記事・レポート

生命観を問い直す

更新日 : 2009年06月22日 (月)

第9章 「ランダム」から「パターン」を抽出する能力の落とし穴

福岡伸一 分子生物学者/青山学院大学教授

福岡伸一: 人間が「部分的な思考」に陥りやすく、「部分」から勝手なロジックをつくりやすいのは、脳が持っている癖です。それは別の形になっても現れています。その1つの例証が、「モザイク消しの秘密」。これは別にエッチな話ではありません(笑)。

ある有名な絵を、6×6のモザイクに単純化してみました。この元の絵が何だったかわかる人はいますか? (参加者の答えに)はい、当たりです。モナリザです。こんなに複雑な絵なのに、たった6×6の階調パターンに落としても、ある種の画像パターンを抽出できるという脳の能力はすごいと思いませんか。

これは、人間が地球上に現れて100万年の間、複雑あるいはランダムな自然現象、環境の問題、生命現象から、できるだけパターンや法則を抽出しようと努力してきた結果、脳の中に水路づけされた特殊な能力です。しかし、この能力が逆に私たちを落とし穴に導いている可能性についても注意しなければいけません。

それが、「空耳、空目(そらみみ、そらめ)」現象です。「空耳」は、何かそういうふうに聞こえることですが、実は目でも同じことが起こります。

ジンメンカメムシという昆虫の背中の文様がなぜお相撲さんの顔に見えるのか。焼き目の模様がマリア様に偶然似ていたトーストが、なぜオークションで「奇跡のマリア像」として2万8000ドルもの高値がついたのか。人間の脳がパターンを見出して、そこに価値を付加しているからです。

Google Earthで、ある土地の衛星写真にキリストの像が現れていると騒ぎになったこともあります。探査船が撮影した火星表面に、巨大なゴリラや仮面の怪人などが見えると話題にもなりました。たまたま土壌がそう見えたに過ぎないのですが、人間は人の顔のパターンを非常に鋭敏に抽出するのです。

パターン抽出能力は、ランダムな中からある法則を導き出すために非常に有効ですが、これは、分断されるはずのない生命の流れに脳死や脳始の線分を引く働きと全く同じです。そのことに今、私たちは自覚的にならなければいけないと思います。

今日の結論は、「生命に部分はない、世界をどれだけ分けても、結局世界全体を知ることはできない」ということ。すべての科学には、新しい統合のための原理が必要になっているのではないかと思います。

最後に1冊だけ本を紹介させてください。これは私が最近出した本でして、『できそこないの男たち』。言いたいことを一言で言えば、「男よ、威張るな」、そして「女性はもう少しリラックスしてください」です。

生物の基本仕様は女性です。生命が現れて最初の10億年間、この世には女性しかいませんでした。母が娘を産み、娘がまた娘を産むという、縦糸が何本もあったわけです。しかし、あるとき欲張りな雌が、「自分の美しさと、あの女性の美しさを混ぜ合わせたら、もっと美しいものができる」と考えた瞬間が、どこかであったのです。

そのとき、縦糸と縦糸をつなぐ横糸として雄が生み出されました。雄は、雌を無理やりカスタマイズしてつくり変えられました。カスタマイズされ過ぎたコンピューターがフリーズしやすいように、雄は非常にトラブルを起こしやすい。まず寿命が短いのはそのためです。

がんの罹患率は男の方が2倍以上、自殺率もずっと高い。死因のほとんどは雄が高いのです。でも、身につまされる雄のあり方を見て、そこから新たな希望を見い出せるのではないかという思いでこの本を書きました。ご興味がある方は、ぜひ読んでみてください。


該当講座

生命観を問い直す
福岡伸一 (分子生物学者/青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 教授)

現在、私たちの周りには生命操作を巡る様々な議論があります。遺伝子組み換え、クローン技術、ES細胞、臓器移植・・。これらを可能とする先端技術の通奏低音には、「生命とはミクロな部品が集まってできたプラモデルである」という見方、すなわち機械論的生命観があります。 しかし、本当に生命とはプラモデルのような置....


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