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「金融グローバリゼーション~国際金融センターを目指す東京のこれから~」

更新日 : 2008年05月07日 (水)

第1章 グローバル化とITの進展が経済環境を変革

グローバル化とITの急速な進展により、世界の経済や金融市場は大きく変貌しました。その中にあって日本は、かつての栄光の座から滑り落ち、グローバルなプレゼンスを弱めつつあります。日本が世界に対する発言力を取り戻し、かつ持続的に経済を発展させるには、既存の産業と金融のバランスある発展に力を入れなければなりません。そのためにも、東京を国際金融センターに育て上げなければなりません。

斉藤惇

斉藤惇: 1990年代以降、世界の経済や金融資本市場は大きな変革を遂げました。変貌の背景のうちで特に重要なのは、グローバル化とインフォメーションテクノロジーの急速な進展です。この2つが相乗性を発揮し、さまざまな財やサービスが国境を越えて行き来するようになりました。それに伴って国際分業の進展や価格、賃金の収れん傾向が生じました。

日本では貧富の格差が問題になっていますが、国内の問題として論じていても意味がありません。中国では毎年約2300万人が低賃金で教育程度の高い労働者として輩出されています。日本の若い労働者は、労働市場において彼らと競争しているのでありその結果として格差が発生している現実を直視しないと日本の格差問題を解決できません。

一方、IT化の進展は、情報の処理と伝達のプロセスを大幅に効率化することで、取引にかかる時間的・空間的な制約を大きく削減しました。その変化は 金融にも大きな変化をもたらしました。取引対象や取引手法の観点から見ると、デリバティブ市場において取引対象が大きく拡大したのです。

1970年代初頭に理論的発展をした金融は、ゼロとイチのデジタル化に非常にうまく乗りました。また、デスクトップの出現と普及は、金融商品を世界の統一商品に変化させました。金融がコンピューター世界にマッチしたのです。

1970年前後の日本の金融機関は、IT化の進展に伴う変化を残念ながら理解していませんでした。株式や国債のように市場価格が存在する資産は当然 ですが、それ以外の信用リスクもモデル評価による理論価格に基づいて取引を行なう領域が急速に拡大しました。同時に、市場価格と理論価格の間の裁定取引が 急速に発達しました。つまり、原資産が何であっても、そこから生じるキャッシュフローを証券化するという考え方や技術が普遍化したのです。


該当講座

『金融グローバリゼーション~国際金融センターを目指す東京のこれから』
斉藤惇 (株式会社東京証券取引所グループ 取締役兼代表執行役社長 株式会社東京証券取引所 代表取締役社長)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

日本経済を支えてきた「モノづくり」に代わるものとして、知識集約型産業としての「金融」が注目されています。GDPに占めるモノづくりの割合は僅か25%程度しかなく、残りの75%はサービス業が占め、なかでも金融サービスは国富を生み出す力として、大きな関心が集まっているからです。日本が21世紀を通じて更なる....


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