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自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~

アカデミーヒルズセミナー経営戦略
更新日 : 2008年10月15日 (水)

第1章 国民はこの事態をどう評価し、あしたに向かってどう行動するのか

米倉誠一郎

岸博幸: 皆様、こんにちは。祭日の夕方にこんなにたくさんの人にお集まりいただきまして、ありがとうございます。ポリシーウォッチとアカデミーヒルズ共催の緊急シンポジウム「自民党総裁選を斬る」を始めさせていただきます。

最初にチームポリシーウォッチの代表を務めております、竹中平蔵慶応大学教授から皆様にご挨拶をお願いいたします。

竹中平蔵: 皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました竹中平蔵です。きょうは三連休の非常に貴重な時間に、このようにお集まりいただきまして、ありがとうございます。

ご承知のように福田総理の突然の辞任表明を受けて、自民党総裁選の真っただ中に、私たちはおります。9月22日の投票まで、だれが総理になるかわからないのが建前ではありますが、世の中はもうわかったような雰囲気になっております。また、政策の議論は一応なされておりますけれど、残念ながらあまり深まってはおらず、多くの人々の関心は、「例えば麻生さんが総理になったら、一体だれが閣僚になるのか」といった、非常に矮小化された議論になりつつあるように思います。

きょう、この催しを持つに当たりまして、一番国民が嫌うケースというのを2点、ぜひ申し上げたいと思います。1つは、次の総理総裁が密室で決められること。密室で決められては困るのです。それで失敗したのが森内閣の誕生であったと、私は思います。2つ目は、みんながきちんとした議論をしないで、勝ち馬にどんどん流れ込んでいくようなケースです。それがまさに福田内閣の誕生であったと思います。残念ながら両政権とも長続きしませんでした。

5人の候補が立って、この2つのケースは避けられるかなと思ったのですが、実際はどうでしょうか。政策論争は深まったでしょうか。どうも勝ち馬に乗るという姿がまた見えてきました。それは自民党自身が困るわけです。自民党にとって、次の総選挙で国民がどのような判定を下すのかということも、非常に重要な要因になってくると思います。

もう1つ、申し上げたいことがあります。きょう(2008年9月15日)の産経新聞の第1面「ポリシーウォッチ」というコラムに、私自身の個人の意見として書かせていただいたのですが、やはりリーダーが大事だと思います。3日前に小泉さんとお話しする機会がありました。小泉さんは「政策は大事だ、極めて大事だ。しかし、『ある政策をやる』と言っても、それをAさんが言うのと、Bさんが言うのとでは意味が違う。つまりリーダーが国民からどのように信頼されているかということが、極めて重要である」と話されていました。非常に示唆に富んだ言葉です。

竹中平蔵さん
私は、国民は非常に賢いと思います。「このリーダーは財政のお金をばらまいてくれそうもない」と思うと、頑張って自助自立で「改革だ、改革だ」と言います。Aさん……、麻生さんという意味のAさんではありませんが(笑)、Aさんという新しいリーダーがお金をばらまいてくれそうだと思うと、「いや、改革よりも、今の痛みをとるために当面の財政措置が必要だ」というように、みんながおねだりをいたします。

今の産業界がその典型だと思います。産業界は「改革しろ」と言いながら、この前の補正予算のときには、その分捕りに奔走しました。しかし、一方で国民はそれを上回って賢いから、「いただけるものはいただくけれども、この国は危ないかもしれない」と考えて、今国民はどんどん外貨建ての投資をして、外貨建ての資産運用をして、ある意味で静かなキャピタルフライト、静かな資本逃避が起きているのかもしれないと思います。

きょうは政策を大いに議論して、そして政策と国民のインタラクションを考えてみたいと思います、もちろん、そこにジャーナリズムもからんでまいります。しかし、賢い国民である皆様方は、どのような形でこの事態を評価して、あしたに向かって行動を起こしていかれるのか。私たち政策の専門家を自負する人間として、ぜひ幅広い議論をさせていただきたいと思います。どうか、よろしくお願いいたします。(拍手)

岸博幸:どうもありがとうございます。きょうのシンポジウムでは、最後に皆様との質疑応答の時間をとらせていただきますので、そこでどんな質問でもガンガン、パネリストの皆さんにぶつけていただければと思います。途中の議論に関しましては、当初はテーマごと、例えば経済政策、財政の問題などに分けて議論をしようかと思ったのですが、ざっと見ていただければわかるのですが、実は各候補の政策に、大きな違いがございません。

改革の基本姿勢についていえば、麻生さんが「日本経済は全治3年、その延長で強力な経済対策」と言っている以外、ほかの皆さんは、大体「改革」と言っています。経済政策についても、ざっと見てわかっていただけると思いますけれど、大きな違いはありません。財政改革につきましては、言及していない人や、2011年のプライマリーバランス、維持するかどうか、税制改革があるぐらいで、あとは基本的に変わっていません。行政、政治改革につきましても、みんな「何らかの改革はする」と言っています。社会保障に関しても、濃淡の差こそあれ、基本的な方向は変わりません。ついでに言えば、地方分権、地方再生につきましても、全員が道州制や農業での地域再生に言及しておりますし、中小企業、雇用の問題につきましても、大きな差はありません。環境、外交、安保も同じ状況でございます。

したがいまして、基本的にはテーマごとに分ける議論はしません。このチームポリシーウォッチは、月に2回、あまり公開しないで内部のメンバーでいろいろな内容を、テーマごとに区切らず行ったり来たりしながら議論をしていることが多いので、きょうはその延長のような形でできればと思っております。

議論の口火を切るという意味で、最初に嘉悦大学学長の加藤寛先生から、別にきょうは敬老の日だからというわけではありませんけれども(笑)、最初にプレゼンをしていただきたいと思っております。加藤先生、よろしくお願いいたします。

※この原稿は、2008年9月15日にアカデミーヒルズで開催した緊急シンポジウム「自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~」を元にアカデミーヒルズが作成したものです。

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