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人はなぜ旅をするんだろう?

旅の本、いろいろ 〜好きな本がみつかる、ブックトーク

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年04月01日 (火)

第3章 数奇な冒険・探検記




澁川雅俊:  人は時たま未知との遭遇の旅をすることがあります。予期せずにそういう旅を強いられることもあります。そうした旅では、見たこともないものを見たり、食べたこともないものを食べたり、自分の信念や価値観が違う人と会ったりします。それらは遭難や災難、そして冒険や探検の旅です。

 『天平グレート・ジャーニー』(上野誠/講談社)は、副題に「遣唐使・平群広成(へぐりのひろなり)の数奇な冒険」とあります。奈良時代に遣唐使の随員として中国に派遣された一人の宮廷人の冒険を追跡した、ノン・フィクションです。その冒険はこの主人公が役目を終えて、帰途の船旅の最中から始まります。颱風のために船は難破し、遙か南のベトナム中部沿海にまで漂流し、艱難辛苦の末にようやく帰国します。それによりこの人物は、古代の日本人の中で最も広い世界を見たとされるにいたります。彼は朝鮮経由の船で帰国したのですが、その時の船便の調達に、先の遣唐使随員の一人で、帰国せずに唐に残留した阿倍仲麻呂の尽力があったことなどがエピソードとして挿入されています。それに対して山本一力の『ジョン・マン』(講談社)は小説です。しかしそれは伝記小説ですから、史実に忠実に書かれています。主人公中浜万次郎は十四歳の時に漁船で遭難、船で漂流の末米国の捕鯨船に救助されます。その後彼は文明国米国において高等教育を受け、成長します。およそ10年後に帰国した彼は、幕末の知識人として欧米の事情を幕府や倒幕の志士たちに伝えることになるわけですが、著者は「帰国から二年後、あのペリー艦隊がやってくる。この男がいなければ、日本は植民地になっていたかもしれない」と感想を述べています。



 『薔薇の名前』など数々の重厚な西洋中世物語で世界の読者を魅了してきた記号論理学者ウンベルト・エーコの『バウドリーノ』(岩波書店)も、数奇な旅の物語でしょう。赤髭王と呼ばれた神聖ローマ皇帝バルバロッサに仕えた農民の子バウドリーノが、西洋と東洋をまたにかけた出世と冒険のお話しです。とりわけ下巻では、 古代ローマ時代に書かれた地誌や博物誌、中世の百科全書などに書かれた想像上のアジア現地人(たとえば、一本足男、無頭人、羊足の美人族などなど)と主人公の交流は、大人向きのトールキン的ファンタジーを読むごとしで、どんどんページをめくりたくなる。まさにページターナーです。

 J・ヴェルヌの『八十日間世界一周』は、19世紀末の世界航路の整備を背景にして書かれた旅の物語です。出版当時その作品に登場する人たちのように世界中を頻繁に旅行する富裕層‘globetrotter(世界漫遊家)’が輩出されました。『グローブトロッター』(中野明/朝日新聞出版)は、英国外交官のアーネスト・サトウ(『日本旅行日記』) はもとより、上高地開発の祖ウェストン(『日本アルプスの登山と探検』)、ポトマック河畔の桜にかかわったシドモア(『日本紀行』、名著『日本奥地紀行』のバード、世界の日本研究者の座右の書『日本事物誌』を書いたチェンバレンなどなど、明治期の日本を訪れた外国人が遺した日記や旅行記あるいは紀行文を集めた本です。

『完訳日本奥地紀行』(平凡社)をいまに遺しているイザベラ・バードは、その女性グローブトロッターの一人です。彼女はいまから200年ほど前の日本を発見したのですが、いま私たちがそれを読めば、明治日本を再発見することになるでしょう。彼女は主に奥州と北海道を旅しましたが、伊勢から関西にも足を延ばし、京都で新島襄・八重夫妻に逢ったことが記されています。この本は平凡社の東洋文庫に収録されています。同文庫は日本を含むアジアの思想・哲学、歴史・地誌、文学の古典が精選されて収められています。『グローブトロッター』に含まれている外国人の日本旅行記の幾つかが含まれていますが、M・ポーロの『東方見聞録』他、幾つかのアジア地域の著名な旅行記も収められています。

 『マチュピチュ探検記』(マーク・アダムス/青土社)も、関連本に入れてよいでしょう。この天空都市はいまでこそ世界遺産ですが、15世紀に造営された山岳都市のマチュピチュは突然に廃墟と化し、その後、数百年ものあいだ、存在が確認できませんでした。謎の都市はいまからおよそ100年前に、あのインディ・ジョーンズのモデルとされている米国人考古学者によって発見されます。この本はその人物の謎の都市再発見の旅をフォローしたものです。

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