記事・レポート
世界初! 人工クモ糸繊維の量産基盤技術確立までの物語
スパイバー・関山和秀:「QMONOS」開発秘話と、クモの糸で変わる未来
日本元気塾経営戦略キャリア・人
更新日 : 2013年12月03日
(火)
第5章 合成クモ糸繊維でイノベーションを起こそう!
スパイダーとファイバーで、スパイバーだ!
関山和秀: この研究がスタートしたのは、私が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の環境情報学部4年に在籍していた2004年です。私は、ある飲み会の席で「クモ糸を実用化して、イノベーションを起こそう!」と、当時大学2年だった菅原潤一と語り合っていました。話の流れから、会社名を決めることになり、「スパイダーとファイバーでスパイバーだ!」と、研究を始めるよりも先に会社名が決まりました(笑)。
後日、私と菅原が「クモ糸を作る」と宣言すると、その難しさを知る大学の先生方や仲間はまともに取り合ってくれませんでした。唯一、所属する研究室の長であった冨田勝教授(※編注1)だけは「面白そうだから、やってみろ」と応援してくれました。
2004年11月、SFCが主催するオープン・リサーチ・フォーラム(ORF)が行われました。ORFは年1回、すべての学部の研究を一般の方々に紹介するもので、2004年はキャンパスではなく、初めて東京に場所を移し、六本木ヒルズで行われました。
ORFでは、SFC発の起業家を応援するアントレプレナー・アワードが開催されており、私はORFが開かれる前、冨田教授から出場してみたらどうかとのメールをいただきました。研究自体ようやく始めたばかりで、何一つ成果の出ていない段階でしたが、菅原と共に出場することを決めました。他のチームは多くが上場間近、すでに売上を何億円も出しているようなチームばかりでした。
当日、六本木駅の地下から階段を上がると、目の前に巨大なクモのオブジェが現れました。「これは運命だ!」と、奇跡が起こる予感を覚えました(笑)。私は菅原と共に必死にプレゼンテーションを行いましたが、何ら成果の出ていない私たちは、いずれの賞も獲得できませんでした。しかし、環境情報学部長であった熊坂賢次教授が、急きょ「特別賞」を作り、私たちの志と意欲を高く評価してくれたのです。
山形で起業する
関山和秀: 特別賞の受賞に背中を押され、大学院の修士課程に進んでからは他の研究を一切やめ、クモ糸の人工合成の研究1本に絞りました。先生方からは「修士課程が終わるまでに、どこまで研究を進めるつもりなのか」と問われ、成功する見込みなどまったく無いなか、「繊維までは必ず作ります」と宣言しました。
修士課程が終わる間際の2007年1月、ごくわずかな量のタンパク質の合成に成功しました。さっそく、自作の紡糸装置で繊維化し、抽出したものを顕微鏡で見たところ、初めて“糸らしきもの”が確認できたのです。
それは、顕微鏡でなければ分からないほど小さく、繊維とは呼べない代物でしたが、私たちは心から感動し、道が開けたように感じました。その勢いのまま、共に研究を始めた菅原、私の高校の同級生で公認会計士だった水谷英也とともに、スパイバーを設立したのが2007年9月でした。
半年をかけ、山形県鶴岡市にある鶴岡バイオサイエンスパーク(※編注3)の一角に専用のラボを作りました。限られた資金のもと、必要最低限の設備だけを揃えた小さな部屋で、人工合成クモ糸の研究に取り組んだのです。
(※編注1)
冨田勝
慶應義塾大学環境情報学部教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所長。専門は先端生命科学、システム生物学、メタボローム解析、バイオインフォマティクス、バイオテクノロジー、情報科学など。
(※編注2)
熊坂賢次
慶應義塾大学環境情報学部教授。社会学者。専門はライフスタイル論、ネットワーク社会論など。2003年から岐阜県大垣市に本拠を置く公益財団法人ソフトピアジャパンの理事長も務める。
(※編注3)
鶴岡バイオサイエンスパーク
山形県鶴岡市にある、産学官共同のバイオ技術に関する研究拠点。慶應義塾大学先端生命科学研究所・鶴岡タウンキャンパスと、鶴岡市先端研究産業支援センター「鶴岡メタボロームキャンパス」を中心に構成され、スパイバー株式会社も本社を置く。
世界初! 人工クモ糸繊維の量産基盤技術確立までの物語 インデックス
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第1章 従来にないタフさと伸縮性を併せ持つ次世代型の新素材
2013年11月26日 (火)
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第2章 世界最高のタフネスをもつ天然“クモ糸”とは?
2013年11月28日 (木)
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第3章 クモ糸の人工合成・量産化を阻む2つの壁
2013年11月29日 (金)
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第4章 そして、ブレークスルーは生まれた
2013年12月02日 (月)
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第5章 合成クモ糸繊維でイノベーションを起こそう!
2013年12月03日 (火)
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第6章 “合成クモ糸繊維”で、世界初のサプライヤーに
2013年12月05日 (木)
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第7章 ビッグデータからフィードバックする仕組みを構築
2013年12月06日 (金)
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第8章 タンパク質で世界のものづくりを変える
2013年12月09日 (月)
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第9章 イノベーションの大敵は、挑戦への恐怖と既成概念
2013年12月10日 (火)
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第10章 オープン・イノベーションで重要なのは、マネジメントとグローバル展開
2013年12月12日 (木)
該当講座
奇跡の新素材「クモの糸」を語る
~無限の組合せがものづくりの概念を変える~
関山和秀(スパイバー㈱代表取締役社長)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)
脱石油の超高性能バイオ素材として注目される「クモの糸」。米軍も開発に取り組むも、断念したと言われる、夢の繊維の量産化技術の開発に、世界で初めて成功した、スパイバー株式会社の関山和秀氏をゲストに迎えます。この分野の市場規模は、数千億円~1兆円と推測されます。今、世界をリードする「スパイバー」の最新の開発状況、今後の展開を伺います。
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