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「くまモン」『聞く力』にみる、魅力の引き出し方

阿川佐和子×水野学 対談

更新日 : 2014年06月25日 (水)

第3章 『聞く力』が売れた理由


 
コミュニケーションのバランス

阿川佐和子: 質問してばかりも何ですから、『聞く力』についてお話ししましょうか。

水野学: 本が売れないと言われる時代に150万部とは、本当にすごいことです。

阿川佐和子: 20年にわたり続けてきたインタビューの体験談を、おもしろおかしく書いただけですから、正直なぜ売れたのかが分かりませんでした。そうしたとき、あるTV番組でノンフィクション作家の吉永みち子さんがこう語っていました。「現代はコミュニケーション能力が問われる時代であり、ノウハウ本は山のように出されている。しかし、プレゼン力など自分から発信する力について書かれたものばかり。そのなかで、阿川さんの本は『人の話をひたすら聞く』ことも大切なコミュニケーション能力であると教えてくれた」と。

私は「なるほど、そういう本だったのか!」と膝を打ちました。吉永さんのコメントにより「聞く」コミュニケーションの大切さを知り、同時に、現代はその行為について思い悩む人が多いのだと、遅まきながら気がついたわけです。


白紙にする力

阿川佐和子: いまでは「聞く力」の達人のように言われることもあります。しかし、本来の私は話すことが大好きで、聞くのは苦手です。相手の方に気持ちよく話していただくために、試行錯誤してきただけです。先日、『ローマ人の物語』などを書かれている小説家の塩野七生さんにお会いしたところ、次のように指摘されました。

「あなたは、わたくしとは真逆の方ね。わたくしはカエサルやアウグストゥスのことだけを何年も考え続け、気持ちを紀元前にまで戻しながら小説を書いている。けれども、あなたは毎日、考える相手が変わるでしょう? 昨日の相手はすっかり忘れ、今日の相手に向き合う。だから、あなたの本当の力は『聞く力』ではなく、『白紙にする力』だと思うの」

水野学: 自分を真っ白い紙にする力、ですか。

阿川佐和子: 同じく最近のこと、映画監督の是枝裕和さんと対談しました。是枝監督の作品は、何より子役の自然な演技が素晴らしいと感じていました。「どのように子役の演技を引き出しているのですか?」と質問したところ、「僕にはああしろ、こうしろと命令するだけの自信や能力はない。だから、具体的な指示は一切行わず、その子がもつ力をじっくり観察し、引き出そうとします」とおっしゃっていました。水野さんと同じく、是枝監督も「相手の魅力をどのように引き出すか」という視点で仕事をされていたのですね。これを聞いたときに「私も同じ! 他力本願だ」と思ったのです。

水野学: 他力本願ですか…(苦笑)。しかし、阿川さんは賢人や達人と呼ばれる方々と毎週のようにお会いされている。知恵や知識、インタビュアーの力量は、確実に蓄積されていると思います。

阿川佐和子: それがまったく蓄積されていないの! たとえば、これまで何度もサッカー選手と対談していながら、毎回のように「オフサイドって何?」と尋ねてしまいます。学習能力のないことが、私のコンプレックスなのです。

水野学: それでは、話が前に進まなくなりますから(笑)。知恵や知識は蓄積されていながらも、インタビューの際はそれらを脇に置いて白紙の状態で、一歩引いて聞き役に回る。それが阿川さんのすごい所だと思います。いっぽうで、いまの日本、特にネットの世界では「俺が」「私は」と自らを主張する人が増えている。コミュニケーションは、自分と相手があってはじめて成立するもの。本来は「話す・聞く」の双方が伴っていなければならないはずです。バランスが崩れてきているあたりにも、ベストセラーの秘密があるように思います。


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