記事・レポート

今こそ読みたい『古くて新しい記事』

~ストックされた知識から学ぶということ~

更新日 : 2020年12月15日 (火)

『古くて新しい記事』2014



  
過去の書籍、映画、音楽ライブ、演劇など、これまでにストックされてきた素晴らしいコンテンツの数々がいま再び脚光を浴びています。コンテンツを一過性で消費して終わりではなく、過ぎた時間と照らし合わせることによって気づきを得られることもある、と私たちは考えます。
 
この企画では、アカデミーヒルズでストックされているイベントレポート「古くて新しい」記事をピックアップしてお届けしてまいります。私たちは過去の登壇者のお話から今、何を学べるのか?
自分を内省する時間の糧として、今でも新たな発見やヒントが散りばめられている過去の記事を読み直してみませんか。

 2014年 はどんな年?

2014年は1月に理化学研究所の小保方晴子・研究ユニットリーダーらが「新型の万能細胞」だとするSTAP細胞の論文が英科学誌『ネイチャー』に掲載され、画期的な発見と大きく取り上げられた華やかなニュースから始まりました。しかし、間もなく「論文に不自然な画像がある」と指摘され、理研は調査の結果、4月に「論文に不正があった」と認定しました。この事件は日本の科学技術史に暗い影を落としました。
しかし、年末には青色発光ダイオード(LED)の開発で、赤崎勇・名城大教授と天野浩・名古屋大教授、中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授がノーベル物理学賞を受賞し、日本人の研究者3名が「20世紀中には不可能」と言われたLEDの実用化に貢献し、世界の照明を変えた功績が認められたことは希望をもたらしました。
 
また、この年は国内で自然災害の辛い記憶が思い出されます。8月に広島市北部で豪雨に伴う土砂災害で多数の住宅が流される被害が発生したことは、多くの人々が心を痛めました。9月には長野県と岐阜県の県境にある御嶽山の噴火が登山を楽しむ人たちを直撃し、戦後最悪の火山災害となったことも人々に衝撃を与えました。
 
海外では、西アフリカで確認された「エボラ出血熱」の感染がアフリカ大陸以外でも欧米で拡大し、世界で2万人に感染するなど警戒感が高まりました。その後は感染が収束したことから、多くの人にこの感染症は忘れられてしまいましたが、いま、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、またニュースで目にすることがあります。
それは、新型コロナウイルス治療薬として現在日本でも重症患者に用いられている「レムデシビル」に関する報道のときです。同治療薬は「エボラ出血熱」の抗ウイルス薬として開発されていましたが、日本を含め、新型コロナウイルスに感染した患者にも使われています。レムデシビルについては、効果のばらつきや、使い方の難しさなどが指摘されており、世界保健機関(WHO)は「入院患者への投与は勧めない」と表明しました。日本では一定の効果を認める医師も多く、評価は各国で分かれていますが、日本政府は継続して投与する方針を示しています。
 
 
 
 2014年 ピックアップ記事
 
この年にアカデミーヒルズのサイトに掲載された記事で、今も多くの方に長く読まれ続けているのが日本企業へのアドバイス経験が豊富なRochelle Koppさんが「異文化間のコミュニケーション」について丁寧に解説してくださった講演録です。今回はKoppさんの記事をピックアップし、改めて異なる文化を持つ人たちと働くために必要なことについて考えるきっかけとなればと思います。

他に取り上げたのは、「くまモン」のデザインをした水野学さんと作家の阿川佐和子さんお二人の互いの「聞く力」が壇上で展開されたトークの記録、「地域ぐるみ」で子どもを育てる「まちの保育園」を運営する松本理寿輝さんがチャレンジする新しい保育のカタチ、2013年に立ち上がった「ハフィントンポスト日本版」の当時の編集長と田畑信太郎さんが厳しさを持って対話した「ネットメディアが目指すこと」についての講演録など、当時話題となったテーマに関連する記事です。
また、旅を自由にできない今だからこそ読みたい、「旅の本」に関するブックトークの記事は、「人はなぜ旅をするのか」ということに想いを馳せながら、自分の旅を振り返るきっかけをくれます。
 
今回新しくコメントを下さったのは、Rochelle Koppさんです!
 

