石倉洋子のグローバル・ゼミ

ゼミでの失敗を糧に、世界へ

グローバル•アジェンダ•ゼミナールのメインファシリテーター、石倉洋子さんに聞く

更新日 : 2009年11月04日 (水)

第3章 ダボス会議は発見と啓発に満ちている


2000年からずっとダボス会議(世界経済フォーラムが毎年1月、スイスのダボスで開催する年次総会の通称)に参加されていらっしゃいますが、石倉さんにとってダボス会議とは?

その時に世界が直面している課題(グローバル・アジェンダ)を知る、さまざまな分野に秀でた世界中の人々に直接会える、新しいアイディアがどんどん生まれるところです。会議のフォーマット(やり方)も常に変わっていくので、非常に面白い。毎回新しい発見があります。だから、私はダボス会議でいつも新しいことを仕入れてきます。

この間、竹中平蔵さん(アカデミーヒルズ理事長、慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所所長)と話していたら、竹中さんが「ダボス会議ってインスパイア(啓発、鼓舞)される場所だよね」とおっしゃいました。そのとき「あ、そうか、そういうふうに感覚的に捉えることって大事だな。インスパイアってダボスの価値を語るのにいい言葉だな」と思いました。

私はそれまでダボス会議を分析的に捉えていました。世界が直面している課題がわかるとか、解決案にはこんなものがありそうだとか、世界のリーダーに会えるとか、スペック的なハードで捉えていたのです。私は企業戦略が専門ですが、「今の時代、企業はハードなものより、『体験』や 『感動』を提供することが大事、そのためには、スペックで物事を捉えてはいけない」と最近感じて、実際ビジネスパーソンにもそう言っていました。つまり、企業が物事をハードで捉えることに批判的だったのに、自分自身もそういう捉え方をしていたことに気づいて、「提唱していることを自分自身が実践していない」と、がっくりきたのです。竹中さんがおっしゃるとおり、ダボス会議は、ただいろいろな人が集まる、世界の課題が議論されるだけでなく、その場の雰囲気や活字にならない暗黙知の宝庫なのです。そこにいるだけでものすごくインスパイアされる「場」です。

たとえば、どんなことに一番インスパイアされましたか。

私の場合、最近はまっているのは、アイディアを出すための新しいフォーマット(会議の形式)です。ワークスペースという新しいブレーンストーミングのやり方、自由にアイディアを出していくプロセスにとても刺激を受けています。これは全部で2時間半のプログラム。課題は、「環境にやさしくエネルギーを有効に使うスリム・シティ」「シルバー世代という新しい事業機会」「グローバル・ヘルス」「人材のスキル・ギャップ」などいろいろです。最初に背景とセッションの目的の簡単な説明があって、ディスカッションのためにいくつかの課題が出されます。それからグループに分かれてなるべく多くのイメージや事例を用いて、ディスカッションします。グループ活動の後、各グループがビジュアルや寸劇で発表し、全体で議論するのです。ビジュアルや音楽を駆使して、ブレーンストーミングをするので、子供のような気持になり、とても楽しく、ワクワクします。

何人ぐらいで議論するのですか?

私が参加したワークスペースのセッションは全体で50人くらい、1グループ10人以下でした。いろいろな国、経歴、専門の人がいますが、みんな自由にいろいろなことを言います。そのなかからどんどんアイディアが出てきます。

私が参加したスリム・シティという課題のワークスペースのセッションでは、「モビリティ」というテーマが私たちのグループに与えられました。「モビリティ」を実現する都市計画を皆で考えて、ビジュアル化するというものです。その時は、ICT(情報通信技術)がこれだけ進歩して、無店舗販売が力を持ち、ショッピングなどの活動は距離を超えるようになっているのに、なぜ仕事は、オフィスに行くことが前提になっているのだろう。なぜ「会社に行く」必要があるのだろう、と都市計画からかなり離れた疑問から議論が始まりました。そして、「どうして本社ビルが必要なのか?」などに進み、「本社ビルはエネルギーを大量に使うし、そこへ行くために通勤のエネルギーが大量に消費される。ICTがあるのだから、本社ビルをなくそう」とか、「でもSOHOだけだと人との交流がないから、集まる場、サテライトオフィスもいる」とか、いろいろなアイディアが出ました。「まず、都市にビルありき」という議論ではなく、とても面白かったのです。

また、グローバル・ヘルスが課題のワークスペース・セッションでは、おもちゃがいろいろグループに与えられ、そのコンセプトを使って、グローバル・ヘルスの解決案を考え、2分間でコマーシャルをするのがグループへ与えられたテーマでした。私たちのグループでは、マラリアをなくすための殺虫剤つきのおもちゃ、商品名Moscop(MosquitoとHelicopterからの造語)を考えました。世界の子どもたちが犠牲になっているマラリアを防ぐために、ラジコンヘリに、蚊がくっつくような殺虫剤をつけた風船をつけて、おもちゃとして売り出すというものです。

2分間のコマーシャルは、舞台を2030年のスウェーデンに設定して「皆さん、ここはスウェーデンです。マラリアはアフリカなど暑い地域の問題だと思っていたでしょうが、地球温暖化が進み、蚊がスウェーデンにまで押し寄せて北欧でもマラリアが大流行しています。こんなことを見過ごしてよいのでしょうか。毎日多くの子供たちがマラリアで死んでいます。それを解決するのが、私たちのMoscop! 使い方は。。。」と、チームでプレゼンテーションしました。

とてもユニークなアイディアですね。ところで、そのワークショップはそれぞれのグループがアイディアを発表して終わりなのですか。

ええ、その時はそれで終わりでした。アイディアを出すことが目的ですから。でも、それを発端に、参加者の間で交流が始まり、ビジネスにつながることも考えられると思います。

(文・構成 太田三津子/撮影 御厨慎一郎)

プロフィール

石倉洋子
石倉洋子

一橋大学名誉教授


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