記事・レポート

LIVING WITH BOOKS

更新日 : 2020年12月15日 (火)

第6章 流行本にまつわるブックトーク

 
本が‘流行らせた’話題
澁川雅俊:ある時期にあるテーマの本がまとまって出されることがある。前節「世間の話題で書物がたり」はある際立った世の中の動向が先行し、それが注目されて本が書かれ、それがさらに世の中を騒がせる現象だが、こちらはある本が想定外によく売れて、ベストセラーにランクアップされることがあると、他の少なからぬ出版社が‘二匹目のどじょう’を狙って同じような内容の本を出版する。その結果、最初の本の‘もじり’本がたくさん世の中に目立って出回ることになる。
♯生き方を省みる
10年ほど前のことだが、‘品格本’、‘力量本’、’自分探し本‘が流行ったことがある。その流れがいまも断続的に出されているが、その奔りは『国家の品格』(藤原正彦著、2005年。263万部のミリオンセラー。標題は流行語大賞)。それにあやかり、「○○の品格」が相次いで刊行された。また『老人力』(赤瀬川原平、1997年)以降、「〇〇の力」(『悩む力』、『忘却の力』、『癒し力』などなど数十点)が相次いでだされた。品格本は人の資質を指摘し、力量本は人のスキル(生き方)を指摘しているのだが、自分探しの本は個々人の生きている証し、生きがいを考察する本である。トーク「にじみ出る素養~‘品格’を問う」、「生きるためのさまざまな力」、「私とは何か?~自分探しの立ち位置」を行った。
ところで自分探しの本として絵本『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』(長谷川義史作、2000年)を紹介した。この本の中で5歳の子の「ねえ、おじいちゃん。おじいちゃんのおじいちゃんはどんなひと?」という素朴な質問がその子の存在の時をどんどん遡っていく。子ども向けの本だがそこに「自分探し」の別の視座がある。
♯COVID-19、この世の終焉?
新型コロナのパンデミックを目の当たりにして‘ハルマゲドン’や‘末法思想’を口の端に上らせる人たちもいる。ゴア元米国副大統領の『不都合な真実』は地球環境の悪化がもたらすかもしれない‘アポカリプス(黙示録)’のひとつの様相だが、もともと人間はこの世の終焉に恐怖を覚えつつも覗き見したい心根があるようだ。16世紀のノストラダムスもそうであったが、人びとはもちろん人間を含む全地球の行末をテーマとしたクライシスノベルに意外に強い関心を示している。

♯軽装な冊子が森羅万象を写す
ひと頃出版界で‘軽薄短小’(あってもなくても、どうでもいい)なる本を揶揄した呼び名が流行ったが、新書本、とりわけノンフィクションのそれは、歴史、時事、先端科学、科学史、哲学・思想、文学・芸術などありとあらゆるトピックスについて、それぞれの専門家たちが噛み砕いて解説、あるいは考察しており、全体的には森羅万象をカバーした百科全書であることに気付いている人は少ない。岩波新書、中央公論新書などフィクションとノンフィクションで現在90種が発行。そこで手軽で、ポケットに入れて持ち運びが容易で、軽くて通勤読書に最適な新書本の実力に焦点を当てたトーク「新書本〜軽装な冊子が森羅万象を写す」を行った。
♯「人は一生に三度絵本に親しむ」
読書人であろうとなかろうと、人は必ず、少なからぬ絵本を手にしている。しかし長じるに従い、疎遠になり、あれは子どもが読む、あるいは見る本と蔑む。しかしノンフィクション作家柳田邦夫(絵本作家伊勢秀子の夫)は言う。「人は一生に三度絵本に親しむ。子どもの時期、年老いた時期、そして病める時」と。子どもたちはそれで世界を知り、老人はそれで過ごした世界を回顧し、病人、とりわけ心を病んだり、落ち込んだりした人たちに再び生きる気持ちを懐かせる。絵本はすべからくアート。アートは人に真の世界を見せ、思い出させ、勇気を与える。「‘おとな’絵本」トークは、大人向けのアートブックを紹介している。とは言え、春画の別称笑い絵の「ワ」に由来する‘わ印’(ワジルシ)本は一切取り上げていない。
♯‘奇矯な’テーマの本
本のテーマは書き手の時代感覚を反映する。その感覚を別のことばで表現すると‘流行(はやり)’だが、普段大半の本は、その時点で多くの人びとが関心を寄せているものごとについて書かれる。しかし時代感覚はいつも流行に寄り添うとは限らない。たとえばこのところの廃墟礼讃などは、‘グローバリズム’とか‘イノベーション’とかなどにあえて逆らう、書き手のひねくれた心情が発揮されたのかもしれないが、読み手もまた書店や図書館の書棚で、開いてみれば金太郎飴のような中味の本に飽きて、たまには少しばかり変わった本を手にしたくなったりすることがある。書物の世界でエロ本のことを‘curiosa’と呼ぶことがあるが、この語は一般には、‘普通でない’、‘奇矯な’、‘突飛な’などを意味するのだが、広い書物世界にはそんなことに本気で取り組んでいる本も少なくない。「キュリオサ! ~こんな本、誰が読む?」〔オピニオン・アーカイブ非掲載〕ではそんな本を集めてトークしてみた。