記事・レポート
「政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年」
BIZセミナーその他
更新日 : 2008年08月25日
(月)
第7章 「難しい」日本語。No.と言わずにNo.と言う価値観

ジェラルド・カーティス: 言葉というのはその社会にある価値観を反映するものですし、日本語の複雑さもあって、外国人から見ると、非常に誤解されやすいことも多いのです。例えばつい最近まで、よく意味が分からなかった日本語があります。
例えば「難しい」という言葉です。これはすごくいい言葉ですね。講演を頼まれて、やりたくないとき、「いやあ、ちょっとできません」と言うと、相手は非常に気分を悪くするし衝突するわけです。「本当にできませんか?」と、しつこく聞かれることがよくあります。最近分かったのは、そういうときは「できればやりたいのですが、ちょっと難しい」と答えると、すぐ諦めてくれるんです(笑)。
要するに衝突しない、No.と言わないようにNo.と言う、これが日本の価値観であって、言葉に表れています。
また、これは初めて日本に来たときの経験ですが誰かと一緒に食事をした最後に、そこにいらした夫婦の奥さんが非常に誠意を込めて「今度、ぜひ家に遊びにいらっしゃい」と言ってくれたのです。私は喜んで、「ありがとうございます。いつ、伺えばいいですか?」と聞いたら、向こうが困った顔をして、私も恥をかきました。「うちに遊びにいらっしゃい」というのは、日本語だと1つの挨拶ですね。
もう1つ、これを覚えていたら、本にも書けたのにと、非常に残念な例があります。私は昔、日本研究センターという日本語学校にいました。アメリカの16の大学が共同経営をしているInter-University Centerというすばらしい学校で、今は横浜にあるのですが、私が西荻窪に住んでいた頃は、三鷹のICUの部屋を借りていて、そこで勉強していました。たまたま今朝、ある先生に頼まれて博士号の口答試験の審査のために久しぶりにICUに行って、それこそ40年前の昔のことを思い出しながら、懐かしく思っていたのです。
その日本研究センターに高木きよ子という先生がいらっしゃいます。一番お世話になった先生ですが、十何年も話をしていなかったので、今日電話をして、「今度出版記念パーティがあるから、ぜひいらしてください」と言ったのです。招待状を出すだけでは、多分遠慮していらっしゃらないと思ったので、電話をしたんです。そうしたら喜んで「行きます」と言ってくださいました。
その高木先生が「カーティスさんが昔私に言ったことが、今センターの教科書に載っていますよ」と言われたので、何のことかと思ったら、「勉強する」という言葉についてでした。「勉強する」には、いわゆる勉強をする=studyという意味と、店が「勉強する」=物を安くするという意味があります。
私は全然忘れていましたが、昔、先生のところに「ちょっと聞きたいことがある」と行ったことがあります。「今日、机を買いに行ったら、お店の人が"ちょっと勉強しますよ"と言った。なぜ店の人が僕の机で勉強をするの?」と(笑)。それが、センターの教科書になっていると言うのです。これも日本語の難しさです。
それと今、すごく気になる言葉があります。この話をしたら多分皆さん、この表現をこれから使えないだろうと思います。私のことを「下手な日本人よりも、日本語が上手ですね」とか、「下手な日本人よりも、日本の政治が分かる」と褒めてくれるのですが、「下手な日本人より上手」というのは「下手ではない普通の日本人よりも、あなたは下手ですよ」という意味ではないかと思って、いつも不思議に思うのです(笑)。
この本を読んだ友だちからも、「あなたは下手な日本人よりも、本当に日本の政治が分かるし、日本語も上手ですね」と言われたのですが、そこでサンキューとはちょっと言えない。言う気持ちになりませんよね(笑)。
そういう意味で日本語の面白さ、複雑さは、いつまで勉強しても勉強し足りないという気持ちでいます。
例えば「難しい」という言葉です。これはすごくいい言葉ですね。講演を頼まれて、やりたくないとき、「いやあ、ちょっとできません」と言うと、相手は非常に気分を悪くするし衝突するわけです。「本当にできませんか?」と、しつこく聞かれることがよくあります。最近分かったのは、そういうときは「できればやりたいのですが、ちょっと難しい」と答えると、すぐ諦めてくれるんです(笑)。
要するに衝突しない、No.と言わないようにNo.と言う、これが日本の価値観であって、言葉に表れています。
また、これは初めて日本に来たときの経験ですが誰かと一緒に食事をした最後に、そこにいらした夫婦の奥さんが非常に誠意を込めて「今度、ぜひ家に遊びにいらっしゃい」と言ってくれたのです。私は喜んで、「ありがとうございます。いつ、伺えばいいですか?」と聞いたら、向こうが困った顔をして、私も恥をかきました。「うちに遊びにいらっしゃい」というのは、日本語だと1つの挨拶ですね。
もう1つ、これを覚えていたら、本にも書けたのにと、非常に残念な例があります。私は昔、日本研究センターという日本語学校にいました。アメリカの16の大学が共同経営をしているInter-University Centerというすばらしい学校で、今は横浜にあるのですが、私が西荻窪に住んでいた頃は、三鷹のICUの部屋を借りていて、そこで勉強していました。たまたま今朝、ある先生に頼まれて博士号の口答試験の審査のために久しぶりにICUに行って、それこそ40年前の昔のことを思い出しながら、懐かしく思っていたのです。
