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本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2026年7月~

更新日 : 2026年07月21日 (火)

毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の“いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、今知っておきたいテーマを扱った10冊の本を紹介します。

今月の10選は、『人類学のつくり方』や『対話型AIの哲学 「書くこと」に未来はあるか?』など。あなたの気になる本は何?

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 人類学のつくり方
自分の日常から知識を編む
橋爪太作 / 光文社


昨今ビジネスシーンでも注目を集める人類学。その背景には、異なる文化についての理解を深めることや、ある集団内では常識的なものの見方とは違うものに気付かされることなど、既存の思考の枠の外に出るための知見としての期待があるように思います。

人類学とはどのような学問か、どのような知見が蓄積されてきたかを紐解く良質な入門書は数多く出版されており、それらも非常に役立つのですが、本書では情報として人類学の概要を知ることではなく、実際に人類学を実践してみることが目指されます。本書の表現を借りれば、“出来上がった枠組みを一方的に当てはめるのではなく、経験から知識をつくるのが人類学” ということです。

本書では、著者のメラネシアでのフィールドワーク(=経験)から民族誌(=知識)をどのように編み上げてきたかの一部始終が明かされます。興味深いのは、実地で採集したメモや映像を研究室に帰って他者の手を借りながら再構成していく中で、フィールドワーク中には気づかなかった新たな視座が形成されていくこと。少し理解が難しいですが、そのことを「他者のようなわれわれを創造する」と著者は書いています。

人類学の醍醐味は、あるフィールドに入り込み、そこでの経験から知識をつくる過程で調査者自身も変容していくことにあるように思います。人類学を実践することは、職場や地域などで多種多様な他者と関わりながら暮らす現代社会において、自分自身の変化も受け入れながら、共に生きる新たな可能性を見出すことにつながっていくかもしれません。

 
 

対話型AIの哲学
「書くこと」に未来はあるか?
マーク・クーケルバーグ、デイヴィッド・J・ガンケル / 青土社 
本書の冒頭「はじめに」をふむふむと読んでいると、文末に“Chat GPT 2024年7月”という記載が。そう、この「はじめに」はChat GPTによって書かれています。本書はAIの中でもChat GPTのような大規模言語モデル(=LLM)の登場によって、知性、意識、心、そして「言葉を使うこと」など、私たちが考える “人間らしさ” がどのように再構築されうるかを検討していきます。LLMは人間の知性を脅かす存在なのか、あるいは別の知のあり方を拓くものとなり得るのか。「書く」と同時に「読む」ことの重要性にも気付かされます。
 

知性はバイアスでできている
賢さと愚かさの計算論的認知科学
サミュエル・ガーシュマン / 講談社 
「合理的な情報処理システムはかならず誤る」。一見矛盾しているような主張が本書の大きな特徴です。思い込み、決めつけ、見落としといった私たちが繰り返す“間違い”は、なぜ、そして何のために起こるのかを、認知科学や確率論などの知見から解き明かしていきます。数式や専門用語も登場し、一般向けの中でも難しい内容ですが、最初の数ページをめくってみるだけでもいくつかの気づきがあるはず。人間の脳はありのままの世界を認識できるようにできていない、と考えると、色々な物事に寛容になれる気がします。
 

身体の美学入門
感性から捉えなおす人間の本質
伊藤 亜紗 / 中央公論新社 
AIの登場以降、多くの人文科学分野では「人間性とはなにか」が問い直されています。人間の「脳」ができることとの対比でAIが語られることが多い中で、この本のテーマは「身体」と「感性」というAIが(少なくとも今の時点では)持っていないもの。街で、職場で、家の中で、あるいは映像などのメディアを介してでも、“体として現れる他者” とどのように向き合うのかは私たちが生きていく上で避けて通れない問題です。直接AIと対比的に書かれた内容ではないですが、AI時代にこそ立ち戻って考えたいテーマです。 
 

システミックデザイン
美しく、静かに、面白く。社会が変わる協働の旅路
筧 裕介 / issue + design 
ソーシャルデザインの分野で多数の実績を持つ著者による、現代社会が抱える“厄介な課題”への取り組み方の実践的指南書。「ナレッジ編」「スキル編」「ケース編」「プロセス編」で章立てられ、“システム思考×デザイン思考 = システミックデザイン” という方法論の概念的な解説から実践に落とし込むまでの全体像が示されます。特に「ケース編」では、地域開発、医療・福祉、教育など、複合的な課題を持ち、多様なプレイヤーが関わる現場での実例が紹介され、システミックデザインの応用の可能性がよくわかります。短期的・直線的ではなく、長期的・循環的な取り組みの意義を教えてくれる一冊です。
 

