記事・レポート

今こそ読みたい『古くて新しい記事』

~ストックされた知識から学ぶということ~

更新日 : 2021年02月16日 (火)

『古くて新しい記事』2016



  
過去の書籍、映画、音楽ライブ、演劇など、これまでにストックされてきた素晴らしいコンテンツの数々がいま再び脚光を浴びています。コンテンツを一過性で消費して終わりではなく、過ぎた時間と照らし合わせることによって気づきを得られることもある、と私たちは考えます。
 
この企画では、アカデミーヒルズでストックされているイベントレポート「古くて新しい」記事をピックアップしてお届けしてまいります。私たちは過去の登壇者のお話から今、何を学べるのか?
自分を内省する時間の糧として、今でも新たな発見やヒントが散りばめられている過去の記事を読み直してみませんか。

 2016年 はどんな年?

2016年はポピュリズムの台頭が国際情勢に影響を及ぼした年でした。英国は6月に実施した国民投票の結果、僅差で欧州連合(EU)離脱を決定し、世界を驚かせました。東欧からの移民によって仕事が奪われているという不満や、EUの規制が英国に不利に働いているなどの不満が強いことが原因と言われています。
 
また、米国では当初の予想に反して、排外主義を掲げるドナルド・トランプ氏がヒラリー・クリントン氏を破り、大統領選に勝利しました。トランプ氏は既存政治に不満を持つ人々の支持を集め、暴言ともいえる率直な言葉はむしろ、不満を持つ人々の気持ちを代弁してくれるとさえ思われたというのです。
 
一方で、米国の大統領として任期最後の年を迎えていたバラク・オバマ氏は、2016年に現職の米大統領として初めて被爆地広島を訪問し、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に献花し、就任当初から訴えてきた「核兵器なき世界」を追求する重要性を演説で述べました。
オバマ氏の広島訪問を受けて、同年12月には、第二次世界大戦で日米開戦の舞台となった真珠湾を安部晋三前総理が訪問し、犠牲者を慰霊したことも話題となりました。
今年、2021年1月に、批准国が50カ国に達したことで核兵器禁止条約が発効したことがニュースとなりました。核保有国とその傘に守られている日本は批准していませんが、条約が発効したことは核兵器廃絶に向けた大きな一歩となっています。

国内では、リオデジャネイロ五輪で過去最多の41メダルを日本が獲得し、盛り上がりました。まさか4年後の2020年に東京で五輪が開催できない事態となるとは、誰も予想できませんでした。
また、2016年は熊本で震度7の大地震が発生し、大きな被害が出たことも記憶に新しい人もいるでしょう。2016年は東日本大震災から5年という節目の年でもありました。そして2021年の今年は、東日本大震災から10年の節目となります。災害国日本において、一人一人がどのように自分たちの身を守るかを改めて考える必要があるのではないでしょうか。
 

 2016年 ピックアップ記事

この年の公開記事からピックアップするのは、当時より少し前から注目されていた人工知能(AI)と人間のかかわりに関する講演録です。オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が2013年に発表した論文「雇用の未来」では、AIによって20年後の将来には47%の仕事がなくなるという衝撃の結論が導き出され、その後、世界中で「AIに仕事を奪われたときに、人間にしかできないこととは何か」という議論が活発になりました。
 
安宅和人さんと為末大さんの講演録はまさに、人工知能時代に人間に求められる能力について議論したものです。一方でIDEOのデザインディレクター・Gregory Perezさんにデザイン思考のプロセスについてお話いただいたセミナーも、いかに人間ならではの視点でビジネスにイノベーションを起こしていくかがテーマでした。
 
アートと社会のかかわりについての講演録も2本ご紹介します。南條史生・前森美術館館長と竹中平蔵・アカデミーヒルズ理事長がアートと社会について語ったセミナーでも、人間にしかない「クリエイティビティ」が重要テーマとなっています。もう1つの写真家の川島小鳥さんの記事からは、私たちの日常生活を切り取ることから見えてくるものについて考えています。
 
今回新しくコメントをお寄せくださったのは、IDEOのGregory Perezさんです。
その後、東京を離れて現在はニューヨークに在住するPerezさんに、外から見た日本について、英語でお書きいただきました!
 
