記事・レポート

今こそ読みたい『古くて新しい記事』

~ストックされた知識から学ぶということ~

更新日 : 2021年03月15日 (月)

『古くて新しい記事』2017



  
過去の書籍、映画、音楽ライブ、演劇など、これまでにストックされてきた素晴らしいコンテンツの数々がいま再び脚光を浴びています。コンテンツを一過性で消費して終わりではなく、過ぎた時間と照らし合わせることによって気づきを得られることもある、と私たちは考えます。
 
この企画では、アカデミーヒルズでストックされているイベントレポート「古くて新しい」記事をピックアップしてお届けしてまいります。私たちは過去の登壇者のお話から今、何を学べるのか?
自分を内省する時間の糧として、今でも新たな発見やヒントが散りばめられている過去の記事を読み直してみませんか。

 2017年 はどんな年?

2017年の日本では、約200年ぶりとなる天皇の生前退位を実現する特例法が成立し、2019年4月30日に明仁天皇が退位することが決まりました。平成の終わりと新天皇の即位に向けての道筋がつき、その後「令和」となる新しい時代に向けて動き出したのです。
 
国内政治においては、安部晋三前首相の夫人、昭恵氏が校長を務めていた学校法人「森友学園」に国有地が格安で払い下げられていたことや、安部前首相の知人が理事長を務めていた「加計学園」が国家戦略特区に大学の獣医学部を新設する計画を巡り、安部前総理の働きかけがあったとされる問題など、政治家と関係の深い特定の法人との癒着問題が取りざたされました。
しかし、そうした政治とカネの疑惑をよそに、安部前首相率いる自民党は秋の衆院選で圧勝し、民進党は分裂に追い込まれました。

当時、中学3年生の最年少将棋棋士、藤井聡太四段が前年10月のプロデビューから負け知らずで30年ぶりに歴代最多連勝記録の28連勝を塗り替える29連勝を達成し、社会現象になりました。今年、藤井二冠は高校を自主退学し、将棋に集中することが公表されました。藤井棋士への注目はまだまだ続きます。
 
海外では、世界の予想に反して大統領選に勝利したドナルド・トランプ氏が1月に米国大統領に就任しました。就任直後から、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を指示し、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱も表明するなど、自身が掲げた「米国第一主義」を推進するための政策を打ち出し、世界は混乱しました。
また、ミャンマー西部ではイスラム系少数民族ロヒンギャの武装集団がミャンマー政府の治安部隊と衝突しました。ロヒンギャの村で横行する暴行から逃れるために隣国バングラデシュに避難したロヒンギャ難民が60万人以上に達し、ミャンマーに対する国際社会の非難が強まりました。
 
 

 2017年 ピックアップ記事

この年の公開記事からピックアップするのは、当時世の中を席巻していた人工知能(AI)と人間のかかわりに関する講演録です。2016年に「AlphaGo」(アルファ碁)がプロ囲碁棋士に勝利したことが大きな話題となり、「AI」に仕事を奪われるという危機感がより一層高まっていました。将棋棋士の羽生善治さんをお迎えしたトークの記事では、将棋棋士ならではの視点でAIと人間の未来について語られています。
 
一方で、「孤独を癒す」という新たなコンセプトの下、AIを搭載しない「分身ロボット」を開発した吉藤健太朗(オリィ)さんの講演や、能楽師の安田登さんと元陸上選手の為末大さんのトークでは、AIをきっかけにしながらもAIから少し離れて、人間の「こころ」と「からだ」にフォーカスしています。

イスラエルに学ぶ起業家マインドの鍛え方というテーマで、サムライインキュベートの榊原健太郎さんにお話いただいた記事も、最終的には人間の生き方、心のあり方に行きつきます。

また、2017年から約1年間開催した、「時間の使い方」について考える新シリーズ「未来自分会議」からは、コピーライターで世界ゆるスポーツ協会の澤田智洋さんのインタビュー記事を取り上げました。いま話題の近著『マイノリティデザイン』や『ガチガチの世界をゆるめる』を記した澤田さんの時間に対する考え方について深く知ることができる貴重な内容です。
 
この「古くて新しい記事」の企画では、2008年からアカデミーヒルズの講演録を振り返り、連載してまいりました。
今回2017年の特集で連載10回目を迎え、シリーズ最終回となります。
 
最終回では、世界ゆるスポーツ協会代表の澤田さんと、サムライインキュベートの榊原さんに新たにコメントをお寄せいただきました!
 
