記事・レポート
「はやぶさ」の川口淳一郎氏が語る、奇跡のチームビルディング
栄光をつかんだチームに日本再生のヒントを探る in 日本元気塾
日本元気塾キャリア・人教養
更新日 : 2011年08月23日
(火)
第7章 高い塔を建ててみなければ、新たな水平線は見えてこない
川口淳一郎: NASAのプレスリリースには、「『はやぶさ』は世界で2番目にほかの惑星から帰還した探査機で、1番目は『スターダスト』だ」と書いてあります。本当に“2番目”とあったのです。カプセルからイトカワ起源の粒子が見つかると、アメリカ惑星協会からメールがきたのですが、そこにも「おめでとう。『はやぶさ』は世界で2番目にほかの惑星から帰還した探査機だ。1番目は『スターダスト』だ」とありました。
「スターダスト」はすい星の近くをかすめながら一周して帰ってきただけなので、着陸したわけでも停車したわけでもありません。ポンと蹴り出してレールを惰性で1周して帰ってきた遊園地の乗り物みたいなものなので、「はやぶさ」とは技術的に難易度が全く違うんです。だから“2番目”なんて言われる筋合いはないのですが、アメリカ政府は「自分の国がナンバーワンだ、自信と誇りを持て!」という姿勢が徹底してるんですね。
アメリカのフェルミ国立加速器研究所の初代所長、ロバート・ラスバン・ウィルソンは、莫大な国家予算が必要な加速器をつくろうとしたとき、反対派の議員から「この機械で国が守れるのか? 何の価値もないじゃないか」と言われたとき、「しかし、守るべき価値のある国をつくることができる」と答えたそうです。これが科学技術を目指す大きな理由だと思います。
科学技術の成果が出るには時間がかかります。「はやぶさ」は構想から25年、プロジェクトがスタートしてから15年、飛行が始まってから7年目に成果が出たわけです。「今年予算をつけたら、来年どういう成果を得られるのですか?」ということでは、「はやぶさ」のようなことはできるわけがないので、国会には近視眼的でない政策を期待したいものです。
「はやぶさ」は世界で初めて地球圏外の天体に着陸して帰還した宇宙船です。それと同時に、たくさんの困難を切り抜けた、努力を我々に見せてくれた宇宙船でもあります。こうしたことができたのは、チーム全員が「ゴールは地球だ」という信念を共有し、チームワークとモチベーションを維持できたからだと思います。
いろいろお伝えしたい教訓はあるのですが、1つ挙げるとすれば、「技術よりも根性だ」ということです。「技術よりも」と言うと、「根性のほうが大事だ」と言っているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。技術あっての根性です。「意気込み」と「あきらめない心」。こういう精神力をプロジェクトチーム全員が持っていたことが帰還への大きな原動力となったのです。
「はやぶさ」は実力で帰って来た、などとおこがましいことを言うつもりはありません。本当に運に助けられて帰ってきました。この運を実力に変えて定着させてこそ意味があると思っています。ハイリスク・ハイリターンの活動を根づかせるには、運を実力に変えて定着させなければなりません。「はやぶさ」の後継機のプロジェクトでは、こうした活動をしていきたいと思っています。
最後になりますが、日本を襲う閉塞感を打ち破るためには「新しいアイディアで変革を——Inspiration for Innovation」が大事だと思います。先進国病を克服するためには、個性、inspirationを伸ばす人材育成に取り組まなければなりません。「高い塔を建ててみなければ、新たな水平線は見えてこない」——同じ目線のままでは、決して今の水平線は広がることはなく、新しいものは見えてきません。ですので、特に若い方々には、たとえむちゃでも、はったりでもいいので、とにかく思いっきり背伸びして挑戦してほしいと思います。少しでも、一歩でも高いところから見れば、新しい水平線が見えてきます。
「スターダスト」はすい星の近くをかすめながら一周して帰ってきただけなので、着陸したわけでも停車したわけでもありません。ポンと蹴り出してレールを惰性で1周して帰ってきた遊園地の乗り物みたいなものなので、「はやぶさ」とは技術的に難易度が全く違うんです。だから“2番目”なんて言われる筋合いはないのですが、アメリカ政府は「自分の国がナンバーワンだ、自信と誇りを持て!」という姿勢が徹底してるんですね。
アメリカのフェルミ国立加速器研究所の初代所長、ロバート・ラスバン・ウィルソンは、莫大な国家予算が必要な加速器をつくろうとしたとき、反対派の議員から「この機械で国が守れるのか? 何の価値もないじゃないか」と言われたとき、「しかし、守るべき価値のある国をつくることができる」と答えたそうです。これが科学技術を目指す大きな理由だと思います。
科学技術の成果が出るには時間がかかります。「はやぶさ」は構想から25年、プロジェクトがスタートしてから15年、飛行が始まってから7年目に成果が出たわけです。「今年予算をつけたら、来年どういう成果を得られるのですか?」ということでは、「はやぶさ」のようなことはできるわけがないので、国会には近視眼的でない政策を期待したいものです。
「はやぶさ」は世界で初めて地球圏外の天体に着陸して帰還した宇宙船です。それと同時に、たくさんの困難を切り抜けた、努力を我々に見せてくれた宇宙船でもあります。こうしたことができたのは、チーム全員が「ゴールは地球だ」という信念を共有し、チームワークとモチベーションを維持できたからだと思います。
いろいろお伝えしたい教訓はあるのですが、1つ挙げるとすれば、「技術よりも根性だ」ということです。「技術よりも」と言うと、「根性のほうが大事だ」と言っているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。技術あっての根性です。「意気込み」と「あきらめない心」。こういう精神力をプロジェクトチーム全員が持っていたことが帰還への大きな原動力となったのです。
「はやぶさ」は実力で帰って来た、などとおこがましいことを言うつもりはありません。本当に運に助けられて帰ってきました。この運を実力に変えて定着させてこそ意味があると思っています。ハイリスク・ハイリターンの活動を根づかせるには、運を実力に変えて定着させなければなりません。「はやぶさ」の後継機のプロジェクトでは、こうした活動をしていきたいと思っています。
最後になりますが、日本を襲う閉塞感を打ち破るためには「新しいアイディアで変革を——Inspiration for Innovation」が大事だと思います。先進国病を克服するためには、個性、inspirationを伸ばす人材育成に取り組まなければなりません。「高い塔を建ててみなければ、新たな水平線は見えてこない」——同じ目線のままでは、決して今の水平線は広がることはなく、新しいものは見えてきません。ですので、特に若い方々には、たとえむちゃでも、はったりでもいいので、とにかく思いっきり背伸びして挑戦してほしいと思います。少しでも、一歩でも高いところから見れば、新しい水平線が見えてきます。
関連書籍
はやぶさ、そうまでして君は—生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話
川口淳一宝島社
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2011年08月26日 (金)
該当講座
小惑星探査機「はやぶさ」奇跡のチームビルディング
~目的地は、地球~
川口淳一郎 (独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
月・惑星探査プログラムグループ プログラムディレクタ
宇宙科学研究所 教授)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)
川口淳一郎(JAXA)教授×米倉誠一郎教授
2010年6月、小惑星探査機「はやぶさ」が「イトカワ」への7年間の旅を終えて奇跡の帰還—。今年最初の日本元気塾セミナーは、「はやぶさ」プロジェクトマネージャとしてミッションを指揮し、類稀なるリーダーシップ、的確な判断力で、奇跡の帰還に導いた川口淳一郎氏(宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授)をゲストにお迎えし、ミッション達成のために目指すべき、理想的な“チーム”の姿を、皆さんと一緒に考えていきます。
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