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本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2025年4月~

更新日 : 2025年04月22日 (火)

毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、いま知っておきたい10冊をご紹介します。

今月の10選は、『コンヴィヴィアル・シティ』、『融けるロボット』など。あなたの気になる本は何?

※「本から「いま」が見えてくる新刊10選」をお読みになったご感想など、お気軽にお聞かせください。











コンヴィヴィアル・シティ
生き生きした自律協生の地域をつくる
井上岳一・石田直美(編著) / 学芸出版社


「コンヴィヴィアリティ(Conviviality)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。それは、1970年代にオーストリア出身の思想家イヴァン・イリイチが提唱した概念のこと。辞書的には「饗宴」「陽気なこと」というような意味を持っていますが、イリイチは「個人の自律(自立)と創造性を重視しながら、人々が互いに支え合い、共に生きる社会の在り方」というような概念として用いています。

本書は、その思想を現代の都市や地域社会に応用し実践していくための提案の書。一般的には「自立共生」と訳されるコンビヴィヴィアリティという言葉を「自律協生」と新たに訳して解釈し直し、「食」「エネルギー」「モビリティ」「観光」「教育」「アート」などの領域に焦点を当て、自治体、企業、市民など、さまざまな都市の担い手が協働(協生)するための具体的な実践策を提示しています。

テクノロジーやシステムに依存し、創造性や自由が失われていくことへの抵抗から生まれたのが、コンヴィヴィアリティという概念。その本質は、自分の手を動かしてやってみることにあるように思います。さまざまな他者や自然と共に、持続可能な社会をつくるためのアプローチとは何か、対話のきっかけになる一冊です。

 

融けるロボット 
テクノロジーを活かして心地よいくらしを共につくる13の視点
安藤 健 / ミラツク
21世紀の世界では人間のパートナーとしてより身近なものになっている・・はずだったロボット。確かに、たくさんの機械とインターネットに囲まれて暮らしていますが、その存在を身近に感じている人はまだまだ少ないのではないでしょうか。この本はロボット開発者である著者により、ロボットの社会実装の現在地とこれからについて書かれた一冊。ロボットの作り手による現実的で実践的な言葉から、ロボットに持っていたイメージが更新されます。
 

踊るのは新しい身体 
私たちは、自分の体から自由になっていい。
太田 充胤 / フィルムアート社
医師であり元ダンサーでもある1989年生まれの著者による新しい身体論。デジタルツールを通じて、人々は自らの「身体」を複製している、と著者は考えます。身体論というと一見難しそうですが、誰もが持つ「身体」について社会との関わりの中で考えるもの。バーチャルとリアルの境界がますます溶けていきそうな世界で、私たちの「身体」のあり方は、どのように変わっていくのでしょう。
 

ほんとうの会議 
ネガティブ・ケイパビリティ実践法
帚木 蓬生 / 講談社 
精神科医であり小説家の帚木蓬生は、ギャンブル依存症患者の回復の過程から「討論なし・批判なし・結論なし」のオープン・ダイアローグの成果を知り、それを会議に応用して「結論を出すための会議」から、対話そのものに価値を見出す新しい会議のあり方を提案します。副題にあるネガティブ・ケイパビリティとは、すぐに答えを求めず不確実さや曖昧さの中に留まる力のこと。コミュニケーションの本質について考えさせられます。
 

変なあそび図鑑
PLAY! PARK (監修) / ブルーシープ  
2020年に立川に登場した、美術館と子どもの遊び場を中心とする複合文化施設「PLAY!」。その中にある「PLAY! PARK」から生まれた“変な”遊びを集めた一冊です。鉛筆、鈴、マスキングテープなど、身近なものを素材にして生み出されるユニークな遊びを見ていると、凝り固まったものの見方がほぐれていくよう。大人にこそ手にとってみて欲しい、手のひらサイズの図鑑です。
 

