オピニオン・記事

20世紀から21世紀の「幸福の方程式」へ

~消費と幸福の新しい関係~

更新日 : 2010年10月15日 (金)

第7章 オバマは「帯衆」戦略で大統領選に勝利した

袖川芳之氏

袖川芳之: 政治状況は「帯衆」を端的にあらわしています。アメリカのオバマさんの大統領選挙を例に取って見てみましょう。

オバマさんのPRチームは、世界的な広告業界誌『Advertising Age』のマーケター・オブ・ザ・イヤー(2008年)を受賞しました。企業ではなく、政治PRチームが初めて獲ったということで話題になりました。

アド・エイジ誌の評では「チーム・オバマをよく調べれば、ソーシャル・ネットワークを構築でき、人々を簡単に結びつけるツールも生み出せる」「オバマは伝統的な意味でのブランドではなく、カルチャームーブメントだ」「チーム・オバマが生み出したものは、参加とアクセス(inclusion and accessibility)の体験である」など、このPR チームがブランド構築によるファンづくりを行ったかのような評価がされました。

チーム・オバマにはいくつかポイントがありました。1つ目は「You-We」戦略。オバマさんは、常にYouとかWeという言葉で語りかけています。これをオバマさんの選挙コンサルタントは「Transaction(交換条件のある支持)ではなくてTranscend(無条件の支持の呼びかけ)だ」という言い方をしています。

Transactionは「道路をつくるから、私に票をください」というような交換条件方式で、古い政治手法です。でも、オバマさんは、「みんなで何かをしましょう」としか言いません。「無条件に私を支持してください。みんなで社会を変えていきましょう」。この呼びかけが人の心を動かしたのです。

2つ目は、「想いを共有する少数のチームが脚本を描いたこと」。チーム・オバマの中核メンバーはアクセルロッドという人を中心にしたたった4人です。ボランティアはたくさんいますが、基本的には4人のチームが最初から最後までプランニングの全てをコントロールすることで、1ミリのニュアンスの狂いもないメッセージを発信することができたのです。

そして3つ目、これが非常に革新的だったと思うのですが、「狭く深く伝えたこと」。マスメディアの常識では常に広く浅く伝え、支持を集めていくやり方を取ります。が、チーム・オバマは、少数でもいいから心からつながれる味方(強い支持者)をつくるという、常識を覆す戦略をとりました。それによって信頼のない100人よりも、連帯した数人を味方につけたのです。彼のやったことは政治ではなく、実は「脱・政治」の運動、文化・社会活動だったのです。

今、政治や政党が存在意義を問われていますが、「政治とは何か」ということをアド・エイジ誌や、いろいろな人の分析から読み解くと、政治のつまるところは、人を勇気づけること、人をエンカレッジすることだということです。

アド・エイジ誌で紹介されていたハーバード・ビジネススクールの教授は、「政治とは何か、それは人を愛することだ。オバマさんは自分が人を愛していることを表現していた。一方のヒラリー・クリントンは、自分が政策を愛していることをコミュニケーションしていた」と評しました。

政治とは、最終的に人を笑顔にすることだとも言えます。ある日本のタレントが「政治家にならないんですか?」と聞かれて、「政治って人を笑顔にすることでしょ? 僕はいつも人に笑顔を与えている。だから、これが僕の政治だよ」と言いました。この、あるタレントとは実は萩本欽一さんなのですが、こういう感覚が今の政治に求められているのだと思います。
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山田昌弘 (中央大学 文学部 教授)
袖川芳之 (株式会社電通 ソーシャル・プランニング局 プランニング・ディレクター)

山田 昌弘(中央大学 文学部 教授)
袖川 芳之(株式会社電通 ソーシャル・プランニング局 プランニング・ディレクター)
いま、「幸せ」ブームと言われています。戦後、長い間「消費によって豊かな家族をつくるということ=幸福」という図式を誰もが共有していました。しかし価値観が多様化し、不況を迎えたいま、新しい「幸福の方程式」が求められています。本セミナーでは、「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」など数多くのブームの火付け役となった気鋭の社会学者である山田氏とマーケターの袖川氏が、幸福観の変化から読み解く新しいライフスタイルと消費のカタチについて語ります。


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