記事・レポート

今こそ読みたい『古くて新しい記事』

~ストックされた知識から学ぶということ~

更新日 : 2020年09月15日 (火)

『古くて新しい記事』2012



  
過去の書籍、映画、音楽ライブ、演劇など、これまでにストックされてきた素晴らしいコンテンツの数々がいま再び脚光を浴びています。コンテンツを一過性で消費して終わりではなく、過ぎた時間と照らし合わせることによって気づきを得られることもある、と私たちは考えます。
 
この企画では、アカデミーヒルズでストックされているイベントレポート「古くて新しい」記事をピックアップしてお届けしてまいります。私たちは過去の登壇者のお話から今、何を学べるのか?
自分を内省する時間の糧として、今でも新たな発見やヒントが散りばめられている過去の記事を読み直してみませんか。

 2012年 はどんな年?

東日本大震災の爪痕が各所に残る中、国内の全原発が一時稼働を停止し、電力供給不足が懸念されることもありました。それでも震災時の混乱からは落ち着きを取り戻しつつあった年だったと言えるかもしれません。
2009年に歴史的な政権交代が実現し、民主党政権が誕生してから3年あまり。この年の衆院選で自民党が圧勝し、政権を奪還しました。自民党の安倍晋三総裁は首相に選出され、第2次安倍内閣を発足。民主党政権に対する国民の落胆を示すかのように、民主党は結党時の議席を大幅に下回り惨敗しました。
 
一方海外では、米国大統領選で現職の民主党バラク・オバマ氏が共和党のミット・ロムニー候補を破り、再選を果たしました。4年前に「チェンジ」を掲げて熱狂的な支持を得て圧勝した当時の勢いはなく、上下両院の多数派が異なる「ねじれ」も解消できず、引き続き、厳しい政権運営を迫られました。
また、中国では習近平氏が中国共産党の総書記に選出され、胡錦濤国家主席から最高指導者を引き継ぐことが決まり、北朝鮮では前年に亡くなった金正日総書記を引き継ぎ、金正恩氏が労働党代表者会で、党最高ポストの第1書記に就任。近隣諸国でのトップの交代が進みました。

夏に開催されたロンドン五輪では日本勢が過去最多の38個のメダルを獲得し、大いに盛り上がりました。その後の銀座でのパレードには50万人がメダリストに声援を送るために沿道に駆け付けました。
体のあらゆる細胞になる能力を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)を開発した山中伸弥京都大教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことも、日本を盛り上げました。
 
 2012年 ピックアップ記事
 
東日本大震災の教訓を後世に残し、世界に発信しなければならない --- そんな想いを形にした書籍『日本大災害の教訓』をベースにしたセミナーは、私たちが次の大災害にどう備えるべきかを参加者と考える試みでした。
他に、オープンに誰でもウェブで学ぶことができる「オープンエデュケーション」の可能性について第一人者の飯吉透氏がお話下さった講演、理系の新書で異例のベストセラーとなっていた『宇宙は何でできているのか』の著者である村山斉氏が宇宙の成り立ちを解説した人気講座、当時開催していた森美術館の「アラブ・エクスプレス展」を機に池上彰氏がアラブの基礎から分かりやすく解説して下さったセミナー、2011年に亡くなったSteve Jobsに関連するイベントとしてアップル・ジャパン元代表・前刀禎明氏の講演など、2012年に注目を集めた講演録をピックアップしました。
 
当時を振り返って改めて新しくコメントを下さったのは、京都大学教授の飯吉透さんです!
 

無料で学べる「オープンエデュケーション」がもたらす人材革命
~ウェブで教育の機会が世界に開かれる意味~
【登壇者】
飯吉透[京都大学 高等教育研究開発推進センター 教授]
石倉洋子[慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
【連載開始】2012年8月



 
インターネットを通じて世界中の良質な教育コンテンツに誰でもアクセスできるようになり、教育の可能性が広がるとして「オープンエデュケーション」という言葉が当時注目を集めていました。米国で長くこの分野を研究し、日本に帰国後は京都大学で研究を進められているオープンエデュケーションの第一人者・飯吉透氏をお招きしたセッションは大盛況でした。
変化の激しい時代は、学んだことがすぐに陳腐化してしまい、社会人の「学び続ける力」が求められます。個人がオープンエデュケーションを活用しようという機運が高まっていたのです。
世界の最新事情、「情熱増幅装置」と「格差是正装置」としての可能性に言及しながら、実際にMITで行われていた物理の講義の動画を皆さんにご覧いただきました。サーカスかと見間違うような、体を張った物理の実演をする教授の動画は衝撃的で、いかに海外の教え手が教育に情熱をかけているかを目の当たりにしました。「WEB進化×教育の進化=無限の可能性」という飯吉氏の言葉は、コロナ禍で必要に駆られてオンライン授業に切り替えている私たちに希望を与えてくれます。
 