世界の貧困に挑む
マイクロファイナンスの可能性
慎 泰俊 / 岩波書店 
途上国での金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)事業に取り組む著者による、マイクロファイナンスの現在地を概観する一冊。日本に暮らしているとなかなか思いが及ばない途上国の金融事情や、そこで暮らす人々の行動原理、そしてマイクロファイナンスの歴史や現在抱えている課題まで、包括的に知ることができます。現在でも1日の生活費が1.9ドル以下で暮らす人々が7,6億人いると言われている世界。解決のためにどんなことができるのか、よく考えてみたくなります。
 

ふたり暮らしの「女性」史
伊藤 春奈 / 講談社 
明治、大正、昭和の時代に、結婚ではないパートナーシップを選択し、「女性」同士で暮らした人たちの歴史を辿るノンフィクション。タイトルの女性に「」がついているのは、”本書の主人公たちは女性として認知されてきたものの、すでにこの世を去った人たちであり、性自認を確認できないため”とされています。
伝統的な家族間やジェンダー規範を問い直し、パートナーシップのあり方を見つめ直すことができる一冊。
 

友達の数は何人?
ダンバー数とつながりの心理学
ロビン・ダンバー / 青土社 
2011年に日本版が出版された同名の書籍の改訂版。人間が安定して維持できる社会的関係の上限を示す「ダンバー数」についての本と言うと、聞いたことがある人もいるのではないでしょうか(ちなみに、その数は約150人とされています)。人はどのようにして社会的なつながりを築くのか、それが生活や健康にどのような影響を与えているのか。霊長類の行動学者である著者の研究は、デジタルツールの登場でコミュニケーションが複雑化した現在でも示唆に富んでいます。
 

群れから逸れて生きるための自学自習法
向坂 くじら,柳原 浩樹 / 明石書店 
詩人であり自ら国語塾も運営する向坂くじらと、講義なしで自習学習を中心とした「嚮心(きょうしん)塾」を営む柳原浩樹による、「自習」のすすめ。“勉強するのに仲間はいらない。むしろ、ひとりでいるために勉強が必要なのだ”というメッセージを軸に、学ぶとは何か、というところから、具体的、実践的な自習学習法が語られます。高校生くらいの読者に向けられた平易な文章ですが、大人が改めて勉強の意味を振り返ることにも役立つ一冊です。
 

書くことのメディア史
AIは人間の言語能力に何をもたらすのか
ナオミ・S・バロン / 亜紀書房
“人間が書いたものとAIが書いたものを対比することは、人類の歴史的な瞬間を描くことに等しい”。序章でこのように述べられる本書は、言語学者である著者が、人工知能の登場により人間の「書く」ことや、創造性や真正性のあり方をどのように再構築されていくのかを考察しています。「書く」という能力は私たちに何をもたらしてきたのか、それを失ったらどうなってしまうのか。AIとの向き合い方を考える上でも示唆に富む一冊です。
 
 

コンヴィヴィアル・シティ 生き生きした自律協生の地域をつくる

井上岳一,石田直美(編著)
学芸出版社

融けるロボット テクノロジーを活かして心地よいくらしを共につくる13の視点

安藤健
ミラツク

踊るのは新しい体 複製可能な者たちのための身体論

太田充胤
フィルムアート社

ほんとうの会議 ネガティブ・ケイパビリティ実践法可能な者たちのための身体論

帚木蓬生
講談社

変なあそび図鑑

PLAY! PARK (監修)
ブルーシープ

世界の貧困に挑む マイクロファイナンスの可能性

慎泰俊
岩波書店

ふたり暮らしの「女性」史

伊藤春菜
講談社

友達の数は何人? ダンバー数とつながりの心理学

ロビン・ダンバー
青土社

群れから逸れて生きるための自学自習法

向坂くじら、柳原浩樹
明石書店

書くことのメディア史 AIは人間の言語能力に何をもたらすのか

ナオミ・S・バロン
亜紀書房