本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2026年6月~
陽の光が消えた町で毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の“いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、今知っておきたいテーマを扱った10冊の本を紹介します。
今月の10選は、『陽の光が消えた町で』や『バラバラな世界で共に生きる』など。あなたの気になる本は何?
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SFといっても宇宙や超現実的なテクノロジーが登場することはなく、あまりSFを読まない読者にも馴染みやすい作風です。収録された全作品がネビュラ賞、ヒューゴー賞などの名だたるSF賞を受賞、またはノミネートを受けており、SFファンからの人気の高さも窺えます。
本作の面白味は、現実の世界から半歩だけズレたような、実際にはあり得ないけどわたしたちの生活世界と地続きに感じられる絶妙な距離感にあるように思います。
AIの“自我”、電気やガスが“少しだけ”使える世界、隠された“奇妙な歴史”を持った街・・・未来でも、別世界でもない場所からわたしたちの日常を見つめてみると、見過ごされがちな可能性や小さな気づきをもたらしてくれるかもしれません。

バラバラな世界で共に生きる
リチャード・ローティの哲学
リチャード・ローティというアメリカの哲学者の著作を手引とし、正しさが乱立する<分極化>した時代で“われわれ”が共に生きるための作法を探る本書。ローティは、西洋哲学を出発点としつつ、唯一の真理を求める哲学の営み自体を批判した“アンチ哲学”の哲学者と評される人物。そのローティの思想を引き継いだ著者は、議論や対話ではなく、より日常的で平凡な“会話”の中に、共に生きる可能性を見出していきます。企業と大学に所属しながら哲学研究を行う著者の広範な活動にも注目です。

あるコンテナ船の物語
資本はいかに世界をめぐるか
一隻のコンテナ船を主人公に、グローバル経済の変遷を辿るノンフィクション経済史。どこで製造され、誰の手を渡り歩き、何に使われてきたのか、という船の生涯を辿ることで、40年にわたるグローバル経済の変遷を描き出します。著者はハーバード大学の歴史学の教授。このような一つの物事の来歴を微細に調査することで、マクロな歴史動向を描き出す手法は「ミクロヒストリア」(マイクロヒストリー)と呼ばれているそう。モノに刻まれた歴史から人間の社会を捉え直す、新しい歴史記述法にも注目です。

新幹線から見えたすき家へカレーを食べに行く
『深夜高速バスに100回くらい乗ってわかったこと』『家から5分の旅館に泊まる』など、印象に残るタイトルのエッセイが人気のフリーライター・スズキナオ。本書の表題のエッセイでは、新幹線から外の景色を眺めながら「自分がよく知らないこの町に、たくさんの人が生活しているんだな」とふと思ったことから、後日その町の「すき家」を訪れたそう。忙しい日々の中ではひとつひとつの行動に意味や対価ばかりを求めてしまいがちですが、肩の力を抜いて、日常のそばにある未知をただ楽しんでみたくなります。

腸の文化史
ざわめく腸がすべてを決めてきた
数十兆もの細菌が棲み、「第二の脳」と呼ばれるほどにヒトの情動や心身の安定に深く関わると言われる臓器である“腸”。本書は腸について医学的・生物学的な観点からのみでなく、「人々は腸をどう捉えてきたか」という社会的・文化的な観点から紐解いていく非常にユニークな研究です。「腹落ちする」「腹が立つ」のような“腹(=腸)”と感情や感覚を結びつける慣用句は世界各地にあり、腸と脳の関わりの深さが伺えます。脳を中心とした一般的な身体像とは別の可能性にひらかれた、身体論的にも読むことができる一冊。

都市のような図書館をつくる
建築設計スタジオであるOpen A、本のある場所の企画・運営などを行う株式会社ひらく、公共図書館や文化施設の構想・計画策定などを行う図書館総合研究所という、図書館づくりに関わる三者による共著書。それぞれが調査・実践してきた国内外の事例を紹介しながら、今の時代における図書館のあり方を探ります。図書館は「本を貸し出す場所」という役割にとどまらず、行政から商業まで複合的な機能を持ち、その地域で暮らす人々の生活の場として更新されつつあるようです。

仕事と日本人 新版
2008年に刊行された同名書の新版。日本人にとって「仕事」とはなにか、そんな問いを二百年前にまで遡り追いかけます。“近代のはたらき方=「労働」には、ある種の「不自由さ」がある”と、冒頭で著者は指摘しますが、その「不自由さ」はどこから来ているのか。また、本書は“日本人は本当に勤勉なのか”とも問いかけます。なぜ、いつから日本人は「勤勉」とみなされるようになったのか。AIの登場、女性の社会進出、少子高齢化など、旧版刊行時からの仕事をめぐる環境の変化は大きいものの、今読んでも多くの気づきが得られます。

曖昧な弱者の時代
メディア社会学を専門とする著者の雑誌連載を下敷きに、「曖昧な弱者」をキーワードにして昨今の日本社会を読み解く一冊。実在の有名人や社会現象を取り上げ、SNSや各種メディアでの当事者の言動、一般市民の反応を社会学的な手法で分析することで、ひとつの構図では語れない社会集団間の対立構造やそれぞれの行動原理をクリアに提示しています。“明白な弱者” とは異なる “曖昧な弱者” とはどのような人たちか、なぜその存在が社会の対立に関係しているのか。独自の切り口が新鮮な日本社会論です。

『朝のデザインさん』 『夜のデザインさん』
2026年3月に逝去されたブックデザイナー祖父江慎。数多くのヒット作の装丁を手掛けただけでなく、多くの後進デザイナーを育てたことでも知られています。この2冊の本は、祖父江さんが過去15年の間にTwitter/Xでつぶやいてきた言葉をまとめたもの。ストイックさとユーモアを持ってデザインに向き合い続けてきたことが滲み出る言葉たちの中には、どんな職業の人にとっても心に刻まれるものがあるはずです。本のデザインにも遊び心があふれています。

地球内生命
私たちがまだ知らない地下の異世界
地球“外”に生命はいるのか、という問いはよく聞くものですが、本書は地球の“地下”にいる生命を探るもの。太陽光の届かない深海や地下、灼熱の火山の火口付近にも細菌などの微生物が存在し、地表とは違うエコシステムで生きています。そんな地表の生物では生命維持が困難な場所で、著者たちはどんな研究を、どうやって行なっているのか。地球にはまだまだ未踏の領域があることを知るとともに、既存の生物観・生命観が拡張される一冊です。
陽の光が消えた町で
ナオミ・クリッツァー早川書房
バラバラな世界で共に生きる リチャード・ローティの哲学
朱喜哲NHK出版
あるコンテナ船の物語 資本はいかに世界をめぐるか
イアン久米川早川書房
新幹線から見えたすき家へカレーを食べに行く
スズキナオ太田出版
腸の文化史 ざわめく腸がすべてを決めてきた
エルサ・リチャードソン太田出版
都市のような図書館をつくる
Open A、ひらく、図書館総合研究所学芸出版社
仕事と日本人 新版
武田晴人筑摩書房
曖昧な弱者の時代
伊藤昌亮岩波書店
朝のデザインさん
祖父江慎パイ インターナショナル
夜のデザインさん
祖父江慎パイ インターナショナル
地球内生命 私たちがまだ知らない地下の異世界
カレン・G・ロイドみすず書房
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