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三谷宏治が語る、経営戦略の100年

経営の本質はつながりとストーリーから見えてくる

経営戦略ビジネススキルその他
更新日 : 2013年09月02日 (月)

第4章 フォードと大量生産時代の到来

 講師:三谷宏治(K.I.T.虎ノ門大学院 教授 早稲田大学ビジネススクール・グロービス経営大学院 客員教授)

 
「豊かな大衆」の登場

三谷宏治: ではテイラーは間違っていたのでしょうか? いや、違います。社会と人間自体が変わっていたのです。

1900年代初頭、社会を変えるほどの貢献をしたのが起業家であるヘンリー・フォードです。フォードは試行錯誤を重ねた末、1908年にT型フォードを完成させました。当時、一般的な自動車の価格は3,000ドル以上。平均年収の3~5倍に相当しました。対するT型フォードは950ドル。富裕層のものであった自動車を“大衆の足”へと変えたのです。その後も、大量生産を基幹とするフォード生産システムの精度を高め、1925年には260ドルまで価格を下げています。

フォードは「フォーディズム」と言われる、独特の経営観を持っていました。彼は「経営者は、利潤動機で動いてはいけない。賃金動機で動くべきだ」と説きました。賃金動機とは、従業員により多くの賃金を払うことを目的とすること。経営者はそのために存在しているとし、それを具現化しました。

フォードの工場は当初、1日9時間の労働に対して2ドル半の賃金を支払っていました。それをある時から、24時間3交代制、労働時間を1日8時間とし、賃金を倍の5ドルに引き上げました。当時としては破格の賃金であり、夫婦で勤めていればなんと2,000ドル超の年収が得られます。郊外に一戸建てを持ち、自家用車で通勤する「豊かな大衆」の誕生でした。


経済人から社会人へ

三谷宏治: こうした成功を収めたフォードでしたが、大きな矛盾に直面することになりました。

T型フォードは飛ぶように売れ、フォードの工場には高給を求める人々が全米から押し寄せました。しかし、多くの従業員はその試用期間だけで工場をあとにしました。

フォード生産システムの基本は、徹底した分業と流れ作業です。例えば、部品に細いピンを刺す単純な作業を1日8時間、数千回ひたすら続ける。同じ場所に立ち、同じ作業を延々繰り返す。多くの人々は、単純作業による精神的苦痛に耐えられなくなっていたのです。チャールズ・チャップリンは『モダンタイムス』で、フォード生産システムに代表される大量生産システムの「非」人間性を痛烈に批判しました。

20世紀初頭、人々は毎日を生き抜くために、経済的な対価だけを一心に求めていました。これを「経済人」と呼びます。一方、経済的な対価と同時に、人とのつながり、プライド、夢への欲求などにも価値を置く人々が現れた。これが「社会人」です。テイラーからメイヨーに至る道で、「豊かな大衆」の登場とともに、人間は経済人から社会人へと変貌を遂げていたのです。

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