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本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2025年12月~

更新日 : 2025年12月23日 (火)

毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の“いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、今知っておきたいテーマを扱った10冊の本を紹介します。

今月の10選は、トーマス・へザウィックの『HUMANISE~建築で人間味のある都市をつくる』や『あなたはなぜ雑談が苦手なのか』など。あなたの気になる本は何?

※「本から「いま」が見えてくる新刊10選」をお読みになったご感想など、お気軽にお聞かせください。











 HUMANISE
建築で人間味のある都市をつくる
トーマス・ヘザウィック / 草思社


ロンドンの街を走る真っ赤なロンドンバス、巨大なハリネズミのような外観の上海万博英国館『種の聖殿』、有機的な曲線と緑が印象的な麻布台ヒルズの低層部など、世界各地で忘れ難い印象を残すデザインを生み出すイギリスのデザイナー・建築家トーマス・ヘザウィックの初の日本語書籍が登場しました。

本書はヘザウィックの建築に対する思いと情熱が詰まった一冊。
ヘザウィックは、大小の箱型のビルが立ち並ぶ世界の現代都市の風景を「退屈なもの」と厳しく評します。氏によると、この退屈さは20世紀初頭のモダニズム建築によってもたらされた機能主義や禁欲的なデザインを良きものとする建築文化と、現代社会の経済合理主義的な効率志向や建築物の金融化が手を結んだことに起因します。そして、建築はその所有者や利用者や設計者だけのために存在するのではなく、街を歩く人々に喜びや楽しさを与えるものであるべきだ、と語ります。

本書では、現代建築の大きな課題である持続可能性のために「建物が人々から愛されること」を重視しています。それは、建築がその本来の寿命に対してはるかに短命で建て替えられたり、使われなくなってしまうことを止められない社会への警鐘でもあるように思われます。
本書のタイトルである「HUMANISE」という言葉には、建築物を私たちの単なる道具ではなく、共に街を豊かにする仲間のように考えよう、というメッセージが込められているのかもしれません。

 

ロッコク・キッチン 
川内 有緒 / 講談社
ノンフィクション作家の著者らが、福島県の国道6号線(通称「ロッコク」)沿いの町に通い、そこで暮らす人々の食卓を通じて、その日常や人生を描き出すノンフィクションエッセイ。大熊町、双葉町など、ロッコク沿いの町は福島第一原発事故の影響が特に大きく、現在でも広範囲が帰宅困難区域となっています。それでも、それぞれの町に戻ってきた人、新しくきた人がこの地域で暮らしています。それぞれ何を思い、どんな暮らしをしているのか。知られざる福島の「その後」の人々の営みに心を打たれます。
 

生活史の方法
人生を聞いて書く
岸 政彦 / 筑摩書房
一人の人間の人生の語りを聞いて書き起こす、社会学の調査方法の一つである「生活史」。昨今では専門領域を超えて、文学的な面からも注目を集めています。本書は、その第一人者と目される著者が“作品としての生活史”をつくるうえでの方法について書いた一冊。著者が実践してきた聞き取りから書くまでのプロセスが、細かい部分までオープンにされています。他者の言葉を聞き、書くことは、日常生活ではなかなか経験しないコミュニケーションです。簡単なことではないですが、本書をきっかけに生活史を書くことにトライしてみたくなるでしょう。
 

置き配的
福尾 匠 / 講談社
1992生まれの批評家・哲学者の著者による文芸誌『群像』での連載が単行本化されたもの。「置き配」とは、コロナ禍中に一般的になった、配達人が受取人に直接荷物を手渡すのではなく玄関前などに荷物を置き、その連絡だけが届く配達方法のこと。“置き配的なシステムには現代の世界のあり方が凝縮して現れている”と著者は指摘します。わかりやすく「置き配的とは何か?」を解説する内容ではないですが、社会の変化を新しい視点で切り取った批評集であり、情報社会論としても読める一冊。 
 

「ソロ」という選択
ピーター・マグロウ / 青土社
ひとりで暮らす人が世界的に増えています。本書によると、ひとりで暮らす成人の数は過去50年間で2倍に増加し、最も多いノルウェーで全世帯の約46%、アメリカで約28%だそう。それでも「異性との恋愛を経て結婚し家族を持つ」ことが幸せの象徴というイメージは根強く、単身者はどこか「仕方なしに」ひとりで暮らしているイメージが付きまといます。本書では、行動経済学者であり、その名も『ソロ』というポッドキャストを主宰する著者が、ソロで生きることの豊かさを説く一冊。同時に、社会に流通する「幸せ」のイメージに一石を投じます。単身者世帯が約38%の日本でも気にしておきたいテーマ。
 

