石倉洋子のグローバル・ゼミ
みんなと同じは安心ではない
これからの時代に求められる「逆張り」キャリア論
1章 「人生を3倍速で生きる」——マクドナルドで培った「逆張り」のキャリア
左:唐澤俊輔(株式会社メルカリ 執行役員VP of People & Culture)、右:石倉洋子(一橋大学名誉教授)
アカデミーヒルズがグローバル人材育成の第一人者、石倉洋子氏と2010年に開講した「グローバル・ゼミ/Global Agenda Seminar(以下、GAS)」。複数回のセッションからなる本プログラムは、多彩なゲストが登場するのも特徴の1つです。2019年のテーマは「多様性」。多様性といっても、その捉え方は人によってまちまちなのが現状です。2019年6月に開講するプログラムでは、組織の多様化を急速に進めている株式会社メルカリで執行役員VP of People & Cultureを務める唐澤俊輔氏をお迎えします。
プログラムに先駆けて、石倉氏と唐澤氏のスペシャル対談を実施。これからの時代に必要とされる多様性の在り方やリーダーシップ、キャリア構築についてお話を伺いました。
「人生を3倍速で生きる」
マクドナルドで培った「逆張り」のキャリア

まずキャリアについて伺いたいと思います。新卒で日本マクドナルドに入社されていますが、どんな就職活動をされたのですか?
唐澤俊輔氏(以下、唐澤):
就活の頃、マクドナルドは赤字で収益性の悪い状況でした。でも業績が厳しい会社のほうが、年齢に関係なく色々チャレンジさせてもらえて、自分が成長できるのではないかと思ったんです。
就活では当初、銀行など堅実なところを受けていました。マクドナルドに行こうと思ったのは、たまたま大学3年生のときにインターンシップをしていたからです。「就職したい会社ランキング」の上位に入っているわけでもないし、インターンシップ中は就職するつもりは正直、全くありませんでした。
でも就活中に銀行で働くのは「自分がなりたい大人とは違うかも」と思った瞬間がありました。そもそも、なぜ銀行を受けているのかを改めて自問したところ、「安定しているから」と少なからず考えている自分に気づいたのです。
石倉:
最近は自分に力がつく会社に入りたいという人は増えてきましたが、昔は安定や給料の高さ、ブランド企業かどうかだけで会社を選ぶ人が多かったように思います。なぜマクドナルドに行く選択をされたのですか?

大学の友人は銀行や商社志望が多くて、「何でマックに行くの? ハンバーガーを作るの?」とさんざん言われました(笑)。でも大きい会社に行ったら本当に安定かというと、そうではないですよね。会社は潰れるかもしれない。それなら自分に力をつけたほうがいい。力をつけるなら、チャレンジできる環境が良いと思ったのが、マクドナルドを選んだ理由の1つです。
小学校の頃、地元にあった大手メーカーの工場が閉鎖されたことがありました。自分の父親がその工場で働いていることを誇っていた友人たちが、みんな転校していってしまったんです。すごく良い会社だって言っていたけど、会社の事情で転校させられてしまう。すごく衝撃でした。
それがきっかけで、「みんなと同じ」「みんなが良いという環境にいればOK」ということに疑問を持つようになりました。だから就活でも、みんなが銀行や商社に行くなら自分は違うところに行ってみようと考えたのです。
どうせチャレンジするなら、少し違うところではなく、真逆の方向に行ってみて、あとはその道に行って良かったと思えるように頑張ればいい、と思うようになりました。
石倉:
それから12年間マクドナルドにいらしたわけですが、何が一番面白かったですか?
唐澤:
やはり赤字というマイナスの状態をプラスに引き上げていく経験を、みんなと一緒にできたのが大きかったです。働く環境や、「何のために働くのか?」にとことん向き合い、自分にとっての答えの一つが「仲間」だと気づくこともできました。
それまでは、マーケティングをやりたくてマクドナルドに入り、マーケターとして、ずっとお客様を第一に考えてきました。もちろんお客様に喜んでもらえるのは嬉しい。でも遠くにいる顔の見えないお客様より、手の届く社内の仲間が成長していく姿を見られるほうが、自分の性に合っていると考えるようになったんです。それでマーケターで生きていくことを一旦辞めて、一緒に働く仲間のことを考えられる仕事をしてみたいと思うようになりました。
石倉:
自分の働く理由について、あまり疑問を持たない人もいますよね。これからの時代、本当にこれでいいのかを自問自答する必要性は高まっているので、自らのキャリアを見直すのはすごく大事だと思います。
唐澤:
僕は12年というのがちょうど良かったと思っています。以前から「人生を3倍速で生きる」と決めているんです。人生で今使える時間は1つしか選べないのですが、3倍速くらいで動けば、3人分の人生を生きられるのでもっと人生が面白くなるのではないかと思って(笑)。
その考えからすると12年×3=36年分、ほぼ定年くらいまで一旦やり切ったなと感じました。だからマーケターとしてのキャリアを一旦ゼロリセットして、次に行こうと決めたんです。マクドナルドには恩があるので、恩返しだけはしたいと思っていました。V字回復を遂げて過去最高益が見えて、立て直しきったと感じられたタイミングが、ちょうど丸12年でした。