日本型ビジネス文化の特徴とグローバルコミュニケーションスキル
世界で活躍するために必須のノウハウを解説:ロッシェル・カップ
【登壇者】
Rochelle Kopp[ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社 社長]
【連載開始】2014年4月



経済のグローバル化が進み、海外とのビジネスの機会が増えた日本人にとってハードルとなっているのは「英語」だけではありません。文化の違いに端を発したコミュニケーションの齟齬が、グローバルビジネスの現場では日常的に起きています。外国人との協働で求められるマインドセットを説くKoppさんの講座には、グローバルビジネスの現場で苦労する多くの悩めるビジネスパーソンが参加しました。
 
異文化コミュニケーションでは、相手の国の文化を知ることも必要ですが、相手との違いを考える前にまずは自分自身について客観的に理解することが重要だ、と語るKoppさん。コミュニケーションスタイルや、言葉への依存度を示すチャートを用いながら、分かりやすく日本人の特徴を解説していきます。
その上で、外国人とのコミュニケーションを円滑にする「フィードバック」の方法を「ポジティブ・フィードバック」と「ネガティブ・フィードバック」に分けて丁寧に解説される様は、内容が実践的なだけでなく、まるでKoppさんがそばにいて優しく寄り添ってくださり、励まされている感覚になります。
今でもこの記事を多くの人が読んで下さるのは、グローバルビジネスの現場で奮闘する人たちに「寄り添う」感覚をくれるからかもしれません。

Rochelle Koppさんからコメントを頂きました。

photo by Masami Ataka 2013年にこの話をした際、異文化理解は既に日本人のビジネスパーソンにとって必須であったと言えます。そして現在、その必要性と大切さが増しつつあるのではないかと思います。日本企業は急速に海外拠点網を築き、海外で大型企業買収を実施したり、「◯◯年までに当社の売上の◯◯%は海外からを目指す」のような発言をしたりしています。一方、外資系企業は日本に事業を拡大して、日本人にとって魅力的な就職先になっています。日本で働いている外国人の数も増加中です。そのため、2013年に話した内容はその時と比べてより多くの日本人にとって必要な知識になっていると思います。
自分の顧客、同僚、部下、あるいは上司が外国人になったら、最初は戸惑うかも知れませんが、文化のギャップを乗り越える方法を身に付けることが出来れば、良いコミュニケーションを取ることが出来るでしょう。

コロナ禍の結果として、現在は海外出張が出来ません。しかし、オンライン会議のおかげで、世界中どこでも、すぐに顔を合わせて話すことが出来ます。現地まで行けなくても、自分と異なる文化的背景や価値観を持っている人と接触する機会は現在においても沢山あります。そして、これからも増え続けるでしょう。
純粋な「国内」ビジネスが既に存在しない時代において、社員の一部だけではなく、全員が異文化コミュニケーションの達人になることが必要になっています。そのため、この記事が今後とも皆様にとって少しでも参考になったら嬉しいです。

 

「くまモン」『聞く力』にみる、魅力の引き出し方
阿川佐和子×水野学 対談
【登壇者】
水野学[クリエイティブディレクター/good design company 代表取締役/慶應義塾大学特別招聘准教授]
阿川佐和子[作家・エッセイスト]
【連載開始】2014年6月



大人気の「くまモン」をはじめ、数多くのアーティストやブランドのトータルディレクションを手掛けるクリエイティブディレクター、水野学さん。ベストセラー『聞く力』の著者で、1,000人以上へのインタビュー経験をもつ阿川佐和子さん。人やモノの魅力を引き出す力や、デザインとコミュニケーションの関係をこのお二人が軽快ながらも深く語り合います。
 
冒頭から「くまモンをデザインしたきっかけとは何ですか?」「クリエイティブディレクターとは何をする人ですか?」と、水野さんのお仕事に関して質問を重ねていく阿川さんの「聞く力」の凄さが際立ちます。当時、阿川さんの『聞く力』が150万部のベストセラーとなっていました。その理由もここで明かされます。それは、プレゼン力など自分から発信する力について書かれた書籍が多い中で、阿川さんの本は『人の話をひたすら聞く』ことも大切なコミュニケーション能力であることを示したからだと言います。
 
グローバル化とインターネットの発展で、日本でも「自分の意見をもち、YES/NOをはっきりしよう」など、自分をアピールすることに比重が置かれるようになりました。阿川さんはそこに違和感を持ち、「みんな、“アピール疲れ”していませんか?」と問います。そこから水野さんとの掛け合いで、日本語と英語の特性、さらには「デザイン」とは何か、という議論に及びます。「相手を思いやる気持ち」がデザインにおいて最も大切なこと、と言い切る水野さんのデザインに対するアプローチも余すところなく「聞き出されて」います。
 

「まちの保育園」が実践する、コミュニティデザイン
地域ぐるみで子どもを育てる
【登壇者】
松本理寿輝[ナチュラルスマイルジャパン 代表取締役]
古田秘馬[プロジェクトデザイナー/株式会社umari 代表]
【連載開始】2014年1月


 
2011年4月に練馬区の閑静な住宅街に開園した、独創的な取り組みで注目を集める保育園があります。園内にカフェやギャラリーを併設し、地域の人々との関わり合いの中で子どもを育てる「まちの保育園 小竹向原」です。同園は、現在は六本木、吉祥寺、代々木上原、代々木公園にも展開されています。