 

IDEO: Designing Human Experiences
【登壇者】
Gregory Perez[IDEO Tokyo デザインディレクター]
モデレーター:石倉洋子[一橋大学名誉教授]
【連載開始】2016年7月



当時、ビジネスにおける「デザイン思考」が注目を集めており、製品の外観的なデザインのみならず、製品を介したユーザー体験から企業の経営戦略に至るまで、デザイナーが介入する場面が増えていました。
「デザイン思考」を提唱した世界的なデザインコンサルティング会社IDEOの「デザイン思考」のプロセスを同社のデザインディレクターのGregory Perezさんに直接学ぶことができる本セミナーは大変反響が高く、通訳なしの英語での開催にもかかわらず、すぐに満席となり、キャンセル待ちの問合せが相次ぐほどでした。英語で行われた本セミナーのレポート記事は、多くの方の関心に応えるべく、日本語と英語の両方で書かれています。
 
Perezさんのトークのキーワードは「人々の欲求(desirability)から考えること」、そして「好奇心旺盛(curious)でいること」。
イノベーションが起きるためには、「実現可能性」「経済的持続性」「人々の欲求」の3つの柱が必要だとPerezさんは言いますが、何から考え始めるのか、その順番が大事だと言います。通常のビジネスだと、どうしても最初の2つから考えがちですが、IDEOでは「人々の欲求(desirability)」つまり「それは本当に人々が求めるものか、人々の生活に重要なものなのか」を潜在レベルで徹底的に最初に考えるのです。
 
潜在的な人々の欲求にこたえるためには、常に「好奇心旺盛」でいることが重要で、ご自分の仕事はその一言に集約されると言い切るPerezさん。AIやコンピューターが持たない「人間ならではの能力」の重要な要素の1つとして「好奇心」について考えさせられます。
 


Gregory Perez さんからコメントを頂きました。

For me, 2020 was about Urgent Adaptability. Here in New York City, where I’ve been based since leaving Tokyo in 2019, we experienced the extremes of the COVID-19 crisis, a reckoning with racial injustice, and a fraught presidential election. The people of NYC began to question what they truly need and how they want to live. Many businesses adapted quickly to meet those needs.
 
Large U.S. companies like Amazon, Google and Ford adjusted their approach to distribution, digital tools, and manufacturing at scale. Younger companies like Peloton, Slack, and DoorDash found success by serving people’s fitness, workplace, and food needs from home. Restaurants made ad hoc adjustments to stay afloat while staying safe, such as makeshift outdoor dining structures. Traditional businesses rooted in real estate, in-person service, and non-digital transactions have struggled to stay alive.
 
I admire how Japanese society respects public safety and strives for the collective good. This mindset has contributed to how Japan has managed to keep COVID under control, relative to the U.S. I’m curious how Japan will continue to adapt to what people need in this unique time. How could policymakers create more room for rapid innovation? How do workplaces develop the tools and culture for more satisfying remote work? And how could businesses find new practicality from existing infrastructures while encouraging new models of growth?

At IDEO, we envisioned how COVID-19 could impact Japanese society through a series of provocations called “Emergent Futures,” exploring themes such as optimizing space, digital identities, and even resilient relationships. The post-pandemic future is unknown, but we have ideas for how together we can adapt quickly and continuously to this new reality.


※Emergent Futures 日本語版はこちら 「Emergent Futures 〜新たな未来の兆し」
 IDEOのアフターコロナに向けた視点がまとめられています。

撮って、残して、味わって。 
写真家・川島小鳥が語る「写真を撮る理由」
【登壇者】
川島小鳥[写真家]
モデレーター:古川誠[オズマガジン編集長]
【連載開始】2016年4月



1人の少女を4年間撮り続けた『BABY BABY』や佐渡島の少女の日常を撮った『未来ちゃん』など、一度見たら脳裏に焼きついて忘れられない表情を撮った作品で話題となっていた川島小鳥さんが2014年秋の六本木アートカレッジにご登壇くださり、写真の世界に飛び込んだ理由から、写真を撮ること、残すこと、味わうことについて語ったときの記事です。
「どうだ!」とドヤ顔で見せる写真ではなく、「ありふれた日常を切り取りたい」という川島さんの想いが作品になる過程が展開されています。通常、カメラを向けられると、誰もが「本当に自然な姿」でいることは難しいはずですが、川島さんの写真に登場する人が、なぜ皆、自然体で写っているのかの理由も知ることができます。
 
また、デジタルの時代にフィルムにこだわる理由や、写真集に収められた200枚は、台湾に通って撮影した7万枚の写真から厳選されたものだということ、そして写真は見た人たちのそれぞれの感性で感じて欲しいから、自分の想いやメッセージは伝えないことなど、川島さんの作品の背景にある世界が伝わってきます。
誰もがスマホできれいな写真を撮ることができるようになった現代。メッセージや想いがたくさん込められた商品やサービスが多い現代。だからこそ、写真家としてどういう想いで撮影をしているのかが重要だということが感じられる一方で、自分の想いを決して作品を受け取る側に「押し付けない」というアーティストとしての信条を持つ川島さんのお話から、その両者のバランスについて考えさせられます。