 

未来自分会議 <キャリア×時間>
弱みを見つめると自分の輪郭が見えてくる
~今までの生き方、内面性が時間の使い方を決める~
【登壇者】
澤田智洋[世界ゆるスポーツ協会代表/コピーライター]
モデレーター:飛鷹全法[高野山高祖院住職]
【連載開始】2017年8月



「時間は全ての人に平等。だからこそ、使い方に個性が出て、キャリア、人生に違いが生まれる。」
誰もが持っている「時間」という資産をどう使うかを考える「未来自分会議」のイベントシリーズは2017年に実施されました。このシリーズの特徴は「WEBインタビュー記事」と「インタラクティブセッション」という2つのパートから成ること。「WEBインタビュー記事」を通じて、各界で活躍される若手リーダーがどのように時間をデザインしているのかを知り、「インタラクティブセッション」では、記事では伝えきれなかったことを、会場に参加した人だけが直接感じ取っていただく「場」として、少数限定の議論が展開されました。
 
高野山高祖院住職の飛鷹全法さんが全体のモデレーターを務めたこのシリーズからピックアップしたのが、自分の「弱み」を成長できるチャンスと捉えて多方面で活動している澤田智洋さんの記事です。澤田さんがスポーツが苦手だったからこそ生まれた「ゆるスポ」。「強みはかぶるけど、弱みはダイバース。弱みにその人らしさが宿っている。」と弱みにフォーカスする発想の転換の仕方について詳細が語られています。そして大手広告代理店のコピーライターとして多忙を極める澤田さんが、仕事で活躍される中で見直された時間の使い方についても、必見です。
ステイホームで誰もが自分の時間の使い方について見つめ直す機会があるいまこそ、時間の使い方、そして人生について深く考えるきっかけにしていただけるはずです。

弱みを見つめると自分の輪郭が見えてくる(記事全文はこちら)

澤田智洋さんからコメントを頂きました。

「弱みを見つめると自分の輪郭が見えてくる」というテーマで、高野山高祖院住職の飛鷹全法さんと対話したのが4年前。当時は、まだ「弱さ」の話をしても共感してくださる方が多くはなかったのですが、今では随分増えました。新型コロナウィルスの影響により、誰もが自分や人類の「弱さ」「脆さ」を自覚したこともその一因かもしれません。
私は今でも「すべての弱さは、社会の伸びしろ」を信条に仕事をしています。スポーツが苦手な”Sports Minority”の視点をスポーツビジネスに生かす「世界ゆるスポーツ協会」がその代表格ではありますが、今では企業や自治体から「弱さドリブンな事業やプロジェクトを一緒にやりたい」というオーダーを多くいただいています。時代は驚くべき速度で変化しています。昨日までの非常識は今日の常識です。ビジネスの「勝ちパターン」も目まぐるしく変わっています。こういう時代にあっては、「強さが脆さ」という逆転現象が起きています。だからこそ、今はまだ弱さと呼ばれている可能性に賭けることが必要とされている気がしてなりません。



グローバル・アジェンダ・シリーズ2017
第2のシリコンバレー:イスラエル流・起業家マインドの鍛え方
日本を飛び出したサムライが見たものとは?
【登壇者】
榊原健太郎[株式会社サムライインキュベート代表取締役]
モデレーター:石倉洋子[一橋大学名誉教授]
【連載開始】2017年7月



人口800万人の小国ながら、ベンチャーを生み出し続けるイスラエル。現在も、新型コロナウイルスのワクチンも世界に先駆けて接種を進めており、その経験が共有されるなど、常に先行者として世界の注目を集めています。
榊原健太郎さんが単身でイスラエルに渡ったのは、2014年5月。日本のインキュベーターとして誰よりも先駆けてイスラエルに拠点を置いた榊原さんが現地で見てきたこと、感じてきたことを余すところなく語って下さっています。
 
