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人はなぜ旅をするんだろう?

旅の本、いろいろ 〜好きな本がみつかる、ブックトーク

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年04月08日 (火)

第7章 旅の移動手段あれこれ(1)




澁川雅俊: 江戸時代の人びとはみな歩いて旅をしたわけですが、道中では籠や馬、あるいは舟船も利用しました。現在私たちはさまざまなやり方で旅を愉しむことができ、それがまた旅の醍醐味となっています。

 まず、歩く旅です。前に紹介した『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』で主人公はイングランドからスコットランドまで1,000km、『アグルーカの行方』では仲間たちと1,600km歩きました。『ロング・マルシュ』(ベルナール・オリヴィエ/藤原書店)で著者はイスタンブールから西安までのシルクロードを、なんと12,000kmも歩いたのです。妻に先立たれ、定年で仕事を辞した60歳のフランス人新聞記者はこの旅の想いをこう言っています。「私以前に、シルクロード全体を歩いて踏破した者はいない。マルコ・ポーロなみだね、とおっしゃるかもしれない。しかし、私はことさら快挙や手柄を狙ったつもりはない。むしろ自分の人生が何であったかを、ゆっくり反芻するようにしている。かねて久しく自分を探してきた私だが、旅は私の本当の姿を明らかにしてくれたのか? 私は以前と変わっていないと率直に認めないわけにはいかない。けれども閃きのように永遠の観念に手が届いたと感じることができることがある。ずいぶん大袈裟な物言いだとおっしゃるかもしれない。しかし視線が迷うほど広大なアナトリアのステップは、ふと神のようなものに触れられる夢想にむいているのである」。それは歩き旅だったからでしょうね。ところでその「ロング・マルシュ」がどんな道のりだったかは、写真集『再見マルコ・ポーロ「東方見聞録」』(マイケル・ヤマシタ/日経ナショナルジオグラフィック社(絶版))で見ることが出来ます。

 
 童画家・安野光雅も実に長く歩いた『旅の絵本』(福音館書店)を描いています。この本はシリーズで、中部ヨーロッパ篇、イタリア篇、イギリス篇、アメリカ篇、スペイン篇、デンマーク篇、中国篇、そして日本篇が出されています。画家は高齢ですから、それらの国々や地域を繋いでいる道を自ら歩いたわけではなく、旅人を擬した画家が歩き、時には馬に乗って移動しています。竹沢うるまの写真集『Walkabout』(小学館)は、オーストラリアの原住民が放浪の旅に出ることが語源で、転じて徒歩旅行の意味です。この若い写真家は、5大陸の103地域を自分の足で歩き、目で見た旅の記憶を撮影して35万枚の写真を撮りました。この本はその中からそれぞれの地域でいま輝いている人びとの姿を精選したものです。


 『歩く旅の本』(福元ひろこ/東洋出版)は、〈歩く〉そのことがモチベーションで南紀から熊野古道を選んでの旅をしたことが書かれています。著者は以前にフランス各地からピレネー山脈を経由しスペイン北部を通るサンチャゴ巡礼で1000kmを歩いて「女、三十路にして起つ」を確認していたようですが彼女のその心の内を斟酌(しんしゃく)すると、これもまた自分探しのお遍路の覚悟であったに違いないようです。その成果として、彼女は女一人歩き旅の方法を確立し、行路のイラスト・マップを可愛らしく書き上げています。

 『ぼくは旅にでた または、行きてかえりし物語』(杉山亮/径書房(増補・新装版))は、秩父から北信濃、越中、加賀、越前、飛弾、美濃、南信濃、そして秩父への中央日本一回りの歩き旅が書かれています。この本は、幸いを求めて旅立ったが「涙さしぐみ、かへりきぬ」の日記で、現在60歳の著者が33歳の時に書かれました。保父からおもちゃ作家へ、おもちゃ作家から児童書作家へ、児童書作家からストーリーテラーへと転身する男が、その旅で「峠を一つ越えるごとに新しい自分が創られて行く」のが実感できたと言っています。そんなところが一度増補改訂され、いままた再版された理由でしょうか。


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