0歳~6歳までの大切な人格形成期の日常に、老若男女問わず多様な世代の人たちが関わることを目指す、松本理寿輝氏による教育アプローチの手法を詳細にお話頂いています。地域(まち)という資源をふんだんに活かした保育を行い、同時に保育園を地域の共有資源として開放し、人々の豊かな生活にも貢献しよう。保育だけでなく、まちづくりの新たなモデルとして展開していこうというコンセプトのもとに展開されているのです。
 
家庭内では大半の時間を母親と過ごし、保育の現場では保育士の多くが女性。子どもが接する人は若い女性に偏っており、さらに都市部では、“孤育て”に陥る家庭も増えています。セキュリティ強化のため、保育園は一般の大人が気軽に立ち寄れない場所にもなっている。そんな現状に違和感を持って、まちに開かれた保育園にするために、ゼロから奮闘してきた松本氏のお話は、幼児期の子どもの過ごし方を改めて問い直してくれます。
 
「まちの保育園」が実践する、コミュニティデザイン(記事全文はこちら)


ハフィントンポストは日本で新たな言論コミュニティを形成できるか?
松浦編集長が語る、ネットメディアの課題と未来
【登壇者】
松浦茂樹[ザ・ハフィントン・ポスト日本版 編集長]
田端信太郎[LINE株式会社 執行役員 広告事業グループ長]
【連載開始】2014年3月



2013年5月に創刊された「ハフィントンポスト日本版」の当時の編集長、松浦茂樹さんをお迎えして、田端信太郎さんのモデレートで開催したトーク。お二人は、共にネット言論サイト「BLOGOS」の立ち上げに携わったネットメディアのプロフェッショナルとして旧知の仲です。しかし、そこには「お友だち」と楽しく会話をする居心地いい雰囲気はありません。「良質な言論空間」を創るためにはどうすればいいのかを本気で議論しています。
 
同媒体は2005年にアメリカで創設され、2012年にはピューリッツァー賞を受賞。2017年4月、媒体名を「ハフィントンポスト」から「ハフポスト」に変更し、日本版もそれに倣っています。
米国版の創刊当時は、オバマ元大統領ら著名人の寄稿ブロガーが揃い、月に800万件寄せられる読者コメントの多さが特徴でした。日本版も創刊時はエンゲージメントを表すものだとして「コメント」重視を打ち出し、松浦さんも媒体差別化の1つと表現していました。そこに田端さんは鋭く斬り込みます。「そもそもコメント欄がなぜ大切なのか?署名記事を書く人に対して、コメントをつける人は安全地帯からワァワァ言っているだけで建設的な議論にはならないのではないか。」
 
ページビューが全てではなく、大切なのは世の中に対して、前向きな影響力を発揮できるメディアとなること。そのために必要なことは、「多様性を確保しながら、同時に議論の質を担保する」こと、そしてユーザーを上から目線で軽んじないこと。お二人の本気の議論から、今もネットが抱える問題の本質が垣間見えます。
 

人はなぜ旅をするんだろう? 旅の本、いろいろ
好きな本がみつかる、ブックトーク
【登壇者】澁川雅俊[ライブラリー・フェロー]
【連載開始】2014年3月



ライブラリー・フェローとしてブックトークを長きに渡り、展開してくださった澁川先生が「旅の本」をテーマにお話された記録。いま、旅が制限されているからこそ、旅の本を通じて色々な角度から「旅」を論じているこのブックトークは私たちに多くの気づきを与えてくれるでしょう。
 
「人の旅する心」が語られる本、観光地ではなく、旅人が自ら街々の裏側の深いところに潜り込まないと発見できない世界の路地裏の風景を集めた本についてお話があるかと思えば、古代の人類がどのように海を渡って地球のすべての大陸に広がっていったかという、通常は「旅の本」というジャンルには含まれない本も紹介されています。さらには「人間」ではなく「硬貨」が人の手から手、財布から財布へと渡るのを「旅」に見立てて書かれた本も・・・
 
漁船で遭難し、漂流の末に米国の捕鯨船に救助され米国において高等教育を受けたジョン万次郎の数奇な運命を描いた小説『ジョン・マン』(山本一力・著)や、遣唐使の随行員で日本に帰国中に遭難し、ベトナムまで漂流した宮廷人の物語『天平グレート・ジャーニー』(上野誠・著)など、偶然にも予期せぬ旅から運命が変わった人たちの数奇な旅、冒険物語などは、ステイホーム中にじっくり読んでみたい、と思わせます。
 
さらに、旅の移動手段として「歩く旅」や「自転車、バイクの旅」「鉄道の旅」など、それぞれの醍醐味が描かれた本や、究極の名宿と言われるホテルを集めた本から「野宿」を勧める本まで・・・「旅」という軸からこれほど多様な切り口から本を紹介することができるのだ、ということに感嘆を覚えます。
 
人はなぜ旅をするんだろう? 旅の本、いろいろ(記事全文はこちら)

 
※記載されている肩書は当時のものです。


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