記事・レポート

CATALYST BOOKS vol.5

理解を深める1冊

更新日 : 2022年11月14日 (月)
社会における様々な「つながり」を見直し、常識を再構築するカタリスト・トーク』。
ここでは、毎回トークの中でゲストの方々にご紹介いただいた「テーマの理解促進につながる1冊」を振返ります。

イベントに参加した方は「より深く知る」ために、イベントに参加していない方は「良質な書籍に出会う場」として、このページをご活用ください! <各イベント開催日の翌週に公開予定>

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 CATALYST BOOKS vol.5理解を深める1冊

鎌田安里紗さんが紹介するカタリスト・ブックス
~自分の「正義」を振りかざして誰かの頭を殴っていませんか~

誰もが毎日必ず着用する洋服。あなたは、自分がいま着ている洋服がどのように作られたのか、知っていますか?

洋服にはタグがついていますが、タグを見ても私たちが洋服について知ることができるのは、生産国や原料など、ほんの一部だけ。でも実は、素材としての綿花が栽培されるところから、糸が紡がれる紡績、染色、デザイン、縫製、販売・・・1つの洋服が消費者の手に渡るまでには長い工程があり、世界中のあらゆる人が関わっています。

軍地彩弓さんのカタリスト・トークの第4回目のゲストとしてお越し下さったエシカルファッションプランナーの鎌田安里紗さんは、1つの洋服に関する情報はタグ1枚では語りきることができず、本1冊にも匹敵するようなストーリーが詰まっている、と表現します。

生産過程での環境負担の大きさ、大量生産・大量廃棄、途上国での劣悪な労働環境 --- ファッション産業は世界第2位の環境汚染産業と言われています。誰にでも身近な製品なのに、その実態が見えにくいことが問題なのではないでしょうか。

服ができるまでのプロセスに興味を持ち、そこに関わることで「こんなに生産工程があるんだ!」と発見し、最初はワクワクした鎌田さんですが、環境負荷の高さや労働環境の問題などを知ることで、生産過程を含めてファッションについてもっと広く人々に知ってもらいたいと思うようになり、発信するようになったといいます。

これまで、ビジネスの外側にあると言われていたサステナビリティやエシカルの要素。いまは、それを組み込まないとビジネスができなくなりつつあります。サステナビリティが「ビジネスの通行許可証」になる中で、消費者である私たちの行動も問われてきています。

消費者として、個人としてできるアクションを考え、サステナビリティへの向き合い方を考えるときに参考になるのが、鎌田さんに今回ご紹介いただいた1冊です。

鎌田さんが大学1年のときに読んだ『ためらいの倫理学』(内田樹・著)は、これまでで鎌田さんが一番影響を受けた本だと断言します。

高校生のときからエシカルやサステナブルの文脈に興味を持って発信を始めた鎌田さんは、発信すればするほど、それがイデオロギーになりがちで、「正しさ」が強化されていく感じに違和感を持つようになったといいます。

例えば、「企業が悪い」「こうすべき」など、鎌田さん自身もそう信じるようになっていったそうです。本書の中で、「正しさで人の頭を殴っていませんか」という内容が出てきたとき、ハッとしたという鎌田さん。

この複雑な社会において、絶対にこれが正しいということは無く、自分が思う正しさを主張しようと単純化し、主張を続けることが、いかに暴力的かということが書かれており、それを読んだときに自分の考えが変わったのです。

色々な立場に立ってみること、矛盾があるということを受け入れること。そうした認識を持った上でエシカルやサステナブルというテーマに向き合わないと偏ってしまうのではないかと鎌田さんは自分を戒めます。ためらいも迷いも矛盾もなく、正しさを言い切れてしまっているときこそ、それが本当に正しいのかを疑う必要があると考え、気をつけているそうです。

サステナブルな商品はコストもかかります。すなわち、商品の値段が上がることを意味します。サステナブルな商品を買いたいけど、経済的に余裕がないから安い服を買う消費者には、罪悪感を感じないでほしいと鎌田さんは寄り添います。