飯吉透さんからコメントをいただきました。

このセミナーに招かれるきっかけにもなった梅田望夫さんとの共著「ウェブで学ぶ」(2010)は、当時インターネットにより急拡大していたオープンエデュケーションという世界的なムーブメントを日本に知らしめたと自負している。このセミナーの中で、石倉さんは、「個人の『学び続ける力』と色々とチャレンジし続けることが大事だ」と言われたが、これはまさにオープンエデュケーションが開かれた教育環境として、謂わば「宿命的」に人類の歴史の中に出現した大きな理由だと思う。

2012年には、第2世代のオープンエデュケーションを牽引してきたMOOC(大規模公開オンライン講義)が勃興し、この年をNew York Timesは、”The Year of MOOC”と名付けた。それから8年の間MOOCは世界的に進展し続け、今では900以上の大学によって1万2000近くのMOOCが提供され、受講生も1億人を突破している。既に世界はオープンエデュケーションの活用・応用期に入っており、MOOCやオンライン講義を利用した”Micro Credentials”と呼ばれる、既存の学位とは異なったオープンな学びの成果の認定や社会的な価値づけの仕組みも生まれた。

残念ながら日本はこのような潮流に乗り遅れ続けてきたが、現在のコロナ禍でオンライン教育の必要性やメリットに対する認識が急速に進み、より多くの人々がネットを利用して学び・教える状況となっている。これを日本におけるオープンエデュケーションの再起点とし、個人・社会の持続的発展にどのように繋げていくか。少なくとも教育においては、「災い転じて福となす」となることを願って止まない。

 

「池上彰が紐解く、アラブの今と未来」in 六本木アートカレッジ
~アラブ美術のツボがわかるニュース解説~
【登壇者】池上彰[ジャーナリスト]
【連載開始】2012年9月



 
アートに触れ、アート的視点を持つことにより自分の軸を創り、自分らしく生きる個人を育むことを目的にアカデミーヒルズが2011年から毎年開催している六本木アートカレッジ。2011年~2012年は特に華やかな登壇者の顔ぶれで、中田英寿氏、姜尚中氏、古田秘馬氏、そして今回ご紹介する池上彰氏など、2012年に公開した講義録も豪華に彩られました。
当時、森美術館で開催されていた「アラブ・エクスプレス展」を機に登壇した池上氏は講演で、アラブに関して私たちが誤解しやすいポイントをテレビ番組さながらに優しく解説。「アラブ世界とイスラム世界と中東の世界」の違いや、アラブを理解する上で必須となる宗教の基礎である「ユダヤ教とキリスト教とイスラム教」の関係を整理した上で、イスラム世界の「スンニ派とシーア派の対立」や「中東問題」とは何か、民主化運動で独裁政権が次々に倒れた「アラブの春」がなぜ起きたのか、Facebookなどのソーシャルメディアが革命を引き起こしたというのは本当なのか、などの疑問に答える形で順を追って丁寧に分かりやすく解説して下さいました。これを読むと「そうだったのか!」と何度も頷くことになるでしょう。
最後に自身が鑑賞した「アラブ・エクスプレス展」の作品解説もあり、アートも楽しむことができます。
 

宇宙は何でできているのか ~宇宙の果ての向こう~
暗黒物質や暗黒エネルギーなど最新宇宙論を、村山斉が解説
【登壇者】村山斉[東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構 機構長]
【連載開始】2012年1月



 
『宇宙は何でできているのか -素粒子物理学で解く宇宙の謎-』が発売直後の1か月で理系の新書としては異例の10万部を超えるベストセラーとなり(講演時には26万部)、著者であるご本人が驚かれるほど人々の関心が高いことが分かりました。暗黒物質(ダークマター)やニュートリノといった言葉を皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。
「宇宙はどのように始まったのか」「宇宙に終わりがあるのか」「宇宙の果てはどうなっているのか」という壮大なテーマに取り組まれている村山斉氏が、宇宙を知る手掛かりとなる暗黒物質と暗黒エネルギーについて分かりやすくお話くださった内容をまとめた講演録です。
まだ解明できない謎が多い宇宙の素朴な疑問に、何とか迫ろうとする科学者たちの研究によって、宇宙全体のエネルギーの内訳がわかってきたということが理解できます。その内訳の中に、目には見えない暗黒物質や暗黒エネルギーというものがあり、「暗黒物質は宇宙の始まりの情報を持っている。暗黒エネルギーは宇宙の将来の情報を持っている」ということがわかってきた、という村山氏のお話は、私たちの好奇心を掻き立ててくれます。
 
