記事・レポート
無料で学べる「オープンエデュケーション」がもたらす人材革命
~ウェブで教育の機会が世界に開かれる意味:飯吉透×石倉洋子~
キャリア・人ビジネススキル政治・経済・国際
更新日 : 2012年08月06日
(月)
第3章 ナレッジは暗黙知のままではオープンにできない
飯吉透: オープン・ナレッジというのは、主として「教育実践知の共有」のことです。ベテランの先生はうまく教えられるけど、新人の先生はなかなかうまく教えられませんよね。「だったらバーチャルでメンターが一緒に教えればいいじゃないか」と考えたMITは、「BLOSSOMS(ブロッサムズ)」というプロジェクトを立ち上げました。 http://blossoms.mit.edu/
大学の先生や生徒に10分程度の短い授業ビデオをつくってもらい、世界中の先生が使えるようにしたのです。ビデオはTeaching Duetというコンセプトで作られていて、世界各地の教室にいる先生と、ビデオの中の先生が一緒になって教えるという構成になっています。ビデオで一緒に教えているうちにだんだん「教え方のツボ」がわかってきて、ビデオの中の先生の持っている教育実践知が、いつの間にか教室にいる先生のものにもなるというわけです。
MITでは、学部内でオープン・ナレッジを自発的に進めているところもあります。MITは全学生に、卒業までに、学会で発表できるプロレベルのスキルから、子どもにかわるように教えるスキルまで身に付けることを課しているのですが、このスキルはコミュニケーション学科の先生が教えているわけではなく、各学部の各教員が教えなければならないんです。数学の先生であっても、コミュニケーションスキルを教えなければいけないので、先生たちは大変です。
そこで数学科の先生たちはWikiやWordPressなどを利用したシステムを作って、各自のコミュニケーション・ティーチングのノウハウやアイデアを蓄積するようにしました。こうすれば、どうやって教えたらいいかわかるし、後から入ってきた先生も戸惑わずにすみます。教育実践知が蓄積されていくというわけです。
自分の頭の中にある教育のナレッジ(知識や経験)を継続的に蓄積していくことは容易なことではありません。しかし教育のナレッジは、時空を超えて伝わる形で表象され、蓄積され、共有されなければ、無数のシャボン玉のようにすぐに消えて失われてしまいます。だから何とかしてこれを実現したいと私は思ったわけです。それでカーネギー財団にいたとき、暗黙知を形式知にする研究をしました。そうしてできたのが「KEEP Toolkit」です。残念ながら現在ではサービスは終了していますが、世界中で3万8000人以上の教育者や学生が、14万以上もの教育的知識の表象(ナレッジ・オブジェクト)を生み出してくれました。
例えば「自分はどういう教育の試みをしていて、どういうことを伝えたいのか」とか、「こういう教え方や学び方の問題を、このようなテクノロジーを使って、こう解決した」とか。映画のディレクターズカットと同じような要領で、作り手の意図がわかると、ユーザーも教育ツールや教材がうまく使えるようになります。逆に作り手とは違った意図でユーザーが使うこともありますが、それはそれで思わぬ効果が出ることもあります。そのようなアイデアや知見を皆で共有することにも、大きな意義があります。
これをもう一度、日本でもやりたいと思い、今、京都大学で仲間と一緒に取り組んでいるところです。
テクノロジーやコンテンツは、ナレッジによって質的に改善されていきます。ツールや教材は、使ってみてどうだったかがわからなければ、いつまで経っても進化しません。大事なのは「オープン・テクノロジー」と「オープン・コンテンツ」と「オープン・ナレッジ」の全てが、教育活動を通して共有され、みんなの知見がオープンに積み重なっていくことです。こうなって初めて、教えと学びの「開化と進化と深化」の循環が生まれます。残念なことに日本では、どれもほとんど進んでいません。
大学の先生や生徒に10分程度の短い授業ビデオをつくってもらい、世界中の先生が使えるようにしたのです。ビデオはTeaching Duetというコンセプトで作られていて、世界各地の教室にいる先生と、ビデオの中の先生が一緒になって教えるという構成になっています。ビデオで一緒に教えているうちにだんだん「教え方のツボ」がわかってきて、ビデオの中の先生の持っている教育実践知が、いつの間にか教室にいる先生のものにもなるというわけです。
MITでは、学部内でオープン・ナレッジを自発的に進めているところもあります。MITは全学生に、卒業までに、学会で発表できるプロレベルのスキルから、子どもにかわるように教えるスキルまで身に付けることを課しているのですが、このスキルはコミュニケーション学科の先生が教えているわけではなく、各学部の各教員が教えなければならないんです。数学の先生であっても、コミュニケーションスキルを教えなければいけないので、先生たちは大変です。
