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突き抜けるアート ~社会と人をつなぐもの~

変容するアートが人を変え、世界を変える:猪子寿之×津田大介

更新日 : 2015年12月16日 (水)

第10章 チームラボの作品を通じて人類を前に進めたい


 
「カッコイイ!」の基準を変える

津田大介: 今回のテーマは「社会と人をつなぐ」です。日本古来の空間認識、作品と個人・集団のインタラクティブな関係、あるいは街そのものをアートにするなど、様々なキーワードが飛び出しましたが、猪子さんとしてはチームラボの作品を通じて、社会に対して新たな価値観を提示しているという感覚はありますか?

猪子寿之: 全然分からなかった(笑)。もう一度お願いします。

津田大介: もっとシンプルな質問にします(笑)。猪子さんが語られたようなコンセプトが固まったのはいつでしょう?

猪子寿之: デジタルの可能性にかけようと思ったのは、2001年にチームラボをつくろうと思った時。近代以前の知にフォーカスしたのも同じ頃ですね。

津田大介: おそらく猪子さんは、何かを変えようとして表現活動を続けていると思いますが、それはアートを変えたいのか、アートを観る人を変えたいのか。それとも、社会そのものを変えたいのか?

猪子寿之: そうですね……。人類を前に進めたい。

津田大介: おお! チームラボの作品を通じて、人類は新たな気づきを得て、前に進んでいくと?

猪子寿之: そう思いますし、アートの役割の1つは「価値観を変えること」だと考えています。価値観と言えばきれいに聞こえますが、もっと分かりやすく言えば、誰もが「カッコイイ!」と感じる時の軸というか、基準を変えること。

最近よく話すのですが、18世紀半ばに産業革命が起こり、社会がガラッと変わった。その時に何が起こったかと言えば、技術革新によってイノベーションが起こり、大量生産が可能になり、ものが安く買えるようになった。それは大衆にとってはすごく良いことですよね。誰もが便利なものを手に入れられるようになれば、社会は前に進むから。

とは言いながら、当時の社会の価値観ではまだ、高いお金を出してつくったものが「カッコイイ!」だった。それが、アンディ・ウォーホルが登場して、キャンベルスープの作品を見せながら、「大量生産はカッコイイ!」と言ったことで……。

津田大介: 「カッコイイ!」の基準が変わったわけですね。

猪子寿之: アートによって社会をより前に進めた。もちろん、ウォーホルだけではないのですが、その辺りを分岐点にして、人々の「カッコイイ!」の基準が変わった。そして現在は、情報社会という新しい社会が始まっている。デジタルが登場したことで、様々なものは物質から解放された。それによって、僕達は「物質は有限」といった概念からも解放されるかもしれない。例えば、資源も食物も有限だと思っているから奪い合い、戦争が起こっている。

「物質は有限」といった概念から解放されれば、人は争わなくなるかもしれない。すると、社会にとって良いことがたくさん起こるはずです。デジタルにはそれを実現できるだけの極めて大きな可能性があり、人々をポジティブに変えることもできる。しかし、現状はまだ、多くの人がデジタルに対して偏見というか、うがった見方をしている。

津田大介: 無機質で味気ないと言われるデジタルの中に、むしろ、アナログ的なぬくもりのようなものがあるかもしれないのに。

猪子寿之: 僕達がつくるものを通じて、それを感じてもらいたい。それによって「カッコイイ!」の基準を少しずつ変えながら、人類を前に進められたらいいなと思っています。


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六本木アートカレッジ 突き抜けるアート~社会と人をつなぐもの~

世の中に新しい価値を送り出すウルトラテクノロジスト集団チームラボ代表、猪子寿之氏と、政治・経済・カルチャーなど独自の視点で発信している津田大介氏がアートの可能性を語ります。