みんなと同じは安心ではない インデックス
-
1章 「人生を3倍速で生きる」——マクドナルドで培った「逆張り」のキャリア
2019年03月19日 (火)
-
2章 何もないところから自分のやることを決める
2019年03月19日 (火)
-
3章 ファシリテーション型リーダーシップが必要とされる時代
2019年03月19日 (火)
注目の記事
-
11月21日 (火) 更新
六本木アートカレッジ
2022-2023年の六本木アートカレッジ <未来を拡張するゲームチェンジャー>」では、新しい価値を生み出す5名のゲストを招き、トークイベン....
<未来を拡張するゲームチェンジャー>イベントレポート
-
11月21日 (火) 更新
動的書房 ~生物学者・福岡伸一の書棚
目利きの読み手でもある生物学者の福岡伸一が、六本木ヒルズライブラリーのために、特別に選んだ“これだけは読んでおきたい本”“ いま読むべき本”....
-
11月21日 (火) 更新
もっとも書物らしい書物—西洋中世写本の魅力に触れる書籍案内
今回は「もっとも書物らしい書物—西洋中世写本の魅力に触れる書籍案内」と題し、手書きから印刷、そしてデジタルへと変遷してきた「書物」の歴史を辿....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 12月13日 (水) 19:30~21:00
World Report 第6回 アメリカ発 by 渡邊裕子
いま世界の現場で何が起きているのかを、海外在住の日本人ジャーナリスト、起業家、活動家の視点を通して解説し、そこから何が見えるのかを参加者の皆....
「投開票まであと1年!米国大統領選挙を読み解く」
-
開催日 : 12月06日 (水) 18:30~20:00
シリーズ「編集者の視点〜時代を共に創る〜」
本の背景にあるストーリーから仕事のエッセンスを学ぶ「編集者の視点」シリーズ。第5回ゲストは、日本の翻訳出版界のマーケットシェア60%を占める....
第5回 世界とつながる共通言語を求めて
-
開催日 : 12月08日 (金) 18:30~20:00 読書体験会 第3回 / 09月13日 (水) 18:00~19:30 トークイベント ※終了いたしました / 10月18日 (水) 18:30~20:00 読書体験会 第1回 ※終了いたしました / 11月13日 (月) 18:30~20:00 読書体験会 第2回 ※終了いたしました
『スマホ時代の哲学』読書体験会
スマホ時代の課題を哲学の視点を使って考えていく本書『スマホ時代の哲学〜失われた孤独をめぐる冒険〜』。著者の哲学者・谷川嘉浩さんと、人材・組織....