記事・レポート

伊藤穰一:逸脱からはじまる「学び」の実践

MIT Media Lab CREATIVE TALK「Learning Creative Learning」より

キャリア・人グローバル
更新日 : 2013年07月22日 (月)

第2章 AIの時代に求められる基本原則

伊藤穰一(MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)

 
The Principles of AI

伊藤穰一: AI(After Internet)の時代に求められる9つの基本原則「The Principles of AI」をご紹介します。私はこの中に、未来の学びに向けたヒントがあると考えています。

Resilience over strength。未来予測が当たらない社会では、何かが起きたときに俊敏かつ柔軟に対応できる力を備えておくことが重要になります。変化を無理に抑えつけたり、変化に対して抗ったりする強さよりも、変化を受け入れ、そこからしなやかに跳ね返っていく力が求められるのです。

Pull over push。AIの時代は、把握しなければならない範囲が広大で、状況も絶え間なく変化しているため、従来のように中央集権型で物事を管理するのは不可能です。従って、必要に応じて広大なネットワークからものや情報を引っ張り出してくるという、分散型のアプローチが重要になります。

Risk over safety。リスクを予測することは重要ですが、現代においてすべてのリスクを把握し、除外することは困難です。リスクを恐れていては何も生まれません。リスクを承知で冒険する、まずは挑戦してみる。その気概を持ち続けることが重要になります。

Systems over objects。個に集中するのではなく、あらゆるものをシステムで考えなければなりません。関係や結合を考えたり、バラバラなものの中に共通項を見いだしたりしながら、新しい価値を生み出す。さらに言えば、日本だけに固執するのではなく、世界規模で物事を考えることも大切です。

Compass over maps。複雑かつスピードの速い世界では、すぐに書き換わってしまう地図を持つよりも、優れたコンパスを持つことが大切です。強い企業はすでにコンパスを持ち、現場で素早く物事を決めていますが、多くの日本企業はいまだに地図を作るために膨大な時間とコストをかけています。見通せない未来という地図を懸命に描こうとしているのです。

Practice over theory。理論的には不可能なことでも、なぜか可能になってしまうことがある。それがAIの時代です。だからこそ、とりあえず動いてみて、プロセスの中で仮説・検証を繰り返していく。大切なのは理論を知っていることではなく、実際に機能することなのです。

Disobedience over compliance。多くの学校・企業では指示通りに動くことを賞賛しますが、そこに学びは生まれません。現代において大切なのは、フラットな視点で権威を疑い、本質を考えていくこと。それがイノベーションの原動力にもなるのです。従順よりも小さな反抗を賞賛するべきなのです。

Emergence over authority。AIの時代は、社会的に認められた権威・権力よりも、現場や市井の人々の間から生まれてくる新しい変化、つまり「創発」が重要になります。10代の起業家が続々と生まれているように、大人よりも子どものほうが大量の情報を素早く見つけ出し、思いがけない発想を生み出しています。注視すべきはトップダウンではなく、ボトムアップなのです。

Learning over education。学びは自発的なもの、教育は与えられるものであり、本来は性質が異なります。しかし、私たちの中には依然として「教育システムがないと、学びは生まれない」という意識があります。教育システムに拠らなくても学びを生むことが可能な時代は、すでにやってきています。大切なのは「何を学ぶのか」ではなく、「どのように学ぶのか」なのです。

該当講座

Learning Creative Learning

~MITメディアラボで実践している「学び」への挑戦~

Learning Creative Learning
伊藤穰一 (MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)

伊藤 穰一(MITメディアラボ所長)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第1回は、MITメディアラボ所長の伊藤穰一(Joi Ito)氏をお招きして、MITメディアラボの"Learning Creative Learning"プログラムを題材に、「教わる」から「学ぶ」をどう実践していくかについて考えます。


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