記事・レポート
三谷宏治が語る、経営戦略の100年
経営の本質はつながりとストーリーから見えてくる
経営戦略ビジネススキルその他
更新日 : 2013年09月10日
(火)
第9章 イノベーターのジレンマ
「担当者の変更」を乗り越えろ!
三谷宏治: 変化の激しい現代に生きる企業人にとって最も気がかりなのは、イノベーションによる「担当者の変更」ではないでしょうか。あらゆるイノベーションは過去、担当者の変更を伴ってきました。イノベーション前のプレーヤーと、後のプレーヤーは、いつも違っていたのです。真空管メーカーと半導体メーカーがまったく異なっていたように。ではこの「担当者の変更」はなぜ起き、どうやったらそれをかいくぐれるのか、もしくはそれを自ら起こせるのでしょうか。
この課題に対して1つの答えを出したのがクレイトン・クリステンセン、ハーバード・ビジネス・スクールの教授です。彼は1997年の『イノベーションのジレンマ』で、「担当者の変更は必然である」と述べました。しかもその答えは、ここでも「顧客」でした。企業の顧客志向の強さこそが、問題だったのです。
1つのイノベーションを起こした企業は、多くの顧客をつかみ、成長していく。その後も顧客のニーズに忠実であり続けようと奮闘し、既存の技術をどんどん発展させ高度化していきます。しかし、その傍らで別の顧客が大きく異なったニーズを示します。たとえば「機能は半分でいいから値段を3分の1にして」と。
今の主戦場とはまったく別の場所で新たなイノベーションが生まれていて、急速に成長・進歩していく。気がついたときにはそのイノベーションが既存のものを大きく上回り、顧客もそちらに一気にシフトしてしまう。「担当者の変更」の発生です。こういったイノベーションをクリステンセンは「破壊的(disruptive)イノベーション」と名付けました。
ならば、担当者の変更を避けるためにはどうすればいいのか。さらに彼は考え続けました。
個人としてのイノベーション力は鍛えられる
三谷宏治: クリステンセンはまず、組織に解決策を求めました。従来の組織とは別に小さな組織を作り、そこで別の顧客に向けたイノベーションを起こそうと考えました。しかし、ある頃からそれが無理だと感じ、別の方法を探るようになります。そして紆余曲折を経て、2011年に『イノベーションのDNA』という本を出します。彼は著名なイノベーター100人にインタビューを行い、共通する思考・行動パターンを抽出し、それを基に今度は世界中のイノベーター500人を調査し、イノベーティブな起業家の特質を次のように定義したのです。
5つの基本的な発見力——(1)関連づける力、(2)質問力、(3)観察力、(4)ネットワーク力、(5)実験力——に優れ、人より時間を費やしている。また、関連づける力は認知的スキルだが、他の4つは行動である。行動を変えることで創造性は上がりうる。
彼は次の解決策を組織でなく個人に求めたのです。イノベーティブな個人を増やすことが、担当者の変更に対する必須の策である。そして、4つの力(行動)はいまからでも十分鍛えられると言っています。彼は「未来の市場を見つけよう。そして未来の顧客を見つけよう。それに対して正しく応えよう」と読者を鼓舞しました。
それに対してビジャイ・ゴビンダラジャンは、別の角度から答えを示します。それが2012年の『リバース・イノベーション』です。彼は言いました。「未来の市場・顧客はすでにBOPに存在する」と。そして、BOPで成功したイノベーションは、他の市場へも波及・展開されていくのだと。
急速に変化し、膨張し続ける社会に対応すべく、イノベーションを巡る議論はますます活発になっています。なかでも、歴史から学ぶよりも現在に学びを求め、現場で試行錯誤しながら、時代に適応するイノベーションを起こす、といった「アダプティブ戦略」が有力です。これを突き詰めたのがエリック・リースの『リーン・スタートアップ』で、ベンチャーや新規事業の立ち上げだけでなく、あらゆる企業活動に応用しうるコンセプトが学べる1冊と言えるでしょう。
キーワードは「高速試行錯誤」。いかに効率的かつ迅速に試行錯誤をくり返すか、が勝負なのです。
関連書籍
経営戦略全史
三谷宏治ディスカヴァー・トゥエンティワン
三谷宏治が語る、経営戦略の100年 インデックス
-
第1章 経営と経営戦略を生んだ3つの源流
2013年08月27日 (火)
-
第2章 1つ目の源流~フレデリック・テイラー
2013年08月29日 (木)
-
第3章 2つ目の源流~エルトン・メイヨー
2013年08月30日 (金)
-
第4章 フォードと大量生産時代の到来
2013年09月02日 (月)
-
第5章 3つ目の源流~アンリ・フェイヨル
2013年09月03日 (火)
-
第6章 そして、“経営戦略”は生まれた
2013年09月05日 (木)
-
第7章 予測不能な時代がやってきた
2013年09月06日 (金)
-
第8章 イノベーションを阻む大きな壁
2013年09月09日 (月)
-
第9章 イノベーターのジレンマ
2013年09月10日 (火)
-
第10章 経営の明日は、発見と探究の先にある
2013年09月12日 (木)
該当講座
三谷宏治 (KIT虎ノ門大学院 教授 / 早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授)
ディスカヴァー・トゥエンティワン×平河町ライブラリーのコラボセミナー。
出版に先駆け、著者の三谷宏治氏(K.I.T.虎ノ門大学院 教授)によるセミナーを開催します。(書籍の先行販売も実施いたします。)
20世紀初頭から現在に至るまでの100年のビジネス・経営戦略の概要が分かる1冊です。
経営戦略 ビジネススキル その他
注目の記事
-
03月26日 (火) 更新
動的書房 ~生物学者・福岡伸一の書棚
目利きの読み手でもある生物学者の福岡伸一による、六本木ヒルズライブラリーのための選書書棚「動的書房」。2024年3月に新たに21冊が並びまし....
-
03月26日 (火) 更新
本には、人生を変え、時代を創るパワーがある!
2023年4月から2024年2月まで全6回で開催したシリーズ「編集者の視点〜時代を共に創る〜」。モデレーターの干場弓子さんと何度も企画会....
シリーズ編集者の視点〜時代を共に創る〜 <編集後記>
-
03月26日 (火) 更新
【重要】「アカデミーヒルズ」閉館のお知らせ
「アカデミーヒルズ」は、2024年6月30日をもって閉館させていただくこととなりました。これまでのご利用ありがとうございました。閉館までの間....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 05月08日 (水) 19:00~20:30
多様な個性が育むナラティブパワー
「⾃分の物語(ナラティブ)」を語り、社会との関係性や「私たち」の目指す世界につなげていくことで、何か問題があっても、人々の共感を得て社会を変....
-
開催日 : 05月21日 (火) 12:00~12:45 / 05月21日 (火) 19:00~19:45
ゆる~くつながろう!メンバー雑談
テーマなし!年齢制限なし!ライブラリーメンバーなら誰でも参加できる雑談イベントです。肩の力を抜いて楽しく、そしてリラックスした45分を過ごし....
-
開催日 : 04月23日 (火) 19:00~20:30
「欲望」以外が資本主義のエンジンとなり得るのか?
ミクロとマクロの視点、日本と世界の視点を行き来しながら、持続可能な社会のために私たちがいまできることを考えます。スピーカーは、ファッション産....