記事・レポート

グローバル・アジェンダ・シリーズ
2人の起業家に学ぶブレークスルーを生み出す力

個人の想いとつながりから始まる21世紀の地球貢献

ビジネススキルキャリア・人政治・経済・国際グローバル
更新日 : 2013年06月03日 (月)

第1章 国連の中で感じた途上国支援の限界

「地球貢献」。それは従来、国連やODA(政府開発援助)の範疇のものと考えられていました。しかし最近では、NGOやNPOだけでなく、エシカルアイテムの購入や、クラウドファンディングなど、個人でも貢献できるようなユニークな仕組みが次々と生まれています。今回は、国連、ODA事業に直接的に関わった経験から、そのメリットとデメリットを知ったことで、新たな地球貢献のカタチを作り上げたお二人をご紹介します。グローバル・アジェンダの解決を目指し、旧来の枠組みを飛び越えて、ブレークスルーを生み出した背景を探ります。

ゲストスピーカー:中村 俊裕(米国NPOコペルニク共同創業者・CEO)
ゲストスピーカー:大澤 亮(㈱Piece to Peace代表)
モデレーター:石倉 洋子(慶應義塾大学大学院教授)

写真左:石倉 洋子(慶應義塾大学大学院教授)写真中央:中村 俊裕(米国NPOコペルニク共同創業者・CEO)写真右:大澤 亮(㈱Piece to Peace代表)
写真左:石倉 洋子(慶應義塾大学大学院教授)写真中央:中村 俊裕(米国NPOコペルニク共同創業者・CEO)写真右:大澤 亮(㈱Piece to Peace代表)

 
ヨーロッパからアジア、そしてアフリカへ

中村俊裕: 私は以前、国連で働いていました。高校生の頃から国連の行うダイナミックな活動にとても興味があり、日本の大学を出てイギリスのLSE(ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)で1年を過ごした後、国連に関係するあらゆる機関にインターン採用の依頼書を出しました。

最初に声をかけてくれたのが、スイスのジュネーブにあったUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)。しばらくして、UNRISD(国連社会開発研究所)に移りました。ジュネーブでは1年半ほど過ごしましたが、高い志を持つ人がいたり、そうでもない人がいたりと、理想とのギャップも少し感じました。そこで、国連の仕事は“フィールド”に出ないと本当の醍醐味が分からないだろうと考え、今度は途上国支援の現場を目指しました。

周囲の勧めもあり、一旦日本に戻ってコンサルティングファームに入りましたが、念願の現場に行くチャンスがやってきました。2002年、正式に独立を果たした東ティモールの支援活動に携わる機会を得たのです。UNDP(国連開発計画)のスタッフとして、元兵士の社会統合プロジェクトなどの仕事を任されました。その後、インドネシアに渡り、スマトラ島沖地震の復興支援に携わりながら、2年ほど過ごしました。

さて、次はどこに行こう。頭に浮かんだのは、アフリカでした。多くの課題を抱えているアフリカを見ずして、国連の仕事は語れない。単純な決断でしたが、実はこれが大きな転機となったのです。

シエラレオネで直面した現実

中村俊裕: 2007年に私が赴任したのはアフリカ大陸の西岸、大西洋に面した小国シエラレオネでした。UNDPが毎年発表する「人間開発指数」(※)において、シエラレオネは当時178カ国中の最下位。現在、少しは改善されましたが、かつては「世界で最も平均寿命が短い国」と言われていました。

当時、10年以上続いた内戦が終結し、ようやく政治が安定しはじめたような時期でした。ちょうど同国初の民主的な大統領選挙が行われた前後で、UNDPはそれを支援していました。大統領選挙で政権が交代し、新政府と一緒に新しい国家戦略作りを行うことになりました。多くの関係者と何度もミーティングを重ね、最終的に分厚い枚数の戦略プランができ上がりました。私は何か大きな仕事をしたような気になり、「国連の仕事は本当に素晴らしい」と充実感に浸っていました。

それから1年ほど経ったある日。首都のフリータウンから車で何時間も離れた、ある村の光景を見て、私は愕然としました。人々の生活がまったく変化していなかったのです。特に、誰よりも支援を必要としているラストマイル(インフラが整備されておらず、最もアクセスが難しい最貧困地域)にまったくそれが届いていない。自分たちの仕事は単なる自己満足だったのかと、衝撃を受けました。

国連が行う途上国支援は、次代を見据えた大きな枠組みを作ることが中心となります。いっぽうで、毎日の生活にも困窮する人々がいるにもかかわらず、支援が届くまでには途方もない時間がかかっている。国連の活動はスケールが大きい反面、政府や団体など複数のルートを経由するため、どうしても末端にいる人々へのインパクトが緩やかになってしまいます。そこで私は、末端にいる最貧困層の人々の生活を直接的に改善する方法を考え始めました。

その後、ニューヨークの国連本部に移って組織改革に関わることになりましたが、頭の隅にはいつもシエラレオネで見た光景がありました。今までになかった革新的な仕組みとは何だろう。多くの人に会い、様々な情報を調べる中で出会ったのが、ラストマイルに貢献できるテクノロジーだったのです。

※人間開発指数(HDI/Human Development Index)
平均余命、生活の質、教育、所得など、人間開発の到達度を示す指数。2012年は1位ノルウェー、2位オーストラリア、3位アメリカ、日本は10位、シエラレオネは177位、最下位(186位)はコンゴ民主共和国ならびにニジェールとなっている。


該当講座

2人の起業家に学ぶブレークスルーを生み出す力

~既存の枠組みから飛び出し、たどり着いた地球貢献のかたち~

2人の起業家に学ぶブレークスルーを生み出す力
中村俊裕 (コペルニク共同創設者兼CEO)
大澤亮 (株式会社Piece to Peace 創業者・代表取締役社長)
石倉洋子 (一橋大学名誉教授)

中村 俊裕(米国NPOコペルニク共同創業者・CEO)
大澤 亮(㈱Piece to Peace代表)
石倉 洋子(慶應義塾大学大学院教授)
今回のセミナーでは、過去に伝統的な途上国支援の現場に携わり、そこからブレークスルーを生み出した2人の若き起業家にゲストとしてお越しいただきます。BOPビジネスに熱い視線を送る日本企業との関係や、グローバル人材育成、ファッション大国の日本ができること等にも触れながら、2人のスピーカーを通じて既存の枠組みを超えて活動するために必要な力について考えます。


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