そこで数学科の先生たちはWikiやWordPressなどを利用したシステムを作って、各自のコミュニケーション・ティーチングのノウハウやアイデアを蓄積するようにしました。こうすれば、どうやって教えたらいいかわかるし、後から入ってきた先生も戸惑わずにすみます。教育実践知が蓄積されていくというわけです。
自分の頭の中にある教育のナレッジ(知識や経験)を継続的に蓄積していくことは容易なことではありません。しかし教育のナレッジは、時空を超えて伝わる形で表象され、蓄積され、共有されなければ、無数のシャボン玉のようにすぐに消えて失われてしまいます。だから何とかしてこれを実現したいと私は思ったわけです。それでカーネギー財団にいたとき、暗黙知を形式知にする研究をしました。そうしてできたのが「KEEP Toolkit」です。残念ながら現在ではサービスは終了していますが、世界中で3万8000人以上の教育者や学生が、14万以上もの教育的知識の表象(ナレッジ・オブジェクト)を生み出してくれました。
例えば「自分はどういう教育の試みをしていて、どういうことを伝えたいのか」とか、「こういう教え方や学び方の問題を、このようなテクノロジーを使って、こう解決した」とか。映画のディレクターズカットと同じような要領で、作り手の意図がわかると、ユーザーも教育ツールや教材がうまく使えるようになります。逆に作り手とは違った意図でユーザーが使うこともありますが、それはそれで思わぬ効果が出ることもあります。そのようなアイデアや知見を皆で共有することにも、大きな意義があります。
これをもう一度、日本でもやりたいと思い、今、京都大学で仲間と一緒に取り組んでいるところです。
テクノロジーやコンテンツは、ナレッジによって質的に改善されていきます。ツールや教材は、使ってみてどうだったかがわからなければ、いつまで経っても進化しません。大事なのは「オープン・テクノロジー」と「オープン・コンテンツ」と「オープン・ナレッジ」の全てが、教育活動を通して共有され、みんなの知見がオープンに積み重なっていくことです。こうなって初めて、教えと学びの「開化と進化と深化」の循環が生まれます。残念なことに日本では、どれもほとんど進んでいません。
関連書籍
『ウェブで学ぶ~オープンエデュケーションと知の革命~』
梅田望夫,飯吉透筑摩書房
『グローバルキャリア~ユニークな自分のみつけ方~』
石倉洋子東洋経済新報社
『世界級キャリアのつくり方』
黒川清,石倉洋子東洋経済新報社
無料で学べる「オープンエデュケーション」がもたらす人材革命 インデックス
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第1章 一人の教育"バカ"の情熱が世界を変える
2012年08月02日 (木)
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第2章 オープンエデュケーションを構成する3つの要素
2012年08月03日 (金)
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第3章 ナレッジは暗黙知のままではオープンにできない
2012年08月06日 (月)
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第4章 高等教育もロングテール化が必要~日本の大学の崩壊は近い~
2012年08月07日 (火)
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第5章 カリキュラムも教材もないオンライン大学が登場
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2012年08月10日 (金)
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第7章 やりたいことがあれば、英語の壁は越えられる
2012年08月20日 (月)
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2012年08月21日 (火)
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第9章 21世紀をサバイバルするには「学び続ける力」が必要
2012年08月23日 (木)
該当講座
オープンエデュケーションがもたらす人材革命
~ウェブによって世界中の人々に教育の機会が開かれる意味~
飯吉 透(京都大学 高等教育研究開発推進センター 教授)
石倉 洋子(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授)
全世界に広がるオープンエデュケーションを巡る動きを解説し、これからの教育、個人のキャリア構築がどのように影響を受けるのかを考察します。また、グローバル人材の育成が急務と言われる中、日本人はオープンエデュケーションを具体的にどのように活用していけばいいのか、議論します。
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