何が本当に正しいかが分からない社会で、矛盾を感じながらも、社会をより良くするために声を上げることが重要だという鎌田さんの姿勢は、本書による影響が大きいのです。

あらゆる視点に立ちたい、思考のバランスを取りたい、という方にお勧めの1冊です。
 



林篤志さん、仲川げんさんが紹介するカタリスト・ブックス
~「行政が」ではなく「あなたも一緒に」社会を作る側になる~

「地方創生」に留まらず、幅広い視点で「都市」と「地方」の関係を見直してきた浜田敬子さんのカタリスト・トーク。最終回は、「地方自治体」や「行政」そのものの存在をゼロベースで見直す活動を開始した、Next Commons Labの林篤志さんと奈良市長の仲川げんさんのお二人にゲストとしてお越しいただきました。

かつて、人口増加と経済成長に支えられて機能していた行政や自治の仕組み。人口増加と経済成長という前提があるからこそ、税収が増加し、行政が提供するサービスも拡大し、住民の多様なニーズに応えることができていました。

しかし、その前提は崩れ、現在私たちが当たり前だと思っている行政、自治体の仕組みそのものが地方では立ち行かなくなってきています。

これまで頼ってきていた自治体や行政(公助)の存在自体が危機にさらされる中、それでは個人が自分たちで頑張ってください(自助)と言われても、家族の単位が縮小しているいま、自助も厳しくなってきています。そこで公助と自助の間にある「共助」の役割に注目し、既存の自治体と連携しながら、全く新しい自治モデルを作ろうと立ち上がったのが、Next Commons LabのLocal Coop構想です。

このLocal Coop構想に共感した奈良市は、山間部にある人口約1,200人の月ヶ瀬エリアで新しいワーケーション施設をスタートし、新しい自治の在り方を模索しています。

「住民が自分たちに自治の意識を取り戻すことが大事」という林さん、「危機下では、『行政に何とかしてくれ』を『あなたも一緒に何とかしよう』に変えることができる」という仲川さん。

既存の行政の存在をいったんゼロにするという全く新しい発想で課題にアプローチするお二人が、バイブルとして何度も読み込んでいらっしゃるのが、今回のカタリスト・ブックスです。

1冊目は、林さんにご紹介いただいた『社会学入門 ー人間と社会の未来』(見田宗介・著)です。「社会」とは何か?「社会学」はどういう学問か?の解説から入る本書は、「社会」とは目に見えるものではなく、人間と人間の関係性そのものであり、「社会学」とは「関係としての人間の学」である、と定義づけることで、「社会学」が専門分野に閉じていくのではなく、あらゆる分野に「越境する知」であることが必然であると語られます。

近代から現代までの日本、そして世界の動きがもたらした人々の価値観の変化、関係性の変化、そして社会が向かう先について書かれている内容は決して平易ではなく、「入門」とは言い難いかもしれません。

社会というと、掴みどころのない大きなものに感じるかもしれませんが、本書を読むと社会の在り方を理解できると同時に、一人一人が社会を作る側に回ることへの視座を与えてくれる、と林さんは言います。

林さんが「擦り切れるまで何度も読んだ」という本書は、あなたにも、自分と社会の関係を改めて考え直すきっかけをくれるかもしれません。

もう1冊は、奈良市長の仲川さんが、市長になられる前にNPOで活動されているときから読んでいらっしゃる『子どもの参画 ーコミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際』(ロジャー・ハート・著)です。

本書はタイトルの通り、特に環境問題に関する課題に関して、子どもの能力の発達に応じた市民参画を促す世界の事例を踏まえながら、学問的に理論づけています。

大人は得てして子どもを一人の人間として信じていないところがあります。しかし、本書では、子どもの権利について見直し、子どもを一市民として捉えることで、大人が直面している課題についても一緒に考えるパートナーになってもらうことで効果を上げると書かれています。

発展途上国で、学ぶ機会が無いまま働くことを余儀なくされている識字の無い子どもたちでも、地域社会に参画していくことができること、また、世界的に有名な参画度合いの段階を8段階で示す「参画のはしご」について書かれており、真の参画とは何かを考えさせられます。

