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「人工知能時代」に求められる能力と学び方

安宅和人×為末大の未来対談

更新日 : 2016年08月24日 (水)

【前編】AIにできること、できないこと

ビジネス・学問における科学技術の第一人者10名が登場する『為末大の未来対談』(プレジデント社)。同書にも登場されたヤフー株式会社チーフストラテジーオフィサーの安宅和人氏は、東大大学院で生物学を専攻し、卒業後はマッキンゼー・アンド・カンパニーで消費者マーケティングに従事、その後、イェール大学で脳神経科学の博士号取得を経て現職に至るという、非常にユニークな経歴をお持ちです。そんな安宅氏と為末大氏が、いま注目を浴びる「人工知能」(AI)をテーマに、未来のビジネスと学びを展望するトークです。

スピーカー: 安宅和人 (ヤフー株式会社 チーフストラテジーオフィサー)
モデレーター:為末大 (元プロ陸上選手)

安宅和人 (ヤフー株式会社 チーフストラテジーオフィサー)
安宅和人 (ヤフー株式会社 チーフストラテジーオフィサー)

 
AIに対する誤解

安宅和人: 2014年秋、オックスフォード大学から出された論文には、「現在ある仕事の約半分は人工知能(AI)に取って代わられる」とあり、10~20年後に消える職業、なくなる仕事が羅列されていました。イーロン・マスクやスティーヴン・ホーキング博士も、AIがもたらす脅威についてたびたび指摘しています。はたして、AIは人類にとって脅威となるのか? それを考えるためには、「AIとは何か?」「AIには何ができるのか?」を知ることが大切です。

AIが注目されるようになった背景には、3つの環境変化があります。ネットに接続したデバイスが急増し、質の高い大量のデータ(ビッグデータ)がリアルタイムに収集できるようになったこと。ビッグデータを瞬時に処理できる、高度な情報処理能力を持ったハードウェアが登場したこと。そして、深層学習(ディープラーニング)に代表される情報科学が飛躍的に進化し、「機械が自ら学ぶ」技術が登場し始めたことです。

Googleが買収したDeepMindによって開発されたAIプログラム「Alpha Go」(アルファ碁)が、世界トップレベルの棋士に勝利したニュースが話題となりましたが、そのカギとなったのが深層学習でした。ちなみに、深層学習はあくまでもAIを構成する要素技術の1つです。正しくは、深層学習を含む機械学習や自然言語処理などの情報科学技術を、高度な情報処理能力を持つ計算環境に実装し、そこに特定用途に沿ったビッグデータを入れて学習・訓練したもの、それがAIとなります。

現状では、AIを“万能の機械”だと誤解している人が非常に多い。つまり、「AIだけでは何もできない」という根本的事実が見過ごされています。AIは、ビッグデータによる訓練・学習を重ねることで初めて価値を生み出します。また、高度な情報処理能力と学習機能を持つAIがあることで、初めてビッグデータが活かされる。その意味で、ビッグデータとAIは切り離せない関係にあるのです。




AIと人間の相違点

安宅和人: ビッグデータ×AIは3つの自動化をもたらします。「識別」「予測」「実行」です。

「識別」は、画像や動画、音声などの判別・仕分け・意味理解、異常検知などがあります。分かりやすい例はGoogleフォトでしょう。様々な画像や動画の特徴を識別し、自動的にグループ分けしてアルバムをつくったり、関連する複数の画像で自動的にコラージュをつくったりします。また、人間の歩行パターンを三次元解析して識別する「歩容解析」という技術も登場しており、人混みの中から挙動不審な人や、認知症の傾向を持つ人などを特定することができます。

「予測」は、売上や需要といった数値、ニーズや意図の予測、レコメンド機能に代表されるマッチングなど、すでに我々の身の回りで使われています。Amazonは2年ほど前、「顧客が購入する物をあらかじめ予測し、注文が入る前に出荷する」という特許を取得しています。頼んでもいないのに出荷されてしまうという、まるでジョークのような話が実用化されつつあります。そして近い将来、人間の心の動きや行動を精緻に予測する、AIベースのパーソナルアシスタントも登場するはずです。

「実行」では、表現生成や行動の最適化、作業の自動化など、人間にしかできなかった動きや作業ができるようになっています。例えば、デザイン。米国のTailor BrandというWebサービスは、いくつかの質問に答えると、数十秒後に企業などのロゴデザイン案を提示してくれます。このほか、車の自動運転システム、倉庫でピッキング作業を行うロボットなども登場しています。

このように、将来は人間が担っていた情報処理的な業務や定型的な仕事の大半は自動化され、従来の1万倍、10万倍といったレベルで効率化されます。しかし、AIが人間のすべてを代替する存在になるかと言えば、それは難しいと思います。AIには次のようなボトルネックがあるからです。