「できるできないでなく、やるかやらないかで世界を変える」をミッションに掲げ、日本からGoogleやFacebookを超えるような会社を生み出すべく、起業家や大企業の支援を行うサムライインキュベートを創業した榊原さん。
イスラエルを拠点に選んだ理由、先進的なプログラミング教育や理系と文系の垣根が低いなどの現地の教育事情、周辺国との緊張関係による「一日を一生」と捉える死生観、第二次大戦中に6,000人以上のユダヤ人を救った杉原千畝さんにまつわるお話、「ユダヤ人が考える天才」、問題だらけの日常を楽しむ感覚など、多くの気づきを得られる点が満載です。
 
自社や支援企業、日本のことだけを考えるのではなく、紛争国や貧しい国の人々も含め、世界中の人々が平和に穏やかに暮らせる世界を、ビジネスを通じて創り出したい、と熱く語る榊原さんの想いが、随所に表れています。この記事を読むと、「儲かるか儲からないか」「市場があるかないか」「Fintechがいま盛り上がっているから投資しよう」などでではなく、「そこに解決すべき課題があるか」ということを重視して投資の判断をしていることも伝わってきます。
榊原健太郎さんからコメントを頂きました。

あの講演からもう4年経つんですね。ちょうどインテルが自動運転テクノロジーのイスラエルスタートアップ「モービルアイ」を買収した年ですが、オートモーティブの技術に関しては今日までにある程度一巡したように感じています。

イスラエルは、数年前までシリコンバレー一本足打法だった日本企業の方々も今ではごく普通に往来し、日本との直行便もできました。100社程の日本の大手企業が拠点を置くほど「進出すべき国」となり、日本からイスラエルへの投資額は年間1000億円を超えました。それほど期待が高い一方で、個人的には日本の大手企業でもイスラエルからイノベーションを学ばなければいけない状況に危機感も抱いています。

また、世界におけるイスラエルスタートアップへの投資額は2020年に1兆円近くなり、過去最高を記録。イスラエルの技術は変わらず常に20年先を進んでいる評価です。
弊社のイスラエルスタートアップ投資・成長支援活動も継続しています。最近は以前から注目していたブレインテックやニューロテック等領域のスタートアップへご支援することが増えてきました。

イスラエルでは世界最速で国民が新型コロナウイルスワクチンの接種をしていますが、そのスピード感は、“Enjoy your problems, It's life.”のマインドが根底にあるからだと感じます。いい意味で変わってないですね。常に20年先をいくイスラエルに我々も遅れることなく、むしろ先導する気持ちで邁進していきたいと思います。



シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第9回
人間にとってAIとは何か?
AI時代の未来を俯瞰する:羽生善治×石山洸
【登壇者】
羽生善治[将棋棋士]
石山洸[元Recruit Institute of Technology推進室室長]
【連載開始】2017年5月


 
2016年にAlphaGoがプロ囲碁棋士に勝利したニュースは、AI脅威論を更に加速させました。しかし、この記事で羽生善治さんは、人間の発想とAIの発想、両方あったほうが今までになかった価値が生み出せるはずであり、人間の意識や発想の「盲点」を打ち消すツールとして、AIが重要になっていくとのお考えを語っています。
特に将棋の世界では、AIが答えを導き出す過程のブラックボックスを解明して、人間の棋士がそれを吸収していくことで、新しいものを生み出していくことが重要になるとのご指摘は、単にAI対人間の二項対立を超えた視点を提供してくれます。
 
興味深いのは、既に十数年前から羽生さんはAIについて研究されていたということ。認知科学の研究者と交流があり、理化学研究所の脳の研究の被験者になられたこともあるとか。人間の脳とAIの研究の交差するところに、将棋の棋士がいらっしゃる。AIについて本質的なコメントを展開される様子に、モデレーターでAI専門家の石山洸さんも驚くほどです。
 
「リアルでの検証が必要な自動運転の技術」と「バーチャルだけで成立するオンライン将棋の世界」との比較や、2015年にオックスフォード大学「人間の未来研究所」から発表された『人類の抱える12のリスク』(12 Risks that threaten human civilization)にパンデミックや気候変動とともにAIがリスクとして挙げられていたことなど、パンデミック下にある今だからこそ、納得感を持てる気づきが多く散りばめられています。
 
人間にとってAIとは何か?(記事全文はこちら)