宇宙は何でできているのか(記事全文はこちら)


スティーブ・ジョブズを通して学ぶ「感性訴求」
~iPod mini仕掛人、前刀禎明はいかにして世の中を動かしたのか~
【登壇者】前刀禎明[株式会社リアルディア代表取締役社長]
【連載開始】2012年8月



 
2011年秋、Steve Jobs氏の悲報が世界を駆け巡り、その後Jobs氏に関連する書籍が多く出版されました。世界中の人がJobs氏の生き方から何かを学びたいと熱望していたのです。
Jobs氏の近くで働き、人々を魅了する商品、サービスでライフスタイルを変える過程を目の当たりにしてきた元Apple日本法人代表の前刀禎明氏のお話は、日本企業と個人がJobs氏から何を学び、どのように行動を変えるべきかを、「感性訴求」と「セルフ・イノベーション」というキーワードを軸に展開されました。
これまで日本企業が得意としてきた「機能訴求」だけでは消費者にその商品を買いたいと思ってもらうことはできません。これからの時代の商品・サービスに必要なのは五感を活かした「感性訴求」であり、そこで重要になるのが、伝えたい相手に「共感」「想像」「自発」という3つのプロセスを踏んでもらうことだと言います。それを促すためのアップル流マーケティングの極意が展開されました。
一方で、新たな価値を生むためには「感じる力」と「創る力」と「動かす力」の3つの力が求められると前刀氏は言います。特に創造力を生み出す源泉となる「感じる力」を身につけるために、五感を使ったセルフ・イノベーションを提案しており、私たちが日常生活の中でできることを伝授しています。誰もが日々の生活の中で取り入れることができますので、感性を磨くための一歩として実践してみてはいかがでしょうか。
 

宮城県の村井嘉浩知事と、竹中平蔵ほか4人の専門家が本音で語る
『日本大災害の教訓』出版記念シンポジウム
【登壇者】
船橋洋一[一般財団法人日本再建イニシアティブ 理事長]
市川宏雄[明治大学専門職大学院長/公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授]
西川智[国土交通省 土地・建設産業局 土地市場課長/工学博士]
吉岡斉[九州大学教授/副学長]
村井嘉浩[宮城県知事]
竹中平蔵[アカデミーヒルズ理事長]
【連載開始】2012年5月



 
次なる危機に活かすために、そして世界の支援に対する恩返しとして ---。 危機管理の観点から3.11の教訓を世界に発信した『日本大災害の教訓』の執筆陣と、「水産業復興特区」をはじめとする大胆な復興計画を掲げた宮城県の村井嘉浩知事が、東日本大震災における防災の備えで成功したことと、逆に備えが無くて大惨事となったことを過去の災害と照らし合わせて議論した講演録。
原発事故に詳しい吉岡斉氏の「あと1m高い津波が来ていたら(中略)最悪の場合、東日本一帯の原発が全滅することもあり得た。『危機一髪、首の皮1枚』だった」という言葉に改めて原発事故の恐ろしさを思い知らされます。最近は福島原発事故のニュースは少なくなりましたが、現在でも原発周辺の市町村では解除の見通しが立たない帰宅困難区域が存在することも事実です。廃炉処理にはこの先何十年もかかり、まだ先の長い問題なのです。
「平時から有事に迅速に切り替えることが、日本は国としてできない。地震が多いにもかかわらず、原発を54基も抱えているのだから、(中略)、国がリスクに真正面から取り組む仕組みや態勢をつくらなければならない」という船橋洋一氏の言葉から、危機に際したときに日本にはリーダーシップを取れる人がいないことが浮き彫りにされます。現在直面するコロナ危機から私たちは何を教訓にし、今後のパンデミックに活かすことができるのかを考えるとき、この記事は示唆をくれるでしょう。
 
『日本大災害の教訓』出版記念シンポジウム(記事全文はこちら)

 
※記載されている肩書は当時のものです。

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