本質観取の教科書
みんなの納得を生み出す対話
苫野 一徳、岩内 章太郎、稲垣 みどり / 集英社 
「本質観取」という多くの人には聞き慣れないであろう言葉。これは1859年生まれの哲学者・フッサールが提示した、ものごとの「本質」を捉えるための手法です。本書はこの手法を用いた哲学対話のやり方を提案する一冊。本の前半は「本質観取」という概念が提示されるまでの哲学の営みを簡潔に振り返り、後半ではそれを用いた哲学対話の具体的な方法が紹介されています。哲学対話ではそれぞれの考え方の違いを知ることに重きが置かれることが多いですが、本質観取では「共通理解」を築くことが目指されます。対話から実践へ繋げる手法として注目したい内容です。
 

生きるための表現手引き
渡邉 康太郎 /News Picks Publishing 
デザインファームTakramに所属し、コンテクストデザイナーという独自の肩書きでの活動が注目される著者による初めての商業出版本。なにかを「つくる」ことや「表現する」ことは、特別な能力を持った人にしかできないこと、と考えてしまいがちですが、本書はそんな先入観を解きほぐすことを目指して書かれています。例えば本書では「模倣する」「集める」「つくってもらう」ということまで、「つくる」という項目の中で語られています。デザイン教育を受けずにデザイナーとして活動する著者の実践知が詰まった一冊。
 

「予想外」を予想する方法
キット・イェーツ / 草思社 
英国バース大学の数学講師であり、日常的な事象と数学の関わりを解く一般向けの著作活動やレクチャーにも積極的な著者が「予測」について書いた本書。科学的、合理的な思考が重視される現在でも、人はさまざまなことを予測しては大いに外したり、突拍子もない予測を信じこんだりを繰り返しています。そうなる理由は人間の認知にさまざまなバイアスがあるから。数学の知見を使い、そのようなバイアスを解きほぐしていくことが本書の目指すところです。果たしてどこまで予測は予測可能なのか。不確実性の高い時代と言われる今、身につけておきたい知識が詰まっています。
 

日本のまちで屋台が踊る
中村 睦美、今村 謙人、又吉 重太/ 学芸出版 
2023年に自費出版で刊行され密かに話題になった本書が、建築、まちづくり、コミュニティデザインの本を数多く手がける学芸出版社から新版として再登場。路上に出て屋台を始めた5名へのインタビューと、文化人類学、社会学、哲学などの研究者から見た屋台についてのインタビューなどが収録されています。商売のルールが整備され、どんな土地も誰かが所有している都市の中で、踊るように自由に動き回る屋台は時に“グレー”な存在となります。そんな屋台についての語りからは、まちのあり方、働き方、暮らし方の“あたりまえ”を捉え直す視点が浮かび上がってきます。
 

あなたはなぜ雑談が苦手なのか
桜林 直子 / 新潮社 
“2020年のはじめに「雑談」を仕事にしてから5年半が経つ”という書き出しで始まる本書。「雑談を仕事にする」というフレーズには頭に「?」が浮かびますが、マンツーマンで1回90分の有料の雑談をこれまでにのべ3000回以上実施しているそうで、その持続的な人気ぶりがうかがえます。そんな著者による本書は、雑談のテクニック集ではなく、雑談とはなにか、なぜ必要なのか、など根本的なところから問い直す一冊。当たり前のようにやっている雑談が、自分を知り、他者と共に生きるための大切な営みであることが垣間見えます。
 
 

HUMANISE 建築で人間味のある都市をつくる

トーマス・ヘザウィック  
草思社

ロッコク・キッチン

川内有緒 
講談社

生活史の方法 人生を聞いて書く

岸政彦 
筑摩書房

置き配的

福尾匠 
講談社

「ソロ」という選択

ピーター・マグロウ    
青土社

本質観取の教科書 みんなの納得を生み出す対話

苫野一徳/岩内章太郎/稲垣みどり 
集英社

生きるための表現手引き

渡邉康太郎 
News Picks Publishing

「予想外」を予想する方法

キット・イェーツ 
草思社

新版 日本のまちで屋台が踊る

中村睦美/今村謙人/又吉重太 
学芸出版

あなたはなぜ雑談が苦手なのか

桜林直子 
新潮社