章ニューヨークの大停電で、機能不全に陥ったホテルと平常通りだったホテル
2008年10月08日 (水)
-
第2章「ロバストネス」の定義とは?
2008年10月16日 (木)
-
第3章なぜボーイング777は、同じ機能のコンピューターを3つ搭載しているのか
2008年10月28日 (火)
-
第4章 相手と連絡を取りたいとき、ロバストなコミュニケーションしてますか?
2008年11月06日 (木)
-
第5章 安定して強くなるタイプと、不安定になって強くなるタイプ
2008年11月18日 (火)
-
第6章 A社とB社、どちらがロバストか?
2008年12月01日 (月)
-
第7章 全部に対してロバストというのはあり得ない
2008年12月15日 (月)
-
第8章 我々が病気になるのは進化の必然
2009年01月26日 (月)
-
第9章 低体重で生まれた子どもは、大人になると糖尿病になるかもしれない?
2009年02月13日 (金)
-
第10章 「がん」を殺そうとすればするほど、「がん」は進化する
2009年03月03日 (火)
-
第11章 病気を治すというのは多様性との戦いである
2009年03月10日 (火)
-
第12章 糖尿病の仕組みは、ボーナスに置き換えるとよく分かる
2009年03月17日 (火)
-
第13章 会社組織のロバストネスとは?
2009年03月25日 (水)
-
第14章 時速300kmで走るF1カーは、オフロードを走れない
2009年04月02日 (木)
-
第15章 アルバイトの個人差が味に影響しないようにする
2009年04月20日 (月)
-
第16章 人間が単細胞生物だったら、生き延びられない
2009年05月11日 (月)
-
第17章 地球温暖化から考える、環境変化に対するロバストネス
2009年05月28日 (木)
-
第18章 今世紀の温度変化は、過去の大絶滅のときと同じくらいのレベル
2009年06月16日 (火)
-
第19章 二酸化炭素も怖いが、メタンの方が影響は大きい
2009年07月03日 (金)
-
第20章 地球は気候変動に対してロバスト。問題は、人間がロバストじゃないこと
2009年07月22日 (水)
-
第21章 食料を原料にしたエタノールは、環境に優しくない
2009年07月23日 (木)
-
第22章 エセのエコに騙されるな
2009年07月24日 (金)
-
第23章 サンゴ礁が絶滅すると、海洋資源の過半数がなくなる
2009年07月27日 (月)
注目の記事
-
11月26日 (火) 更新
本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年11月~
毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。新刊書籍の中から、今知っておきたいテーマを扱った10冊の本を紹介しま....
-
11月26日 (火) 更新
メタバースは私たちの「学び」に何をもたらす?<イベントレポート>
メタバースだからこそ得られる創造的な学びとは?N高、S高を展開する角川ドワンゴ学園の佐藤将大さんと、『メタバース進化論』を出版されたバーチャ....
-
11月20日 (水) 更新
aiaiのなんか気になる社会のこと
「aiaiのなんか気になる社会のこと」は、「社会課題」よりもっと手前の「ちょっと気になる社会のこと」に目を向けながら、一市民としての視点や選....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 12月17日 (火) 19:00~20:30
note × academyhills
メディアプラットフォームnoteとのコラボイベント第1回。近著『きみのお金は誰のため』が25万部超のベストセラーとなっている、社会的金融教育....
「そもそもお金って何?未来をつくるためのお金の教養」