記事・レポート

本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2025年5月~

更新日 : 2025年05月27日 (火)

毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、いま知っておきたい10冊をご紹介します。

今月の10選は、『ケアと編集』、『僕たちは言葉について何も知らない』など。あなたの気になる本は何?

※「本から「いま」が見えてくる新刊10選」をお読みになったご感想など、お気軽にお聞かせください。











ケアと編集
白石正明 / 岩波書店


「編集」と「ケア」、一見関係がなさそうな二つのこと。
「ケアをひらく」という、現在まで続く一連のシリーズ本を長く手がけてきた白石正明氏は、その二つに関係性を見出し、ケアを通じて編集を、編集を通じてケアを読み解くことを試みます。

編集者として多くの福祉施設や看護施設などのケアの現場を訪れてきた著者は、その実践者、当事者、研究者などの話を聞きながら、社会の中での「あるべき姿」に人を合わせて行こうとする方向性の治療とは反対に、その人のその人らしい姿に合わせて環境や物事の捉え方を変える(「あなたと環境との噛み合わせを変え」る)ことでその人がケアされていくことを発見します。そのことは、新たな文脈を作り、あるがままの姿に光を当て輝かせていく「編集」という技法に似ている、と著者は考えます。

ケアという行為や概念はケアの現場だけでにあるのではなく、あらゆる仕事に、日常の中に存在し、人と人が共に生きることを支えています。ケアとは何か、どのように実践してゆくことができるのか。ケアという営みを捉え直す一冊です。

 

僕たちは言葉について何も知らない 
小野 純一 / ニューズピックス 
注目される言語学者である著者による、初めての一般読者向けの本書。言葉とは何か、という大きな問いを「言葉は記号である(論理性)」「言葉には含みがある(記号性)」「言葉は〈場〉である(相互作用性)」というの三つの見方を軸に丁寧に検討していきます。社会的・公共的でもあり、個人的なものでもある言葉は、必然的にミスコミュニケーションをはらんでいます。言葉を使い続けることには孤独を伴いますが、一方で言葉を見つめ直すことは、他者との関わりをより豊かで刺激的なもに変えてくれるはずです。
 

はじめてのリビングラボ 
「共創」を生みだす場のつくりかた
太村 篤信, 安岡 美佳 / NTT出版
欧州でさかんなリビングラボを初めて日本語で包括的に紹介する本書。「リビングラボ(LivingLabs)」とは、暮らし(Living)と実験室(Labs)を組み合わせた言葉で、市民や企業、公共機関、大学などが協働して社会課題の解決や新しい価値を生み出すための仕組み、と説明されます。大きな特徴は、暮らしの当事者が生活を営む場所で参加していること。国内外の事例も掲載され、具体的なイメージがつかめます。会議室ではなく現場で起きていることを起点にした課題解決の方法論には、さまざまな可能性が開かれています。
 

ごみと暮らしの社会学 
モノとごみの境界を歩く
梅川 由紀 / 青弓社 
ごみとは何か、ごみとモノの境界はどこにあるのか。そんなことを考えたことがある人がどれだけいるでしょう。どうしてもネガティブに捉えられがちなゴミを、「問題」としてではなく「生活文化」として捉えることを目指して書かれた本書は、人類学、哲学、社会学などさまざまな先行研究や雑誌などの資料を参照しながら、「モノ」から「ごみ」への変質の過程を解像度高く探っていきます。暮らしの中での「もの」との付き合い方について考えさせられます。
 

あたらしい散歩
専門家の目で東京を歩く
大北 栄人, 林 雄司 / 株式会社Pヴァイン  
タイトルの通り、色々な分野の専門家と東京を散歩する本。これだけ聞くとなんの変哲もないようですが、ページをめくると一気に惹きつけられます。野草研究者と歩くと渋谷の大通りの歩道に蕎麦が生えているのを見つけたり、接着剤メーカーの人と歩くと、街にどれだけ接着剤が使われているか見えてきたり、街の見え方が一変します。どんな知識体系を持っているかで、物事の捉え方が大きく変わることを体感できる一冊。
 