欲望と消費の100年史
日本のマーケティングをめぐる物語
酒井 光雄 / 日本経済新聞出版 
マーケティングコンサルタントである著者が、明治初期から現代まで、100年以上にわたる日本の消費文化の歴史を概観した本書。「クレジットカード登場」「シャンプーの普及」「女性誌の創刊」「オタク文化」…など、現在では当たり前のように存在するものが、いつ、どんな背景で登場し広まってきたのか、意外と知らないことも多いのではないでしょうか。一つのことを深く掘り下げたタイプの本ではないですが、幅広いトピックが展開されるので、気になるテーマが見つかりそう。
 

生き延びるための会話
他者と生きることの哲学
村上 靖彦 /SBクリエイティブ 
ここ何年か「対話」についての本が多く出版されていましたが、最近では「会話」について論じられた本も見かけるようになりました。哲学の一分野である「現象学」を背景に、医療・福祉の現場で質的研究を行ってきた著者による本書では、日常的に交わされる「会話」を“自分が生きている世界を組み立てていく”行為と捉え、個人化(自己責任化)、孤立化が進む社会の中に取り戻していくための実践法が語られます。言葉がますます道具的に扱われがちな昨今、「私たちはなぜ話すのか」という問いかけが重要に思えてきます。
 

木を読む
枝で道を見つけ、葉で水を探す
トリスタン・グーリー / 山と渓谷社 
自然の中の情報を読み、地図やGPSなどの現代的なツールを用いたものとは別の方法で世界を認識する「ナチュラル・ナビゲーション」の提唱・実践で知られる著者。これまでにも複数の邦訳本が出版されていますが、本書は森の中の木々から街路樹まで、樹木の“読み方”に焦点を当てています。強調されるのは、木々の名前や特徴を覚えるための本ではないこと。木々が示しているさまざまな手がかりから、木々そのものや周辺の環境を読み解く技術が説かれています。文字や画像という二次的な情報に頼りがちな現代人に、観察の奥深さ、面白さを教えてくれます。
 

終末パートナー(上・下)
北村 みなみ/ KADOKAWA 
安楽死が合法化された近未来の日本で、最期の時を安らかに迎えるサポートを行う「安楽死プランナー」として働く主人公を中心にした連作漫画。自分の人生を自ら終えることを選択した人たち、その人のそばで生きてきた人たち、そこに寄り添うプランナーの主人公たち。「その時」が近づく中で、彼らはそれぞれ何を思い、どんなことが起こるのか…。安楽死制度はヨーロッパでは複数の国で合法化されているものの(国によって制度の違いあり)、今なお哲学、倫理、法律、医療などさまざまな領域を横断して大きな問いを投げかけています。SF的な作風で高い評価を得る著者初の長編作品としても注目です。
 

WORKSIGHT[ワークサイト]30号
新しい中世 The New Middle Ages
WORKSIGHT編集部 / 学芸出版社 
中世(ヨーロッパ)とは一般に5世紀~15世紀くらいの期間を指す時代区分。強大な帝国が崩れ、民族が激しく移動し、権威は多層化し分散する…「暗黒時代」とも称されたこの時代の社会状況は、確かに2020年代の世界の状況に近いかもしれません。この特集では、現代の政治、社会、文化の中にまで深く埋め込まれた「中世的なもの」の存在を探ります。成長や発展を自明のものとしてきた近代的な世界観から少し離れ「中世」というレンズを通して社会を見たときに、私たちは何を想像し、創造できるのでしょうか。
 
 

人類学のつくり方 自分の日常から知識を編む

橋爪太作 
光文社

対話型AIの哲学 「書くこと」に未来はあるか?

マーク・クーケルバーク 
青土社

知性はバイアスでできている 賢さと愚かさの計算

サミュエル・ガーシュマン 
講談社

身体の美学入門 感性から捉えなおす人間の本質

伊藤亜紗 
中央公論新社

システミックデザイン 美しく、静かに、面白く。社会が変わる協働の旅路

筧裕介 
issue+design

欲望の消費の100年史 日本のマーケティングをめぐる物語

酒井光雄 
日経BP

生き延びるための会話 他者と生きることの哲学

村上靖彦 
SBクリエイティブ

木を読む

トリスタン・グーリー 
山と渓谷社

終末パートナー 上

北村みなみ 
KADOKAWA

終末パートナー 下

北村みなみ 
KADOKAWA

WORKSIGHT[ワークサイト]30号 新しい中世 The New Middle Ages

WORKSIGHT編集部 
学芸出版社