ご自身のバイブルとしてだけでなく、これまで何冊も買って色々な方にプレゼントしてお勧めしてきたという仲川さんが、市長として大事にしていることも、本書から窺うことができるでしょう。



國光宏尚さんが紹介するカタリスト・ブックス
~バーチャルファーストな時代の到来は社会をどう変えるのか?~

「人はなぜ都市をつくるのか?」という問いをもとに、これまでメソポタミア文明の古代都市や日本の古代都市・平城京まで遡って都市の歴史や変遷を振り返り、その後、小規模な建築物である本棚を通して都市の機能について考え、さらに働き方の変化とオフィスのあり方の考察を通して未来の都市に求められるものとは何か?を議論してきた藤沢久美さんのカタリスト・トークのシリーズ。

最終回では、いま話題となっている「メタバース」の世界が広がったときに、リアルな都市は今後どうなるのか、都市の役割はどう変わっていくのか、という視点でお話が展開されました。

ゲストとしてお迎えしたのは、株式会社Thirdverse、および、株式会社フィナンシェのCEO / ファウンダーの國光宏尚さん。國光さんは2007年にモバイルオンラインゲームを企画開発するgumiを創業していますが、その当時はどんな時代だったのか?というお話からスタートしました。

ツイッターが創業したのが2006年3月。初代iPhoneが発表されたのが、2007年1月。AWS(Amazon Web Service)がサービス開始したのも2006年です。まさにソーシャルとスマホとクラウドが始まったばかりの頃で、Web1.0からWeb2.0 へのパラダイムチェンジが起きようとしていた時代です。

2007年当時の時代背景を、スタートアップのビジネスの視点で辿っていくことで「メタバースとWeb3」について俯瞰して解説して下さった國光さんは、ご自身をインターネット&テクノロジー分野での「長老」と位置づけます。ドッグイヤーでいうと15年前は実質的に100年以上前と同等の歴史があるのですね。

今回、國光さんがご紹介下さったのは、話題となっているご自身の著書『メタバースとWeb3』(國光宏尚・著)です。

本書は新たなパラダイムチェンジをもたらすといわれる「メタバース」、そして「Web3」とは何かを分かりやすく解説し、そこからどんな未来が見えるのかを考察しています。

新しいテクノロジーを語るときに重要なのが、そのテクノロジーじゃないとできないことをやっているかどうか、ということ。Web3の中で重要なブロックチェーン技術ですが、ここで國光さんが強調するのが、ブロックチェーンでしかできないことは何か?ということです。

ブロックチェーンでしかできないこととして、國光さんが挙げるのが、①トラストレス×自律的×非中央集権、②NFT(非代替性トークン)、③DAO(分散型自律組織)、の3つです。

特にメタバース(デジタル空間)の中で経済圏を作るにあたり、画期的なのがNFTです。これまでデジタルコンテンツは複製コストがゼロになってしまったため、コンテンツそのものの価格がゼロになってしまっていました。

デジタル空間上では、広告かeコマースしかビジネスモデルが確立しておらず、NetflixもSpotifyもコンテンツそのものではなく、コンテンツを消費するサービスを提供することでマネタイズをしてきました。

しかし、デジタルコンテンツをNFTにすることで供給量を限定することができ、デジタル空間の中でマネタイズを完結させる経済圏を作ることができるようになった、それがこの技術の鍵である、と國光さんは言います。

それによって、リアルでなければ経済圏を作れなかった従来と比べると、デジタル空間上の可能性が大きくなってきているのです。リアルを補完するためのデジタルではなく、デジタルだけで完結する「バーチャルファースト」な時代の到来は、都市をどう変えていくのでしょうか?

