記事・レポート
人はなぜ旅をするんだろう?
旅の本、いろいろ 〜好きな本がみつかる、ブックトーク
カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年04月17日
(木)
第9章 旅の移動手段あれこれ(3)

澁川雅俊: キャンピングカーなどはともかく、旅先でどこに泊まるかも大事な選択です。オリエンタル急行やトワイライト・エクスプレス、あるいは寝台列車カシオペアなどで旅をしても、車中泊だけではなんとなくもの足りません。そこでどこに泊まろうか、ということになります。
ホテルや旅館については‘る・る・ぶ’の大事な要件の一つですら、トラベルガイドのコンテンツには欠かせませんし、『世界のホテル』(パイインターナショナル)や『ニッポンの名宿』(エイ・ムック)他のホテルガイドがたくさん出されています。その中で面白いのは『可笑しなホテル』(ベティーナ・コバレブスキー/二見書房)で、トランク・ホテル、珊瑚礁ホテル、古代穴ぐらホテルなどなど、それは変わったホテル、というより宿泊処が紹介されています。


もちろん精錬されたホテルや旅館の本もあります。『アマン伝説』(山口由美/文藝春秋)は、その帯解題に「ホテル界最高のブランドであり、世界中のトラベラーが一度は訪れたい憧れのリゾーツ。いつしか〈スモールラグジュアリーホテル〉の代名詞、“究極の隠れ家” と称されるようになった。宿泊客が一度アマンのサービスを味うと、直ちに次の予約を入れたくなるという〈アマン・マジック〉。世界中のセレブリティたちから、このような言葉が誕生した」とあるように、そのたたずまいも、その〈お・も・て・な・し〉も極上のものについての本です。そのおもてなしの源泉が18世紀に創業した京都の名宿俵屋に連綿として繋がる客あしらいにあったことをこの著者は認めていますが、その客あしらいのフィロソフィは11代の女将佐藤年が自ら書き下ろした端整な文章と写真でビジュアライズされた『俵屋相伝』(世界文化社)から読みとれます。それほどの名旅館でなくとも、旅好きの歯科医〈宿格〉を規準に選んだ『日本百名宿』(柏井壽/光文社)もあります。たしかにこの本には‘ふつう’の旅人が気軽に泊まれる宿が挙げられていますが、旅館の品格なんて定めがたいものですから、中には「異議あり」と声が掛かりそうな宿屋もありそうです。

ところで『野宿入門』(かとうちあき/草思社)という旅での究極の寝泊まり方法を書いた本があります。著者は旅好きの若い女性で、「野宿野郎」などというミニコミ誌を出しているようですが、彼女はこの本で、誰に気兼ねすることもなく、「ちょっと自由になる生き方」のためにこの手を使うと書いています。この本を手にしたとき、このブックトーカーは「万葉の旅人、たとえば徴用されて関東の常陸から九州の筑紫に派遣された防人は何日も歩き旅をしながら、どこで寝泊まりしていたんだろう?」などと考えました。前に挙げた『旅の根源史』がその無垢な疑問にある程度応えています。それは7世紀の頃ですから、全国の国府と中央(奈良)を結ぶ道路が整備され、宿泊施設である駅家(うまや)などの旅のロジスティックスがそれなりに設置されていました。しかしそれらの駅家は宮廷人の出張など公用の旅用の施設で、庶民が利用できるのは道路だけで、たとえ大陸からの侵略を防衛するために全国から徴用された防人であっても「野宿を繰り返しながら難波の港(九州の筑紫まで船で輸送)までの旅をした」。しかも通貨など無い時代のことです。食料は自給自足(野山の動植物を採集・捕獲)であったようです。(了)
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