本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2026年9月~
毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の“いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、今知っておきたいテーマを扱った10冊の本を紹介します。
今月の10選は、『世界は分解でできている』や『高専—戦後日本のエンジニア養成』など。あなたの気になる本は何?
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藤原辰史対談集
生態学における「生産者(主に植物)」「消費者(主に動物)」「分解者(菌類や微生物)」という区分を人間社会に当てはめ、その中での「分解」の役割に目を向けてみる。そこには日常生活の中で不可視化されているものの、社会が維持されることに欠かせない営みがあることが見えてきます。
本書は『分解の哲学』刊行前後の2014年~2025年の間に行われた、小説家、哲学者、発酵学者など分野の異なる9名と著者との対談集。対談相手それぞれの専門領域からの話題提起は、時に大きく迂回し、時に平行したり深く同調もしながら、「分解」という概念の解釈可能性を多方面に広げていきます。
「サステナビリティ」や「循環」という言葉を冠した取り組みがどこか表層的に見える時は、そこに「分解」に関わる営み、つまり排泄や腐敗、あるいは死のような出来事が見えなくされているからかもしれません。存在しているが目に映らない者たちが活動する「分解世界」から、新たな視点でわたしたちの社会を捉え直す手引きとなる一冊です。

音楽はどこに根づくのか?
21世紀のデジタル・カルチャーとローカルをめぐる旅
DJとして世界各地を旅してきた著者による、21世紀の音楽文化を描くエッセイ風の論考集。モロッコ、メキシコ、エジプトなどで著者が出会う現地の音楽シーンの中に、新しいテクノロジーをその土地のやり方で独自に取り込んで生まれてくる音楽の逞しい姿と、グローバルな経済原理がそれらを飲み込み、また、飼い慣らそうとする力の拮抗を垣間見ます。音楽に限らず“文化”がどのように生まれ、変化していくかの考察としても興味深く読むことができます。

AGI
人間を超える知能は文明をいかに変容させるか
AGI(汎用人工知能)とは、特定の作業に特化したAIではなく「人間と同程度の汎用的な知的能力を持ったAI」のこと。このAGIについて、技術的な可能性と限界から、それが実現した時に人間社会にどんな変化が起こるかまで、非常に包括的に論じられています。AIについては印象や誇大な言葉で語られがちですが、悲観論にも楽観論にもよらず丁寧に事実を積み上げていく語り口で、現時点でのAIの入門~中級書としてお勧めの一冊です。

フィットネスの社会学
「最適化」する自己と社会
「フィットネス」を切り口に現代社会を論じた本書。各章には、フィットネスの誕生を辿る文化史、日本の健康雑誌の歴史、プロテインの産業史など、興味深い項目が並びます。“本書ではフィットネスを自己と社会を「最適化」する装置と捉える”とあるように、身体の管理と社会との関係が大きなテーマ。誰もが“健康”を目指すことは「当たり前」のようですが、それは一体誰の、何のためなのか。社会の自明性を問う社会学そのものの面白さにも触れられる一冊です。

それはどこでも起こり得る
壊れゆく世界への抵抗
30年以上イギリスで暮らし、現地で体感している政治・社会状況をベースに、日本を含めた現代社会の問題を指摘し続ける著者の最新刊。イギリスで話題になる新しい言葉、「極中道(エクストリームセンター)」「クラス・シーリング」「リマイグレーション」などを取り上げ、それらが登場してくる社会背景を考察していきます。過去10年間で7人の首相が交代しているイギリスの現状。そこに浮上した新しい言葉たちから、日本に暮らすわたしたちは何を学べるでしょうか。

アフリカ 地図にない都市
まちを手づくりしながら生きる
ケニアの首都ナイロビ近郊にある“地図にない都市”「ムルク」。
いわゆるスラム地域であるその場所に都市計画研究者として調査に訪れた著者は、そのまま家を借りて住むことに。スラムというと、無秩序な埒外の空間を想像しがちですが、本書を読むとその印象は大きく変わります。欧米や日本のような、制度やインフラが整えられた近代的な都市とは異なる、住民たちの実践から形作られるダイナミックな都市のあり方、使われ方が見えてきます。

フィードの中の民主主義
SNS時代の世論と情報の届き方
SNSでの情報流通をデータを用いて実証的に解説した本書。「若者はショート動画ばかり見ている」「SNSは偏った情報ばかりが表示されるしくみだ」「選挙は“推し活化”している」というようなよく聞くネット情報の流通論には、意外にも多くの先入観が紛れていることが示されます。世論形成にSNSが大きな役割を持つ時代。意見の内容だけではなく、情報流通の科学的な知識もまた重要ではないでしょうか。

存在のさみしさについて
気分はどのように世界をつくるのか
「生きることはさみしい」という一節からはじまる本書。ただし「さみしさ」を否定的に捉えることはせず、日常の中の「さみしさ」を感じる空間や状況を取り上げながら、さみしさという気分はどこからきて、私たちに何を教えてくれるのか、という問いと向き合っていきます。若き気鋭の美学者・哲学者として、一年間で7冊目(8冊目も予定あり)とハイペースで本を出版している著者のこれからの活動も気になるところ。

紙の上で考えることの歴史
手帳が人類にもたらしたもの
原題は『THE NOTEBOOK』。簿記、メモ、航海記、日記、スケッチブックなど、ノートがさまざまな用途で使われてきた歴史を振り返り、それが人々の考え方、ひいては各時代の文化や社会にどのような影響を与えていったかが綴られています。人々は白紙のノートに何かを書くことで世界を再発見してきたことに気付かされると同時に、AIに書くことが代替される時代の「考えること」の意味を考えさせられます。

高専 — 戦後日本のエンジニア養成
高等専門学校(高専)とは、15歳(中学卒業後)から5年間で主に技術者・エンジニアの育成に特化した教育機関のこと。本書はこの「高専」の歴史にスポットを当てています。高校でも大学でもない高専が誕生した背景からは、日本の政治史や産業史と絡み合った、高等教育史のもう一つの側面が見えてきます。海外からも注目されるユニークな教育制度のあゆみとこれからが一望できる、他に類書のない一冊です。
世界は分解でできている 藤原辰史対談集
藤原辰史青土社
音楽はどこに根づくのか? 21世紀のデジタル・カルチャーとローカルをめぐる旅
ジェイス・クレイトンフィルムアート社
AGI 人間を超える知能は文明をいかに変容させるか
高橋恒一講談社
フィットネスの社会学 「最適化」する自己と社会
竹﨑一真青土社
それはどこでも起こり得る 壊れゆく世界への抵抗
ブレイディみかこ文藝春秋
アフリカ 地図にない都市 まちを手づくりしながら生きる
小野悠学芸出版社
フィードの中の民主主義 SNS時代の世論と情報の届き方
谷原つかさ朝日新聞出版
存在のさみしさについて 気分はどのように世界をつくるのか
難波優輝創元社
紙の上で考えることの歴史 手帳が人類にもたらしたもの
ローランド・アレン柏書房
高専—戦後日本のエンジニア養成
手嶋泰伸中央公論新社
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