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人はなぜ旅をするんだろう?

旅の本、いろいろ 〜好きな本がみつかる、ブックトーク

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年03月28日 (金)

第2章 昔の旅にタイムスリップ




澁川雅俊:  『タイムマシン』(H・G・ウェルズ)、『戦国自衛隊』(半村良)、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などで知られている時間旅行SF小説・ファンタジーの系譜は18世紀ごろから続いてきており、いまも非常に数多く出版されています。ここではそういった本を省き、現実の昔の旅の本を取り上げました。

 「旅」の現代の定義は、「いま住んでいる場所を離れて、一時的にどこか余所へ出掛けること。しかし、たとえば買い物や通学・通勤、さらには仕事などで日常生活の範囲での移動とは区別」です。それだとしたら『人類20万年 遥かなる旅路』(アリス・ロバーツ、野中香方子・訳/文藝春秋)や『海を渡った人類の遥かな歴史』(ブライアン・フェイガン、東郷えりか・訳/河出書房新社)などは旅の本に入れることはできません。しかし、現代科学を駆使してわかったことを、前者は人類がいつ、どこで、どのように誕生し、地球の陸地のすべてに広がり現在に至ったかを、後者は古代人がした海を越えて他の大陸や島々への航海を旅に喩えています。しかも、これらの本から読みとれる壮大な旅のロマンは中途半端ではありません。

そうしたディアスポラはともかく、『旅の根源史』(田村正紀/千倉書房)は古代から現代までの旅へのさまざまなモチベーションを分析、それに基づいて時代々々の旅の様相を辿っています。たとえば古代の旅は万葉集の防人の歌のように別れや悲哀のそれであり、中世には西行のように何かを求めさまよい歩く漂白の旅がはやり、やがて下世話な煩わしさから一時的に逃れるために風雅を楽しんだり、自己を開放する個人観光旅行が盛んになります。また物見遊山の一方で、アイデンティティを求めて自分探しの旅などが盛んになるなど、現在では実に多様な旅が行われています。また、わが国初のレファレンスブック『旅と観光の年表』(旅の文化研究所・編/河出書房新社)が2011年に出版されています。これは、江戸から昭和までの道、鉄道や宿といった旅のインフラ、団体旅行などの旅行の形態、旅行業、習俗、文芸・出版など旅文化、あるいは観光文化に関連する事項を年代順にまとめたものです。江戸期以前の旅については、序文にまとめられており、秀逸な小論文になっています。


 『江戸の紀行文』(板坂耀子/中央公論新社)、『ニッポンの旅』(石川英輔/淡交社)、『中西進と読む「東海道中膝栗毛」』(中西進/ウェッジ)は、江戸の旅をとりわけ実証的に解説しています。板坂は中世の旅はどことなく悲壮感が漂っていたが、徳川の世は泰平で、人びとはどこへでも旅ができる喜びを満喫していることがさまざまな紀行文から読みとれ、面白い紀行文が少なからず書かれています。また文人や商人の旅が盛んで、「いかに実用的か」が求められ、情報量も豊富な地誌がさかんに書かれたことを読者に知らせています。なお、この著者は国文学者ですが、「一般に江戸時代の紀行文といえば『奥の細道』と認められているが、それよりももっと面白いのがある」と言って、何点かを紹介しています。それらが何か、その理由はどうしてかについてはこの本でお調べ下さい。〈江戸通〉と呼ばれている石川の旅の本は東海道筋のさまざまな名所図会を図版としてふんだんに掲載しながら、たとえば昨年遷宮で脚光を浴びた伊勢神宮への参拝、つまり伊勢参りなどについて「子供も犬も、勝手に伊勢参りに行っていた!」などと、平たく解説しています。中西は最近文化勲章を受章した古典文学者ですが、〈やじさん、きたさん〉の仲良し二人組の伊勢参りと上方見物の珍道中で有名な十返舎一九の滑稽本を辿りながら、昔の東海道の旅を再現しています。



 こんな本もあります。『古代ローマ帝国1万5000キロの旅』(アルベルト・アンジェラ、関口英子、佐瀬奈緒美・訳/河出書房新社)は、現在の西欧の半分に近東の一部を加えた広大な領域を、人間ではなく、当時の硬貨(セルテルチウス硬貨)が人の手から手、財布から財布へと渡るのを「旅」に見立てて書かれています。著者は前作『古代ローマ人の24時間』でデビューした、若いイタリア人ノンフィクション作家です。

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