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セミナーレポート:IDEO: Designing Human Experiences

活動レポートグローバル経営戦略政治・経済・国際
更新日 : 2016年07月21日 (木)

文/清水 写真/御厨 慎一郎
セミナー開催日:2016年6月29日

世界的なデザイン会社、IDEOが提唱する「デザイン思考」は、ビジネスにイノベーションを起こす方法として注目されています。IDEO TokyoのGregory Perez氏をお迎えしたグローバル・アジェンダ・シリーズ2016の4回目セッションは満席でキャンセル待ちの問合せが相次ぎ、人々の関心の高さを反映しました。本レポートでは、気になるセミナーの内容をご紹介します。

【Report:English Version】

   

すべては人への好奇心(curiosity)から始まる


Perez氏のプレゼンテーションは、IDEOの概要、変遷、世界におけるIDEOの仕事についての解説から始まりました。IDEOの仕事は、curious(好奇心旺盛)であることが求められ、また自分の仕事がどれだけのインパクトを与えられるかという視点を大切にしていることが伝わってきました。

IDEOにおける私の仕事は、好奇心旺盛でいることです。そして人から刺激を受け、人々を刺激することです。」とPerez氏。デザイナーとして、常に好奇心旺盛でいることは、人々が気付かないことにも気づき、潜在的な人々の欲求に応えるためにも重要だといいます。

「IDEOの目的はデザインを通じて、IDEOの規模からすると不釣り合いなほど大きなインパクト(disproportionate impact)をもたらすことです。(中略)大きな組織にいるからといって、自分の仕事のインパクトも大きいとは限りません。逆に小さい規模の組織でも、小回りがきいて大きなインパクトを与える仕事ができたら、そちらの方が面白いと思いませんか?」

以前はジャーナリストをされていたPerez氏ですが、IDEOでは医師、人類学者、心理学者、エンジニア等、あらゆる職業を経た人が働いていることを挙げ、デザイン思考の仕事をする上で多様な視点を確保することが非常に重要であるとも述べました。

その後、Perez氏の話はデザイン思考の3つの柱に続きます。
デザイン思考は「feasibility(実現可能性)」、「viability(経済的な持続可能性)」、そして「desirability(人々が望むもの)」の3つのパートからなっており、真のイノベーションはこの3つのパートが重なる部分で起こりますが、その中でもどれから始めるかがIDEOでは大切だと解説します。

最初の2つ ---feasibilityとviability--- から考える人が多い中でIDEOではdesirability、つまりは人々の欲求を考えることから始めるといいます。「人はそれを欲しがるだろうか?それは人々の生活に重要なものだろうか?(中略)人々の欲求から考えるからこそ、人々の潜在ニーズを見つけ、デザインすることができるのです。」とPerez氏は強調しました。

Perez氏は、これから日本企業がグローバルに競争していくためには、デザイン思考こそが求められるといいます。日本は世界的に「カイゼン」で知られるように、改善を繰り返すことによって「1を100」にすることが得意です。デザイン思考は「0から1」を生み出すものであり、カイゼンとデザイン思考を組み合わせることで相互補完し、新たなものを創造するだけでなく、それをより良くしていくことができるのです。
   

デザイン思考のアプローチ、Perez氏が手がけたプロジェクトを解説!


それでは、IDEOにおけるデザイン思考のアプローチとはどのようなものでしょうか。Perez氏によると次の3つのフェーズがあるといいます。

第1フェーズのデザインリサーチでは、ユーザーと対話する中で得られるインスピレーションにじっくり向き合い、潜在的なニーズや可能性を探ります。

第2フェーズはリサーチで得たインスピレーションを統合していく作業です。バラバラのもののなかからテーマや傾向を見つけて統合し、ブレインストーミングによってコンセプトを創造していきます。リサーチで得られた人々への洞察を、将来を見据えてユーザーが本当に使いたいものにデザインする方法を考える作業です。

第3フェーズではプロトタイプを作ります。IDEOでは早い段階からアイディアを形にします。テストやフィードバックを繰り返しながら、ユーザーが本当に満足するものができると確信するまでプロトタイプを続けます。

Perez氏はデザイン思考を進める上で、empathy(共感)、そしてprototyping(実際に作ってみること:Talk Less, Do More)が重要だということを具体例を挙げながら詳しく解説して下さいました。

その後、自身がアジアで担当したプロジェクトをいくつか紹介し、どのように仕事を進めたのかもお話いただきました。その中の一つ「Wall Street English」のプロジェクトは、中国において対面型英語学習の場所をデザインするというもので、下記IDEOのサイト(英文)で具体的に紹介されています。

Designing a Social Learning Environment in China
   

Desirabilityと従来の顧客重視との違いは何か?


参加者との質疑応答では、デザイン思考の仕事に関わる具体的なこと--- 異文化間のデザインをしたケースはあるか、どのようにデザインのインパクトを計るのか、プロジェクトのインパクトを長期的に残すために何をしているのか、失敗したケースについてなど--- を問うものが多く寄せられました。

モデレーターの石倉洋子氏との対談では、彼女から根源的な質問が投げかけられました。
「多くの企業はこれまでも顧客重視や顧客満足を掲げてきていますが、実際はそうではなくなることが多々ある気がします。そこで質問なのですが、どうしたらdesirabilityから始めることを徹底できるのでしょうか?

それに対して、Perez氏は次のように答えました。「マーケットリサーチは、ユーザーの過去の経験や行動を数値ではかるための体系的手法ですが、人のdesirabilityを探るデザインリサーチは、もっと単純です。人々の欲求に耳を傾け、理解し、共感するためには、シンプルにあなたがデザインするものを使うユーザーに質問をすることから始めれば良いのです。」

「IDEOでは少数---12名から20名くらい---の規模のリサーチから始めますが、クライアントには『それで十分か?』といつも聞かれます。でも、一人一人と時間をかけて向き合い、深層心理を探るデザインリサーチでは、10名程度でも十分インスピレーションは得られ、パターンが見えてきます。実際に商品やサービスをリリースする前に、市場規模などをはかる場合には、従来のマーケットリサーチが有効でしょう。(中略)Curiousでいることが人々の潜在的ニーズを引き出す良い質問へとつながり、そこからインスピレーションを受けることができます。Curiousでいることは、IDEOのデザイナーとして最も重要なことなのです。」

石倉氏はセミナー冒頭の挨拶で、デザイン思考との出会いとそれが彼女に与えたインパクトについて語っていました。

世界経済フォーラムの会合でIDEO主催のワークショップに参加してデザイン思考と出会ったという石倉氏。これまで主流だった事業構造・企業分析やMBAで教えているフレームワークだけでは限界があり、それに比べてイノベーションを起こすデザイン思考は、まさにこれからの時代に求められるものだ、と大きく刺激を受けたといいます。

教鞭を執っていたビジネススクールを退任した後、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に移った石倉氏の背景には、デザイン思考との出会いがあったのでした。

デザイン思考が石倉氏の人生にインパクトを与えたように、Perez氏のお話に参加者も大いに刺激を受けたようです。

本セミナーについては、石倉氏の公式ブログに彼女の感想が書かれていますので、ぜひご覧ください。

本レポートの英語版

本レポートの英語バージョンは こちら からご覧いただけます。

該当講座

IDEO: Designing Human Experiences
Gregory Perez (IDEO Tokyo デザインディレクター)
石倉洋子 (一橋大学名誉教授)

ゲスト講師であるPerez氏が手がけたプロジェクトをもとに、世界的なデザイン会社であるIDEOの「デザイン思考」のプロセスを学びます。


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