・意思がない
・人間のように知覚できない
・事例が少ないと対応できない
・問いを生み出せない
・枠組みのデザインができない
・ヒラメキがない
・常識的な判断ができない
・人を動かす力がない

AIは願望や欲望、価値観や性格など、個体としての意思を持たないため、ビジョン構築や目標設定ができません。また、人間の意思は知覚や感情と連動しています。AIに大多数の人に共通する感覚をデータとしてインプットすることはできても、AIが肌ざわり、色、味、香りなどに対して自ら評価・理解することはできません。好き嫌いの判断もできないため、「なんかしっくりこない」といった疑問を持つこともないのです。

AIは、サンプルとなる事例(データ)が大量になければ機能しません。一方で人間は、経験や知識のない状況でもアナロジー(類推)を働かせて対処できます。また、関係のない情報から物事のつながりや文脈を読み解き、それらを統合しながら問題提起や課題設定を行うこともできます。AIは、計算はできても問題をつくれない電卓のようなもので、自ら問いを生み出す能力はありません。同様に、多数の価値観や状況を俯瞰的に捉え、新たな枠組みをつくるような作業もAIにはできません。

意味の理解が欠落しているため、セレンディピティやヒラメキがない。例えば、紙を丸めたらメガホンになる、望遠鏡遊びができるなど、現象に新しい意味を見いだすこともAIにはできません。また、常識は場所や社会、時代によって移り変わる、非常につかみ所のないものですが、そのニュアンスや使い分けをAIに教え込んでいくのは、非常に困難な作業と言えます。

こうした点を踏まえれば、AIは人間を代替する存在ではなく、人間を幅広くアシストする存在になるはずです。つまり、AIが人類の脅威になり得るのかと言えば、当分それはないということです。




ビッグデータ×AIでビジネスが変わる

安宅和人: ビッグデータ×AIは今後、ビジネスに5つの変化をもたらすと考えられます。

1つ目は、一定以上の規模を持つ組織は、ビッグデータ×AI的な取り組みが不可避となること。開発や生産、物流、営業、サービスなど大半の業務は、ビッグデータ×AIによる自動化の対象となるからです。

2つ目は、情報の検索精度、リアルタイム分析の質が向上し、目的に合致しない異常値の検出も瞬時にできるようになるため、戦略・戦術の構築、日々の経営判断など、意思決定の質とスピードは劇的に向上します。

3つ目として、従来はプロセスに切れ目のあったPDCAサイクルが変わります。一度このサイクルを回し始めると、状況の識別・予測・実行が止まることなくループし続け、同時に実行結果から得た学びも即座にフィードバックされていくようになります。

4つ目は、集合知的なAIがビジネスの成否を分けるようになること。AIは学習素材となるデータが多ければ多いほど正確さを増していく、つまり“賢く”なり、価値を生み出しやすくなります。そのため、データホルダー同士、データホルダーとAIプラットフォーマーの連携が進むと思われます。

5つ目は、最終的にAIが担える部分に限界が来た時、機械にはできない人間的な接点(ヒューマンタッチ)が重要になることです。その意味でも今後は、ビッグデータ×AIが最もバリューを発揮する領域と、こだわりや温かみ、優しさといった人間ならではのバリューが最も発揮される領域、これらの見極めが非常に重要になっていくでしょう。

マネジメントも変わります。現在の経営資源は「ヒト・モノ・カネ」ですが、今後の経営資源は「ヒト・データ・キカイ(AI・ロボット)」となります。経営の主軸が、モノ・カネを適切に管理・活用するためのビッグデータ×AIに移っていくからです。また、現在のビジネスは、自動車に代表されるモノ・カネの産業と、Googleに代表されるデータ・キカイの産業に二分化していますが、今後は双方を高いレベルで融合した「未開領域」をいかに獲得するか、それが勝負の分かれ目になっていくと思います。

AIによって様々なことが自動化する中で、今後私達に求められるのは、より人間らしい能力、人間にしかできない役割となります。物事を総合的に見立てる、進むべき方向やゴールを定める、正しい問いを立てる、組織を力強く牽引する、ヒトを奮い立たせる。こうした能力を磨いていくことが大切になります。

該当講座


『為末大の未来対談』出版記念対談
『為末大の未来対談』出版記念対談

安宅和人(ヤフーチーフストラテジーオフィスサー)×為末大(元プロ陸上選手)スポーツ、教育、ビジネスの世界で活躍中の為末大氏が、人工知能、ロボット、ビッグデータや自動運転車などの科学技術の最前線で活躍されている10名との対談を著した『為末大の未来対談』(2015/12 プレジデント社)の出版記念セミナー。本においても第一章に登場される安宅和人氏がゲストです。


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