メタバースでは人間の五感の中で視覚、聴覚、触覚はかなりの精度で再現できるといいます。リアルでしか感じることができないのが、味覚と嗅覚だということで、これからの都市は味覚、嗅覚を刺激する場所が重要になる、と國光さん。

デジタルが主になるメタバースは、若い世代の人たちにとっての「フロンティア」だという國光さんは、あくまでも若い世代の感覚で自分たちが住みたいフロンティアを創っていくべきだ、と若者の価値観を尊重します。

本書では、メタバースとWeb3の動きが分かりやすく解説されているだけでなく、この世界で國光さんが目指す理想や、若い世代への優しい眼差しに触れることができます。メタバースとWeb3が社会をどう変えるのか、ヒントを得たい人にお勧めです。




大小島真木さんが紹介するカタリスト・ブックス
~人間中心主義からの脱却:「共生」と「共死」を考える~

「自然との境界線を引き直す」をテーマにゲストと語り合う、編集者・塚田有那さんのカタリスト・トーク。今回のゲストはアーティストの大小島真木さんです。塚田さんは大小島さんのことを「自分の身体の内側に自然を感じることができるアート作品を生み出している美術家」と評します。

イベントでは実際に大小島さんの作品を映像で鑑賞しながら、それぞれの作品について大小島さんと語り合い、彼女の感性に触れ、参加者も「自分の身体の内側に自然を感じる」とは一体どういうことなのか?を考えながら大小島さんの世界に引き込まれていきます。

人間が生きている、とはどういうことなのか?そもそも私たちはどのように「生かされている」のか?

大小島さんは常にこの問いを胸に作品を作り続けています。「私って何だろう?と考えたときに、自分自身だけではいられない。呼吸一つとっても、人間は自分では酸素を作り出すことができない。」と言う大小島さんの言葉からは、多種多様な「種」の存在なくして、人間は生きられない「モア・ザン・ヒューマン」の考え方が展開されていきます。

人間だけの視点ではなく、複数ある種が絡まり合って人間と多種が共同体を形成している様を描く大小島さんが持つ思想と共鳴する次の2冊、それが今回のカタリスト・ブックスです。

『水の音の記憶』(結城正美・著)
『モア・ザン・ヒューマン ~マルチスピーシーズ人類学と環境人文学』(奥野克己/近藤祉秋/ナターシャ・ファイン 編)

これらの本からは、「人間を含め、さまざまな種たちが寄せ集まって、絡まり合ってできている輪郭や境界のことを学ぶことができる」と大小島さん。種は動物だけに限りません。あらゆる環境の中に様々な生物が取り込まれていて、自分自身も環境と切り離すことはできないのです。自分の内臓が実は環境にあることをこの2冊は物語っていると大小島さんはいいます。

さらに、これらの本は「自分たちの境界線はどこなんだろう?」と大小島さんのイマジネーションを広げてくれます。

自分の内臓の中にも自然があり、自然の中に自分の内臓を感じることができる、という大小島さん。自分も生き物として他の生き物を食らい、そして、また他の生き物から食らわれるという存在であることを認識することが大事だと考えます。スーパーで肉や魚の切り身を買って食べるときに、何も感じることなく食べることに対する違和感を持ち、生き物の命を食らうことで、自分は命をつないでいるということを認識すること、それこそが自分に自然を感じることにもつながるのです。

そこから命の連鎖がつながっているということ、「生きるということは、死ぬということ」など、自分の存在から多種の存在とのつながりを感じ、共に生き、そして共に死ぬという「共生・共死」の概念まで到達します。
大小島さんの感性に触れたい方に、ぜひ読んでいただきたい本です。


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 CATALYST BOOKS vol.1理解を深める1冊
 CATALYST BOOKS vol.2理解を深める1冊
 CATALYST BOOKS vol.3理解を深める1冊
 CATALYST BOOKS vol.4理解を深める1冊
 CATALYST BOOKS vol.5理解を深める1冊

水の音の記憶

結城正美
水声社

モア・ザン・ヒューマン

奥野克巳、近藤祉秋
以文社

メタバースとWeb3

國光宏尚
エムディエヌコーポレーション

社会学入門—人間と社会の未来

見田宗介
岩波書店

子どもの参画 - コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際

ロジャー・ハート
萌文社

ためらいの倫理学

内田樹
角川書店