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「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」

更新日 : 2008年10月16日 (木)

第2章「ロバストネス」の定義とは?

『したたかな生命』

竹内薫: 今日のセミナーは最初にパート1として北野さんに講義の形でプレゼンテーションをしていただきます。その後にパート2としてディスカッションをしたいと思います。

この後すぐパート1に入りますが、その前に。『したたかな生命』の本の表紙ですが、実は最初、この絵の意味が分からなくて、「一体これは何だろう?」と。ちょっと表紙について解説をしていただけますか。

北野宏明: このデザインはダイヤモンド社のデザイナーがつくってきたもので、蟻が羽と尻尾を持っているんですね。何でこういう生物……って、いや、こういう生物はそもそも実在していませんが、こういうのがいたときに生き長らえるかどうか、ちょっと面白いですよね。

竹内薫: 狙いとしては、やはり多様性を表そうとしたのでしょうか。

北野宏明: 多分、そんな感じですかね。尻尾が何の役に立つか、いまだによく分からないのですが、飛ぶというのは結構いろいろな環境の変動に適応できますから、羽が生えているのはいいような気がしますね。

竹内薫: 尻尾はちょっと、余計でしたかね(笑)。

北野宏明: 尻尾はね、まあバランス……デザイン的には面白いと思います。

竹内薫: そうですね。それでは、早速。この本『したたかな生命』にはルイ・ヴィトンの話やジャンボジェットの話などがありますが、分かりやすい比喩的な話をパート1で、北野先生にプレゼンテーションしていただきます。

北野宏明: Robustness(ロバストネス)という言葉というか、その概念がこの本の中心的なテーマです。この言葉は日本ではあまり耳にしないと 思うのですが、英語では「ロバストだ」という言い方はよく使われています。特に生物学などの論文や制御工学などの分野では、ロバストシステム、ロバストコ ントロールという形ですごくよく使われている言葉です。

ただ、割とみんなラフに使っているんです。ちゃんとした定義を考えて正確に言葉を使っていこうとすると、簡単に言うと……といっても、簡単に言って も難しく言っても結構同じことなんだけれど(笑)、システムがありますよね。例えば、生物とか、または細胞があるとか。(会場の)プロジェクターに飛行機 の写真が映し出されていますが、飛行機もシステムなわけです。

「このシステムがロバストである」と言うときに、何を定義しなければいけないかというと、「何に対して、どういう状況に対してロバストか」「どうい うシステムのことを言っているのか」ということを言わなければいけないのです。ただ「ロバストだ」ということは言えないのです。

「ロバストネス」は、日本語では「頑健性」と訳します。ただ頑健性というと、てこでも動かない、ガチッとしたイメージがあって、これはちょっと実態として合わないのです。むしろかなり柔らかな構造で、いろいろな外乱や内乱に対応できるというイメージです。

外乱は外から擾乱が加わること、内乱は中の問題、部品が壊れてしまうとか、いろいろなことが起きること、簡単に言ってしまうと故障ですね。だから外 乱や内乱がシステムにかかわったとき、それでもシステムが機能するかということです。機能するというのは、例えば「生き長らえる」でもいいですし、何かの 機能を決めて、それが「維持できる」でも構いません。

まとめると、何らかのシステムがあって、それが外乱や内乱に対して機能を維持するというのがロバストネスという言葉の意味です。

※本セミナーで取り上げている病気や疾患などの説明および対処方法は、「ロバストネス」の観点からの仮説です。実際の治療効果は一切検証されていません。講師およびアカデミーヒルズは、いかなる治療法も推奨しておりませんし、本セミナーの内容および解釈に基づき生じる不都合や損害に対して、一切責任を負いません。病気や疾患などの治療については、信頼できる医師の診断と指示を必ず仰いでください。

したたかな生命

北野 宏明, 竹内 薫
オーム社

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該当講座

したたかな生命
進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か
北野宏明 (ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長  )
竹内薫 (作家・サイエンスライター・理学博士)

大腸菌、癌細胞、ジャンボジェット機、吉野家、ルイ・ヴィトン、一見するとばらばらなこれらのものには共通点があります。それが「ロバストネス」。「頑健性」と訳されることの多い言葉ですが、その意味するところはもっとしなやかでダイナミックなものです。システム生物学から生まれたこの基本原理は取り巻く環境の幅広い....


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