その日本研究センターに高木きよ子という先生がいらっしゃいます。一番お世話になった先生ですが、十何年も話をしていなかったので、今日電話をして、「今度出版記念パーティがあるから、ぜひいらしてください」と言ったのです。招待状を出すだけでは、多分遠慮していらっしゃらないと思ったので、電話をしたんです。そうしたら喜んで「行きます」と言ってくださいました。
その高木先生が「カーティスさんが昔私に言ったことが、今センターの教科書に載っていますよ」と言われたので、何のことかと思ったら、「勉強する」という言葉についてでした。「勉強する」には、いわゆる勉強をする=studyという意味と、店が「勉強する」=物を安くするという意味があります。
私は全然忘れていましたが、昔、先生のところに「ちょっと聞きたいことがある」と行ったことがあります。「今日、机を買いに行ったら、お店の人が"ちょっと勉強しますよ"と言った。なぜ店の人が僕の机で勉強をするの?」と(笑)。それが、センターの教科書になっていると言うのです。これも日本語の難しさです。
それと今、すごく気になる言葉があります。この話をしたら多分皆さん、この表現をこれから使えないだろうと思います。私のことを「下手な日本人よりも、日本語が上手ですね」とか、「下手な日本人よりも、日本の政治が分かる」と褒めてくれるのですが、「下手な日本人より上手」というのは「下手ではない普通の日本人よりも、あなたは下手ですよ」という意味ではないかと思って、いつも不思議に思うのです(笑)。
この本を読んだ友だちからも、「あなたは下手な日本人よりも、本当に日本の政治が分かるし、日本語も上手ですね」と言われたのですが、そこでサンキューとはちょっと言えない。言う気持ちになりませんよね(笑)。
そういう意味で日本語の面白さ、複雑さは、いつまで勉強しても勉強し足りないという気持ちでいます。
「政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年」 インデックス
-
第1章 本を日本語で書いたのは、日本語でしか考えられないことがあるから
2008年06月25日 (水)
-
第2章 日本を勉強して45年。変化し続ける日本はおもしろい
2008年07月03日 (木)
-
第3章 アメリカ社会の強さは、「遅咲き」を許す力にある
2008年07月17日 (木)
-
第4章 深刻な頭脳流出
2008年07月25日 (金)
-
第5章 防衛にはハード面の軍事ではなく、ソフト面の交流が必要
2008年08月04日 (月)
-
第6章 日本語には音楽のようなリズムがある
2008年08月14日 (木)
-
第7章 「難しい」日本語。No.と言わずにNo.と言う価値観
2008年08月25日 (月)
-
第8章 カタカナをやめれば、英語の発音は良くなる
2008年09月02日 (火)
-
第9章 だめなのは若者ではなく、若者の夢を実現できない社会構造
2008年09月12日 (金)
-
第10章 社会の変化についていけない日本の政治
2008年09月26日 (金)
-
第11章 フィールドワークで、日本の政治家が代議士になるまでを追う
2008年10月06日 (月)
-
第12章 「お流れちょうだいします」はもう通じない、自民党の危機
2008年10月20日 (月)
-
第13章 かつての自民党の集票マシンの仕組み
2008年10月31日 (金)
-
第14章 ボスが全てを握る時代は終わった
2008年11月11日 (火)
注目の記事
-
11月21日 (火) 更新
六本木アートカレッジ
2022-2023年の六本木アートカレッジ <未来を拡張するゲームチェンジャー>」では、新しい価値を生み出す5名のゲストを招き、トークイベン....
<未来を拡張するゲームチェンジャー>イベントレポート
-
11月21日 (火) 更新
動的書房 ~生物学者・福岡伸一の書棚
目利きの読み手でもある生物学者の福岡伸一が、六本木ヒルズライブラリーのために、特別に選んだ“これだけは読んでおきたい本”“ いま読むべき本”....
-
11月21日 (火) 更新
もっとも書物らしい書物—西洋中世写本の魅力に触れる書籍案内
今回は「もっとも書物らしい書物—西洋中世写本の魅力に触れる書籍案内」と題し、手書きから印刷、そしてデジタルへと変遷してきた「書物」の歴史を辿....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 12月13日 (水) 19:30~21:00
World Report 第6回 アメリカ発 by 渡邊裕子
いま世界の現場で何が起きているのかを、海外在住の日本人ジャーナリスト、起業家、活動家の視点を通して解説し、そこから何が見えるのかを参加者の皆....
「投開票まであと1年!米国大統領選挙を読み解く」
-
開催日 : 12月08日 (金) 18:30~20:00 読書体験会 第3回 / 09月13日 (水) 18:00~19:30 トークイベント ※終了いたしました / 10月18日 (水) 18:30~20:00 読書体験会 第1回 ※終了いたしました / 11月13日 (月) 18:30~20:00 読書体験会 第2回 ※終了いたしました
『スマホ時代の哲学』読書体験会
スマホ時代の課題を哲学の視点を使って考えていく本書『スマホ時代の哲学〜失われた孤独をめぐる冒険〜』。著者の哲学者・谷川嘉浩さんと、人材・組織....