ビジネス・チャレンジ・シリーズ
「分身ロボット」がつなぐ未来
人工知能にはできない「孤独の解消」を目指す
【登壇者】
吉藤健太朗[ロボット・コミュニケーター/分身ロボットアーティスト]
モデレーター:前刀禎明[株式会社リアルディア 代表取締役社長]
【連載開始】2017年11月



新たなビジネスにチャレンジし、道を切り拓いている方をゲストにお招きし、モデレーターの前刀禎明さんがお話を聞きだす「ビジネス・チャレンジ・シリーズ」の講演録からは、孤独を癒す分身ロボット「Orihime(オリヒメ)」を開発した吉藤健太朗さんがゲストにお越し下さったときの記事をご紹介します。
 
不登校や病気で外出できないときでも、自分の分身としてオリヒメを学校や職場に置くことで、仲間と共に学び、語り合い、働くことができ、共通の体験を持つことができる。自らの不登校の体験を糧に「孤独を癒すこと」を生涯のテーマに定め、世界で唯一の「存在感伝達ベンチャー」として邁進する吉藤さんの活動は、現在、メディアでも多く取り上げられていることからご存知の方も多いかもしれません。
 
孤独の解消をテーマに掲げると決めたときに、最初に思いついたのがAIだったという吉藤さんは、AIを研究するために工業専門学校に入りますが、そこで「本当の意味で人を癒やすことは人間しかできない」という結論に至ったといいます。
AIも音声認識機能も搭載せず、人が遠隔操作するロボットこそが「自分の居場所を感じることができ、周りもその人の存在を感じることができる」ものである、という考えに基づいて開発されたオリヒメ。
 
吉藤さんが目指した「その場に一緒に居る」デバイスを実現するための試行錯誤の過程や考え方の原点に迫ることで、「存在するだけで価値がある」ということはどういうことなのか、を考えさせられます。
「情報は少ない方がいい」「人間にとって五感が本当に一番いいバランスなのか?四感、三感でもいいのではないか?」「自分にしかわからない価値が大事」など、既存の常識にとらわれない発想がここに広がります。
 

六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第4回
身体の拡張:能楽師・安田登×為末大
能で読み解く、日本人の「こころ」と「からだ」
【登壇者】
安田登[能楽師]
為末大[元プロ陸上選手]
【連載開始】2017年1月

 

このセミナーでは、「ロボットスーツやVRなどのテクノロジーが進化する未来における人間の身体性」をテーマに、能楽師の安田登さんと元陸上選手の為末大さんが対談しました。
安田さんが語る「能における身体の動き」と為末さんが語る「スポーツにおける身体の動き」の視点が見事に掛け合わされて、新たな視点へと昇華していく過程に触れることができます。
 
能とスポーツの身体性の共通点として注目されているのが「すり足」の動き。能の身体性の特徴の1つとして、深層筋(インナーマッスル)の働きを駆使した「すり足」の動きを安田さんが解説します。
「深層筋のひとつである大腰筋によって、腿がかすかに引き上げられているけれども、表層の筋肉はほとんど使われていないために、腿に触れても柔らかい。」という能の動き。それが、まさに陸上選手が取り入れて速く走れるようになった動きと同じだ、と為末さんは言うのです。日本人に合った走りとして「すり足」の動きを参考にしていた選手もいるなど、能の動きとスポーツの興味深い共通項が見いだされていきます。
 
また、能もスポーツも、動きを正確にやるためには、パーツごとの具体的な指示を出すよりも比喩やオノマトペ的な表現をする方が自然な動きになりやすい、ということもお二人の間で共感を得ています。具体的な細かな動きを追うと、部分に意識がいってしまうので、イメージを伝える方がトレーニングや稽古で伝わりやすいのだといいます。
 
伝統芸能としての能の650年の歴史を追いながら、安田さんと為末さんが語る未来の身体性も語られます。最終的には人間の身体性の弱さから生まれてきた「弱さを補完するための方法」や弱さがあるからこそ生み出された産物としての「心」についての議論など、「からだ」と「こころ」について深く語られています。
 
身体の拡張:能楽師・安田登×為末大(記事全文はこちら)


※記載されている肩書は当時のものです。
 
 


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