スロー・ルッキング
よく見るためのレッスン
シャリー・ティシュマン / 東京大学出版会 
ハーバード大学教育学大学院講師である著者による、「見ること」の探究の書。美術館や博物館での鑑賞、自然や街中での観察、気象の観測など、多様な「見る」についての方策と実践が平易な言葉で書かれています。注意力を奪いあう情報に囲まれ、「人間の注意力は8秒しか続かない」という研究結果も出ている昨今。ゆっくり、時間をかけて、よく見ることが私たちにもたらす可能性に気づかせてくれます。
 

12ヶ月で学ぶ現代アート入門
山本 浩貴 / 美術出版社 
2022~23年にかけて美術手帖のウェブにて連載された「10ヶ月で学ぶ現代アート」を加筆修正して書籍化したもの。各章がコンパクトにまとめられ、難解な部分も少なく読みやすい一冊です。現代アートの入門書はいろいろな著者により出版されますが、「現代」が更新されていくにつれ、不可避的に「アート」も移り変わっていくもの。現代アートを観ることは、今という時代の様相を読み解くことにつながることを示してくれます。
 

忙しいのに退化する人たち
やってはいけない働き方
デニス・ノルマーク, アナス・フォウ・イェンスン / サンマーク出版 
2018年にデンマークで発表されると現地で大きな話題をさらった本書。知識労働者やオフィスワーカーを対象としたある調査での、「その人たちの仕事は全く具体性がなく、実際特になにもせずかなりの時間を過ごしている」という結果についての討論をきっかけに本書に取り組み始めた著者たち。二人はそんな実体のない仕事を「偽仕事(Pseudo work)」と名づけ、その実態と発生過程に迫ります。テクノロジーが発達し、手も頭も動かす必要性が減ってきたはずなのに、なぜわたしたちは「仕事をしている」ことにこだわるのか。自分の足元見つめ直したくなる一冊です。
 

立ち読みの歴史
小林 昌樹 / 早川書房 
タイトル通り「立ち読み」を通じてたどるユニークな読書史。そもそも江戸時代は「音読」がメインだった読書という行為。当然ながら現在のような書店もありません。それがどのような変遷を経て、書店での「立ち読み」が当たり前の光景になっていったのか。国立国会図書館で利用者からの調べ物に対応する業務に15年間従事した調べ物のエキスパートである著者が、探偵のように文献を辿ります。意外な起点から物事の歴史をたどる面白さを体感できます。
 

WORKSIGHT[ワークサイト]27号
消費者とは Are We Consumers ?
WORKSIGHT編集部(編), インテージ(編) / 学芸出版社 
コクヨのリサーチラボ「ヨコク研究所」とコンテンツレーベル黒鳥社がつくる定期刊行誌「WORKSIGHT」。植物、ゾンビ、詩、子供など、毎回意外性のあるテーマが取り上げられますが、最新号のテーマは「消費者とは」。言葉として当たり前のように使われ、当たり前のように存在していると考えられる「消費者」は、いつから社会の中に登場し、これからどうなっていくのか。企業と顧客の関係性が一様ではなくなりつつある時代の流れを「消費者」をキーワードに再検討しています。
 
 

ケアと編集

白石正明 
岩波書店

僕たちは言葉について何も知らない

小野純一 
ニューズピックス

はじめてのリビングラボ

木村篤信, 安岡美佳 
NTT出版

ごみと暮らしの社会学

梅川由紀 
青弓社

あたらしい散歩 専門家の目で東京を歩く

大北栄人, 林雄司 
株式会社Pヴァイン

スロー・ルッキング よく見るためのレッスン

シャリー・ティシュマン 
東京大学出版会

12ヶ月で学ぶ現代アート入門

山本浩貴 
美術出版社

忙しいのに退化する人たち やってはいけない働き方

デニス・ノルマーク, アナス・フォウ・イェンスン 
サンマーク出版

立ち読みの歴史

小林昌樹 
早川書房

WORKSIGHT[ワークサイト]27号

WORKSIGHT編集部(編), インテージ(編) 
学芸出版社