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「くまモン」『聞く力』にみる、魅力の引き出し方

阿川佐和子×水野学 対談

更新日 : 2014年06月20日 (金)

第2章 改めて訊く、クリエイティブディレクターは何をする人?

写真:阿川佐和子(作家・エッセイスト)

 
判断基準はアウトプットの質

阿川佐和子: あの、私は横文字に弱いもので。失礼ですが、クリエイティブディレクターとは何をどうする人なのでしょうか?

水野学: 現在、広告やデザインの世界にはクリエイティブディレクターと名乗る人がたくさんいます。しかし、真の意味で当てはまる人は少ないと思っています。僕としては、スティーブ・ジョブズのような人をクリエイティブディレクターと呼びたい。

阿川佐和子: スティーブ・ジョブズとは具体的に何をした人ですか?

水野学: 彼は優れたものを発想して作り出し、最適な方法でお客様に届けていました。この過程で、デザインの力を最大限活用していた人物です。僕はよく「アウトプット」という言葉を使います。日本語に言い換えるなら「最終表現」です。

私たちは、アウトプットの質によって物事を判断しています。好き、嫌い。食べる、食べない。買う、買わない。特に、商品におけるアウトプットには、2つの意味があります。1つは品質や機能、ネーミング、価格、外装、パッケージ、広告など、売る側が意識的に構築するもの。もう1つは、歴史や伝統、経営理念や社風、商品に込めた思いや意義など、売る側から無意識的に表出される魅力です。この2つを合わせたものが、僕の考えるアウトプットです。ジョブズはデザインの力を借りながら各要素を高いレベルで満たし、誰よりも上手に融合することで、常に他の追随を許さない優れたアウトプットを生み出していました。


デザインとインタビューの共通点

水野学: クリエイティブディレクターとは、言うなれば経営コンサルタントであり、デザイナーであり、ディレクターでもある。お客様に対して、最初のアイデアだけでなく、ものづくりの最終到達点であるアウトプットまでトータルにご提案するわけです。たとえば、僕のお客様に伝統工芸を手掛ける企業があり、「新しいブランドを作りたい」という依頼をいただきました。そこで、ブランドのロゴやコンセプト、販売する商品のネーミングやデザイン、PR方法、さらには一連の活動を機能させるための組織体制までご提案しました。

阿川佐和子: 企業の経営状態や規模、社会的な認知度、お客様の求めているものなど幅広い要素を理解したうえで、より良いアウトプットを提案する。単にカッコ良いデザインを提案するだけでは、クリエイティブディレクターは務まらないわけですね。

水野学: 僕はそのように捉えています。ですから、この仕事を行ううえで最も大切になるのが「聞く力」なのです。僕には「自分の力で新しい何かを作り出してやろう」という気持ちは一切ありません。むしろ、自分の能力など、すぐに限界がきてしまうと考えている。だからこそ、たくさんのヒントを得なければなりません。お客様からあらゆる話を聞き出し、誰も気がついていなかった魅力を徹底的に洗い出し、様々な方向から魅力を最大限高める方法を考え、具体化していく。これが僕の仕事だと考えています。

その意味でも、阿川さんの『聞く力』は大変勉強になりました。人間は誰しも、自分の一番の理解者は自分だと考えています。しかし、他人に指摘されることで、はじめて「そういえば」と気がつくことは多い。自分を相対化することで見えてくるものがあるというか。

阿川佐和子: 頭のなかで整理されていなかったことを、会話を通して一度表に出すことで、きれいに整理されるような…。インタビュー後にそうした感想を漏らされる方は、本当に多いです。

水野学: 人はみな自分自身のことを理解している、つもりになっています。しかし、会話のなかで相手から「違うんじゃない?」と指摘され、自分の物差しが単なる思い込みの産物だったと気づかされることは往々にしてあります。僕の仕事は、お客様の思い込みの裏にある商品や自社の隠れた魅力を見つけ、それをお見せすることから始まります。同じように、インタビューを通じて相手が気づいていない隠れた魅力を引き出すことが、阿川さんのお仕事だと思います。「聞く」という意味では、阿川さんのお仕事と共通する点が多いのかもしれませんね。