記事・レポート
三谷宏治が語る、経営戦略の100年
経営の本質はつながりとストーリーから見えてくる
経営戦略ビジネススキルその他
更新日 : 2013年08月27日
(火)
第1章 経営と経営戦略を生んだ3つの源流
経営戦略の100年の歴史を1冊にまとめた画期的大著『経営戦略全史』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が刊行されました。著者は、20年にわたり経営戦略コンサルタントとして活躍し、現在はビジネス・スクール教授や著述家として幅広く活動される三谷宏治氏。経営戦略というと、複雑かつ難解で、とっつきにくいものといったイメージがありますが、三谷氏はそれを独特の軽妙な語り口で、400頁超の歴史ストーリーにまとめています。本書の見どころとともに、主要な経営戦略論の本当の目的や意図、現代にも活かせる本質を語っていただきました。
講師:三谷宏治(K.I.T.虎ノ門大学院 教授 早稲田大学ビジネススクール・グロービス経営大学院 客員教授)

講師:三谷宏治(K.I.T.虎ノ門大学院 教授 早稲田大学ビジネススクール・グロービス経営大学院 客員教授)
経営戦略はいつ生まれたのか
三谷宏治: 『経営戦略全史』は、過去100年間に登場した経営戦略の目的や背景を網羅した本です。英題に「50 Giants of Strategy」とあるように、本書は経営戦略というものを創り上げてきた50人の巨人たちの物語でもあります。実際には100人以上が取り上げられており、孫武(『孫子』の著者)やカール・フォン・クラウゼヴィッツ、フレデリック・ランチェスターといった偉大な軍事戦略家たちや、ティム・ハーフォード、ダンカン・ワッツといった気鋭の社会学者たちも登場します。こうした人物たちから抽出したエッセンスも交えながら、ストーリー仕立てで分かりやすく、かつ楽しく解説しています。
「経営戦略論」に関する本を書こうと思ったとき、そもそも経営とは、そして経営戦略とは何だろうか考えました。こうした概念はいつ、なぜ生まれたのか。私はこの本で、2人の偉大なコンサルタントと4人の企業人が、初期の「経営」や「経営戦略」を形作ってきたとしています。
2人のコンサルタントとは、「科学的管理法」を生み出したフレデリック・テイラーと、「人間関係論」を提唱したエルトン・メイヨーであり、4人の企業家とは、「管理過程論」の礎を築いたアンリ・フェイヨル(仏Fayol:一般にはファヨールと表記される)、自動車王ヘンリー・フォード、GM(ゼネラル・モータース)の中興の祖であるアルフレッド・スローン、そして、経営者の役割や組織論を示したチェスター・バーナードです。中でも現代に続く経営戦略論の根幹をなす3つの源流を生み出したのが、テイラー、メイヨー、フェイヨルです。
百家争鳴を俯瞰する
三谷宏治: 本書ではまず、20世紀初頭から第二次世界大戦前後に生まれた、経営戦略論の3つの源流についてご紹介しています。その次に1950年代前後、マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーをはじめ、イゴール・アンゾフ、アルフレッド・チャンドラー、フィリップ・コトラー、マッキンゼー・アンド・カンパニーの基礎を構築したマーヴィン・バウアーなどが登場します。
1960年代に入ると、最終的にマイケル・ポーターが旗手となるポジショニング派が勃興し、ボストン コンサルティング グループの創始者ブルース・ヘンダーソンなどが登場します。これに対して1980年代半ばから、トム・ピーターズや野中郁次郎、ゲイリー・ハメル、ジェイ・バーニーといったケイパビリティ(組織・ヒト・プロセスなど)派が現われ、両派の間で激しい議論が交わされていきます。
20世紀末には、コンフィギュレーション(状況に応じて整合・統合)を提唱するヘンリー・ミンツバーグが勢いを付け、チャン・キムとレネ・モボルニュのブルー・オーシャン戦略(2004)につながります。1986年のリチャード・フォスター以来盛り上がったイノベーション論は、クレイトン・クリステンセンが1997年に放った『イノベーションのジレンマ』以降、絶頂を迎えます。そしてそれは、この10年、予測できない社会や事業環境の変化に対応しようとする、アダプティブ戦略へと進化を続けているのです。
本書の概要を説明しましたが、こういった流れを見るだけでも、この100年間にさまざまな経営戦略論が生まれ、変わり続けてきたことがご理解いただけると思います。こうした膨大な知と実践の集積を俯瞰し、個々のつながりを知ることが、経営戦略の、そして経営の本質を理解することにつながるのです。
関連書籍
経営戦略全史
三谷宏治ディスカヴァー・トゥエンティワン
三谷宏治が語る、経営戦略の100年 インデックス
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第1章 経営と経営戦略を生んだ3つの源流
2013年08月27日 (火)
-
第2章 1つ目の源流~フレデリック・テイラー
2013年08月29日 (木)
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第3章 2つ目の源流~エルトン・メイヨー
2013年08月30日 (金)
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第4章 フォードと大量生産時代の到来
2013年09月02日 (月)
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第5章 3つ目の源流~アンリ・フェイヨル
2013年09月03日 (火)
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第6章 そして、“経営戦略”は生まれた
2013年09月05日 (木)
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第7章 予測不能な時代がやってきた
2013年09月06日 (金)
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第8章 イノベーションを阻む大きな壁
2013年09月09日 (月)
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第9章 イノベーターのジレンマ
2013年09月10日 (火)
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第10章 経営の明日は、発見と探究の先にある
2013年09月12日 (木)
該当講座
三谷宏治 (KIT虎ノ門大学院 教授 / 早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授)
ディスカヴァー・トゥエンティワン×平河町ライブラリーのコラボセミナー。
出版に先駆け、著者の三谷宏治氏(K.I.T.虎ノ門大学院 教授)によるセミナーを開催します。(書籍の先行販売も実施いたします。)
20世紀初頭から現在に至るまでの100年のビジネス・経営戦略の概要が分かる1冊です。
経営戦略 ビジネススキル その他

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