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三谷宏治が語る、経営戦略の100年

経営の本質はつながりとストーリーから見えてくる

経営戦略ビジネススキルその他
更新日 : 2013年08月29日 (木)

第2章 1つ目の源流~フレデリック・テイラー

 講師:三谷宏治(K.I.T.虎ノ門大学院 教授 早稲田大学ビジネススクール・グロービス経営大学院 客員教授)

 
生産現場に革新的生産性向上をもたらした「科学的管理法」

三谷宏治: すべての経営戦略の源流は、科学的管理法を生み出したフレデリック・テイラーにあります。彼のさまざまな研究成果は、当時の生産現場に革新的な生産性向上をもたらしました。

テイラーはとても頭のよいヒトで、弁護士を目指してハーバード大学法学部に進みましたが入学直後、急激に視力が低下する病気にかかり、その道を断たれます。彼は故郷フィラデルフィアに戻って、ポンプ工場の見習い工となりました。その後、別の工場で技師長となった彼は、時間研究や作業者訓練などの生産性向上に関するさまざまな実験に着手し、数々の成果を打ち立てていきました。

彼は35歳のときにコンサルタントとして独立します。そこでも多くの生産現場の問題を解決し、企業を立て直しました。1911年には、自らの研究の集大成として『科学的管理法の原理』を著しています。科学的管理法の特徴は、(1)タスク管理、(2)作業研究、(3)マニュアル制度、(4)段階的賃金制度、(5)職能別組織の構築、でした。産業革命の進展によって都市に巨大な雇用が発生し、同時に大量の未熟練工が生まれていた19世紀末、早期に一人前の職人を育てる上でも、科学的管理法が果たした役割は非常に大きかったのです。

「ショベル研究」

三谷宏治: テイラーは、科学的管理法を確立するまでに多種多様な実験を行いました。有名な実験のひとつに「ショベル研究」があります。当時彼が働いていた製鋼会社では、数百人の作業員が鉱石や灰、砂などを運ぶ作業を行っていました。鉱石は重く、灰や砂は軽い。それに対して作業員は、自分の体調や気分により、思い思いの大きさのショベルを手に持ち、作業していました。生産性や作業効率など誰も気に留めていませんでした。

テイラーが着目したのは、1回あたりの運搬量でした。2人の作業員にさまざまな大きさのショベルを使い分けさせ、1回あたりの運搬量、作業時間、すくって投げるまでの距離や高さなどを測定しました。その結果、1日あたりの作業トン数が最大になる最適重量は21ポンド前後、という答えを導き出したのです。また、重い鉱石には小型の、軽い灰や砂には大型のショベルを使うように指定し、最終的に8種類の標準ショベルを作って、1回あたりにすくう量も21ポンド前後に統一しました。

その結果、作業員の1日あたりの作業トン数は平均16トンから59トンと4倍近くに跳ね上がりました。ただ、数百人の作業員に対して迅速にショベルを配るために工具室が新たに作られ、日程や作業内容、ショベルを管理するための計画部も新設されました。従来はなかった製造間接部門が誕生した瞬間です。

しかし結果として、作業員の1日あたり賃金が、1.15ドルから1.88ドルに6割以上あがったにもかかわらず、生産量あたりのコストは、72セントから32セントに、56%も下がったのです。テイラーが生み出した「科学的管理法」は、労働者と経営者がともに利を得るWin-Winの方策のハズ、でした。

テイラーが描いた夢

三谷宏治: テイラーが実現したかったのは「産業革命が生んだ“闇”を変える」でした。産業革命以降、生産現場や工場を支配していたのは「恐怖」と「怠業」でした。どれほど働いても賃金は上がらず、現場には組織的なサボタージュ(怠業)が蔓延していました。それに経営者や現場監督は、叱責や解雇など恐怖で対抗しました。見習い工からはじめたテイラーは、その恐怖と怠業を間近に見ていたのです。

彼の夢は、経営者も働く人も共に喜ぶ、Win-Win経営の実現でしたが、残念ながら、その夢は半分しか叶いませんでした。生産性を飛躍的に向上させる彼の「科学的管理法」を、経営者たちはこぞって取り入れました。しかし、賃金は上げられなかったのです。そのため、科学的管理法は「単なる労働強化の方法である」といった批判にさらされ、その中でテイラーは60年の生涯を終えました。1915年、春までもう少しの3月でした。

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