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人はなぜ旅をするんだろう?

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カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年04月04日 (金)

第5章 巡礼・お遍路・ピルグリム




澁川雅俊:  『シッダールタの旅』(竹田武史・構成・写真/新潮社)は、日本文化のルーツを探し求めている写真家が、ノーベル文学賞作家ヘッセの小説に寄って北インドの仏跡、聖地を巡り、物語の風景を美しい写真で再現しています。小説は釈迦が求道者の悟りの境地に至るまでの苦行や経験を描いているのですが、物語はそれを通じて私たち自身に人生の意味を問いかけています。

 巡礼は、自らの信仰を深め、神仏から特別の恩寵にあずかろうとして、聖地や霊場を巡拝する旅です。しかし、信仰とは異なるシチュエーションで旅をしても、「巡礼」やその類語が本の題名に使われることがしばしばあります。『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』(レイチェル・ジョイス、亀井よし子・訳/講談社)はまさにそういう旅の物語です。内容はこうです。定年退職した男が、かつての同僚でいつも職場で親切にしてくれていた女性から「末期癌で余命幾ばくもない」という手紙を貰った。男は見舞いの手紙を書き、近くにあるポストに投函するつもりで家をでたが、「次のポストまで行こう」、「次のポストまで行こう」と、次々に近隣のポストをやり過ごし、とうとう彼女のいるホスピスまで1000キロの道を歩いてしまった。信仰上の魂の救済ではないにしても、原題のUnlikely Pilgrimの響きがぴったりです。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹)とは違い、男の内なる旅だけでなく、イングランドからスコットランドまでのそこここの風景や出会った人びととの交流などを通して、‘ふつう’の旅の醍醐味を感じることもできます。『ドレのロンドン巡礼』(ギュスターヴ・ドレ・絵、谷口江里也・著/講談社)を描いたドレは、『旧約聖書』、『新約聖書』、『イソップ物語』、『ギリシャ神話』、『神曲』、『失楽園』、『ドン・キホーテ』、『グリム童話』などの古典や近代文学作品を挿絵で飾った18世紀の仏人です。作家は詩人ですが、この画家が亡命に近い形で一時ロンドンに逃れていた時に出したロンドンの影の部分、つまりその社会の底辺、貧困層の悲惨な生活を活写した画集『London: A Pilgrimage』(1872年)に寄って産業革命以後の英国、とりわけロンドンの発展の光と陰を克明に記述しています。これも宗教的な意味での巡礼ではないのですが、史上初の大都会ロンドンの表裏を訪ねてその様相を眺め、人間の業を否が応でもつぶさにするのは、この画家にとっては心底巡礼であったに違いありません。

 ‘ついで参り’などと称して、物見遊山の旅で神社仏閣や聖堂などを見学することがあるので、この本も巡礼の旅に類別してみました。『こころ満つる宿坊の旅』(東京書籍)は、NHK-BSで長期にわたって放映された番組の単行本化で、女優が旅人になって全国のお寺に泊まって修行をする体験を描いたものです。10人の女優がそれぞれ尼に扮して、全国の名刹で短期間の修行を演じます。

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