「人工知能時代」に求められる能力と学び方
安宅和人×為末大の未来対談 
【登壇者】
安宅和人 [ヤフー株式会社 チーフストラテジーオフィサー]
モデレーター:為末大[元プロ陸上選手]
【連載開始】2016年8月


 
「AIによって人間の仕事の大半が奪われる」というマイケル・オズボーン教授によるオックスフォード大学の論文は、未来学者レイ・カーツワイル博士による、2045年には「AIが人間の知能を超える」シンギュラリティを迎えるという主張とも相まって、当時ビジネスパーソンの間で不安が高まっていました。
 
その不安に対してタイムリーに「AIができること、できないこと」を解説してくださったのが、安宅和人さんと為末大さんのトークです。
「AIにできないこと」として列挙されていることを見ると、人間にしかできないことが明確になります。「AIは人間を代替する存在ではなく、人間を幅広くアシストする存在になるはず」であり、「当分の間、人類の脅威とはならない」と安宅さん。
 
しかし、そうは言っても、ビッグデータ×AIはビジネスに多大な影響をもたらすとして、具体的に企業の経営が5つの点で大きく変わることが明確にされていきます。
その上で、物事を総合的に見立てる、進むべき方向やゴールを定める、正しい問いを立てる、組織を力強く牽引する、ヒトを奮い立たせる --- こうした人間にしかできない能力を磨いていくことが大切になると解説する安宅さんのお話を聞いていると、それは人間にとって脅威ではなく、むしろ理想の世界となるのではないか、と思えてきます。
 
人間はこれまで、効率を求めて分業を進め、工場や会社の歯車としてだけ働くことが当たり前の時代もありました。それが非人間的であると批判されて久しいですが、いよいよ人間は歯車となることから解放されるのではないか、と。
 
記事の後半では、多くの方の関心がある「AI時代に人間に求められる学び」だけでなく、「人間の倫理観」にも深く関わる議論がお二人の間で展開されています。AIが提示する成功確率は高いけれども人間としては受け入れられないモラルに反することであった場合にどうするか、という倫理観の問題は、今でも私たちが継続して考えなくてはならないテーマであり、改めて深く考え直すきっかけをくれます。
 
「人工知能時代」に求められる能力と学び方 (記事全文はこちら)

シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第1回
未来のヒントはアートにある? ~アートと社会~ 
【登壇者】
竹中平蔵[アカデミーヒルズ理事長/東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授]
モデレーター:南條史生 [森美術館館長]
【連載開始】2016年9月



2016年度の六本木アートカレッジは、1年間を通して「これからのライフスタイルを考える」をテーマに、セミナーシリーズを10回開催しましたが、この記事のセミナーがキックオフとなる第1回目でした。
社会が複雑になり、変化のスピードが激しい時代にアートは私たちに未来を考えるヒントや、新しい視点をくれると言われます。この講演では、森美術館の館長だった南條史生さんが、個別のアート作品を解説しながら、どのようにアートを読み解いていくかについて語り、竹中平蔵・アカデミーヒルズ理事長とともにアートと社会の関わりについて議論を展開しました。
 
この記事では、南條さんがアートの「読み方」を参加者の皆さんとともに考えるために、数多くの現代アート作品を解説して下さっています。作品は、受け手に体験を促す大規模なプロジェクトから、最新テクノロジーを使った人間の倫理観を揺さぶるものまで多岐に渡り、それらの作品を実際に見られなくてもWEBで検索して見てみるだけで、自分の「読み方」で作品を楽しむことができます。
 
また、この記事でもIDEOの講演録と同様に「好奇心」というキーワードが出てきます。
アートは商業的な目的よりは好奇心で作られるものであり、それを誰かが「読む」ことで意味が付与され、結果的に社会的価値・経済的価値につながっていくものだ、と南條さんは言います。アーティストのクリエイティビティは「好奇心」から生まれるのです。
そして、そのアートが提起する社会の問題をどのように解釈し、何を変え、何を創造していくのかは、社会に生きる私たちに委ねられているといいます。受け手側は受け身で鑑賞するのではなく、自分の視点で読み解くクリエイティブさが求められると考えると、アーティストだけでなく、社会の誰もが好奇心を持つべきなのではないでしょうか。
 
未来のヒントはアートにある?(記事全文はこちら)


※記載されている肩書は当時のものです。
 



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