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「政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年」

BIZセミナーその他
更新日 : 2008年07月25日 (金)

第4章 深刻な頭脳流出

ジェラルド・カーティスさん

ジェラルド・カーティス: 安倍晋三さんは「再チャレンジをやるべきだ」と言いましたが、彼が言っているのは、「メーンストリームから離れた人がもう一度そこに戻って、オーソドックスな生活がきちんとできるように」ということだったと思うのです。フリーターはもっとまじめになりなさい、まじめになるならそのチャンスを与えましょう、と。アメリカの場合はそうではなくて、好きなことをするチャンスをいくらでも与える。こういうよさがあります。

日本では「今の若者はだめだ」とよく言われます。年をとった人たちが「若者はだめだ」と言うのは世界共通ですが、私はそうは思いません。「若い人たちがだめだ」と言うなら、若い人たちを育てた親、その大人たちはもっとだめだということでしょう。だから「若い人たちはだめだ」と日本人の友だちが言うと、「いや、我々自身がだめだ」と言わないとだめだと私は思うのです。

「若い人たちがだめ」というよりも若い人たちの持っている夢を実現できるような社会構造になるかどうかが日本の大きな問題だと思います。

歴史を見ると、日本の非常に特徴的なことの1つは、近代国家になる過程において、ほとんど頭脳流出「brain drain」という現象が起こらなかったことです。明治時代にドイツやイギリス、アメリカにたくさんの人たちが留学しましたが、ほとんどが帰ってきて日本に貢献をして、日本で生活をしました。

中国やフィリピンなどほかの国々を見ると、発展のときにアメリカに行って、そのままアメリカに残る、頭脳流出がすごくあるわけです。日本にはそれがなかった。戻ってきたら日本に貢献できるような仕事があるし、持っている知識や技術を日本という国が非常に重視する時代だったのです。

不思議というか大変なことに、今、先進国になった日本で初めて深刻な頭脳流出現象が起きています。コロンビア大学にいると、それがよく分かります。

だいぶ前から、しばらく日本の会社で働いて、いわゆる「見えない天井」にぶつかって会社をやめた日本の女性がアメリカに渡ってきて、コロンビアやハーバードのビジネススクールで勉強して、また新しい仕事をするという現象はありました。しかし最近、日本の一流企業で10年も働いてきた日本の男性が、「このままだったら先が見える。だったら辞めて、アメリカの大学院で勉強をやり直して、ほかのことをしたい」とやって来ることが急に多くなりました。この 5、6年、特にその現象が強い。この頭脳流出に日本がどう対応するか、大きな社会問題だと思います。

私は45年も日本にいて、日本の社会や政治をずっと見てきました。この本『政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年』では、いろいろなエピソードを書いて、日本の社会そのものが非常に大きく変わってきたということを論じています。

関連書籍

政治と秋刀魚—日本と暮らして四五年

カーティス,ジェラルド
日経BP社