石倉洋子のグローバル・ゼミ

ゼミでの失敗を糧に、世界へ

グローバル•アジェンダ•ゼミナールのメインファシリテーター、石倉洋子さんに聞く

更新日 : 2009年11月05日 (木)

第5章 バカな質問なんてない、何を言ってもいい


サマーダボスに参加されるようなレベルの方でも、日本人はあまり積極的に質問したり、意見を言ったりしないのですね。遠慮深いからなのでしょうか。

「何を言ったらいいかわからない」という方が多いようです。質問は何を聞いてもいいのですが、多くの日本人は「ちゃんとしたことを聞かないと、きちんとしたコメントをしないといけない」と構えてしまうようです。だから質問もなかなか出ないのです。

アイディア•ラボのモデレーターは今回初めての経験だったので、自分がやる前に、参考にしようと一日目に開かれたラボを見に行きました。新しいやり方なので、最初は皆、勝手がわからず、会場がシーンとなってしまったときがありました。私もそうなったときのモデレーターの苦労がよくわかるので、何しろ手をあげて質問しました。後から考えると、かなりわかりにくい質問でしたが、モデレーターのリチャード•パスカルさんが「こういうことだね」って受け止めてくれました。それに続いて他にも質問が飛び出し、「みなで自由に発言する」というディスカッションの流れができていったのです。

パスカルさんは「新しいことをする時はみな同志だから、お互いに助け合うのは当たり前」と言って、私が困っていた時に助けてくれました。年令とか経歴とかに関わらず、皆平等で新しいものを作っていこう、そういう感じなのです。

空気を読もうとするのがよくないのかもしれません。

空気を読んでそれに添ったことを言おう、きちんとしたことを言おうとするのが問題なのです。その場の雰囲気を知るという意味で、空気を読むことは必要ですが、そこで自分の意見をはっきり主張しなくてはなりません。これだけ世界各国の人たちが集まっていると、いろいろな意見が出ます。日本人からみたら、「えー?」という意見やアイディアも平気で出るわけです。でも新しいアイディアは、とんでもないことから出てくるわけですから、それがいいのです。

以前、『日経ネットプラス』に「チームに違う分野の人が集まれば、新しいアイディアが出るのではないか」と書いたら、「日本ではみんながチームに遠慮するから、それでは絶対にうまくいかない」というコメントがきて、びっくりしたことがあります。私は、多様だからチームで活動する意義があると思っていたし、いかに人と違う意見を出すか、で評価される組織にいたことが多く、ケース討論でも、いかに違う意見を奨励するか、そして違いの背景を明らかにしていくか、が一番の成功の鍵と思っていたので(笑)。でも、日本の会社などでは、空気を読むから、他の人に遠慮して、反対意見は出さない、それまでの議論の流れを全く変えることは言わない、という雰囲気があることも事実でしょう。

また「バカな質問なんてない。だから質問は誰でもできる」とも、私は信じています。誰かがする質問は、その人だけではなく、その場にいる多くが疑問に思っていることが多いのです。誰が口火を切るか、という話なのです。だから質問は価値があるのです。会場がシーンとしてしまうと緊張感が漂いますが、最初にとんでもない質問が出ると、雰囲気が変わります。安心してみんなも手を挙げることができます。(笑)。それから場が活性化するのです。ですから質問はそれだけでもディスカッションに貢献することが多いのです。私は自分が参加者のときは必ず質問することにしています。

質問の意義は、アメリカにいたときに学んだことです。その分野の権威で偉い人が本当に基本的な質問をするのに何度も遭遇しました。「なんで、この人がこんなことを聞くのだろう」と思うくらい基礎的なことを聞くことが多々ありました。基礎的な質問に聞こえるけれど、実は原点に戻った質問なのです。偉い人がこうした原点に戻った質問をするのを聞いて、とても影響を受けました。

それから、講演者の話が矛盾しているのではないかと思った場合、質問の仕方として「あなたの話は矛盾している」とか「ここがおかしい」とか直接攻撃しないで、「ちょっとこの点、私にはよくわからなかったのですが…。」とか「いろいろ聞いて混乱してしまったのですが。。。」という言い方で間接的に矛盾を指摘することもありますね。要するに、わからないこと、おかしいなと思ったことを曖昧なままにしておかないのです。いろいろ質問をしていくことで、ディスカッションを活性化させるのです。

(文・構成 太田三津子/撮影 御厨慎一郎)

プロフィール

石倉洋子
石倉洋子

一橋大学名誉教授


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