記事・レポート
折れない心をつくる
メガストレス時代のメンタルタフネス術:渡部卓
〜ケロッグ経営大学院 モーニング・セッションより
BIZセミナー経営戦略キャリア・人
更新日 : 2015年02月04日
(水)
第5章 ストレスが起こるメカニズム

現代型うつが生まれた背景
渡部卓: ストレスの起こるメカニズムについては、人間をゴムボールにたとえてご説明します。ゴムボールのなかには、感情、体、行動、考え方が入っています。ゴムボールに石がぶつかる。この石が、ストレスの原因となる外部からの刺激、心理学ではストレッサーと言います。ストレッサーとなるものは、自分で認識できるもの、できないもの、人・物・環境など実にさまざま、人それぞれです。
ゴムボールに石(ストレッサー)がぶつかった際、私たちはまず、それが自分にとり有害なのか、無害なのかを評価します。とは言いつつも、無害だと評価し、上手に処理できるケースは少ないと思います。石がぶつかり続けていると、その部分が大きく歪み、傷がついてしまいます。ストレスとはこの状態を指します。また、ゴムボールを元の形に戻そうとすることを、ストレス反応と言います。
同じ種類の石(ストレッサー)がぶつかり、ストレスを感じても、その後の影響の現れ方は千差万別です。ゴムボールには、感情、体、行動、考え方が入っているからです。常にイライラや不安を感じるなど、感情に影響が現れる人。頭痛や腹痛など、体に影響が現れる人。遅刻や欠勤など、行動に影響が現れる人。何事もネガティブ思考になるなど、考え方に影響が現れる人。これらが重複する人。ストレッサーの種類だけでなく、影響の現れ方も多様であることが、メンタルヘルスの問題解決を難しくしています。

ストレスは悪者ではない
渡部卓: ストレスがもたらす影響を見ていく際には、横軸にストレスの累積負荷・蓄積時間、縦軸に心身の活性度(体や脳の反応)を配し、そのなかに山なりの放物線を描きます。まったくストレスのない状態を起点として、退屈→やる気→快適→イライラ→燃え尽き→うつ→うつ病というゾーン順に、心身の活性度は変化していきます。
ストレスのない状態は理想的に思えますが、そればかり続いても人間は成長できません。一般的に、ストレスは悪者のように扱われていますが、決して悪いことばかりではないのです。国内外の研究では、適度のストレスはやる気を高め、パフォーマンスの向上にも有効であると実証されています。特に、放物線の頂点に近い快適ゾーン、心理学で「フロー」と呼ばれる状態は、ランナーズ・ハイのように1つの活動に没頭し、純粋な幸福感を覚えるような状態であり、パフォーマンスの質も飛躍的に向上します。
しかし、人により差異はあれども、ストレスに対するキャパシティは無限ではありません。ストレスがかかり続けると、必ずどこかでピークを迎え、放物線は下降し始めます。ゴムボールが元の形に戻らなくなってしまうのです。
放物線が下降に転じたとき、最初に現れるのが「イライラ」です。その解消のために、タバコやギャンブル、最近ではネットショッピングやスマホなどに依存するようになります。併せて注意したいのが「3つのA」です。まずはAlcoholです。飲酒の頻度や量の増加は、寝坊や二日酔い、喜怒哀楽のコントロール不全につながります。次にAccidentです。けがや事故、仕事上のミス、コンプライアンス違反、ハラスメントなどが増えていきます。最後はAbsenteeismです。体調不良を理由とした遅刻や早退、欠勤が増え、それが常態化していきます。
イライラを放置していると、次に起こるのが燃え尽きです。あらゆることに対してやる気が失われ、思考したり、体を動かしたりすることが億劫になる。さらに進むと、うつの状態となり、やがてうつ病に至ります。
ストレスは、日々の生活のなかでじわじわと蓄積していくものです。そのため、自分自身でその影響を感じることが難しく、気がついたときには重い症状を抱え込んでしまっていることも多いのです。また、医学的な統計によれば、うつ病などにより長期間休業した人は、その半数程度が再発してしまうこともわかっています。うつや不安を予防する最初のポイントは、イライラから来る依存傾向に注意することです。
折れない心をつくる
インデックス
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第1章 日本で初めて「ストレス」を語ったのは誰?
2015年01月21日 (水)
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第2章 ストレスを取り巻く世界の現状
2015年01月26日 (月)
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第3章 折れやすい心 3つの傾向 (1)
2015年01月29日 (木)
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第4章 折れやすい心 3つの傾向 (2)
2015年02月02日 (月)
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第5章 ストレスが起こるメカニズム
2015年02月04日 (水)
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第6章 ストレスの状態を知るためのチェックリスト
2015年02月06日 (金)
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第7章 事実の受け止め方・捉え方を変えるABC理論
2015年02月09日 (月)
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第8章 コミュニケーションに役立つ傾聴
2015年02月12日 (木)
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第9章 これからのメンタルタフネス経営
2015年02月16日 (月)
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第10章 部下には弱さを見せても良い?
2015年02月18日 (水)
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