記事・レポート

20世紀から21世紀の「幸福の方程式」へ

~消費と幸福の新しい関係~

更新日 : 2010年10月06日 (水)

第1章 豊かさ以外の幸福とは何か

戦後日本の幸福の指標は消費によって豊かな家族をつくることでした。では、価値観が多様化した21世紀の幸福はどんな形になるのでしょうか。「パラサイト・シングル」や「婚活」の言葉を生んだ社会学者の山田昌弘氏と、株式会社電通で「チームハピネス」を率いて幸福の研究を重ねている袖川芳之氏にお話しいただきます。

講師:山田昌弘(中央大学文学部教授)
講師:袖川芳之(株式会社電通 ソーシャル・プランニング局 プランニング・ディレクター)

山田昌弘氏(左)袖川芳之氏(右)

山田昌弘: 数年前、内閣府の審議会で「生活達人」を全国から募ろうという話が出て、「うまく生活を送っている人」を募集したところ、なんと、何百という応募がありました。「朝、近所の掃除をしています」とか「会社を辞めて田舎に引っ越して生活しています」など、皆さん本当に多種多様な自分らしい活動をなさっていました。

その後、応募してくれた皆さんを生活達人として認定しようということになり、内閣府生活達人委員会が認定証とバッチを配ったところ、皆さん、とても喜んでくださいました。内閣府が認定しても別に何か得があるわけではないのですが。

この辺に幸福感のヒントがあるんじゃないかと思い、内閣府の経済社会総合研究所の政策企画調査官だった袖川さんともおつき合いさせていただいて、プロジェクトを立ち上げ、結果的に『幸福の方程式』という本を出すことになったのです。

ジグムント・バウマンという有名な社会学者は、「幸福について語らなければいけないという時代は、果たして幸福なんだろうか。それは、逆に社会が不幸になり始めている証拠なんじゃないか」というような話をしています。

今、日本で「幸福」への関心が集まっていますが、これは日本社会が、おそらく世界も同様だと思いますが、生きづらさを感じているからではないでしょうか。その生きづらさから抜け出す新しい出口を求めるエネルギーが感じられるのです。

ブータン政府は国力をGDPという物質的な幸福ではなく、GNH(Gross National Happiness=国民総幸福量)、つまり幸福で測ろうと言いました。しかし、これはブータン政府のオリジナルではありません。私が把握している中で一番古いものは、ロバート・ケネディが1968年の大統領予備選のキャンペーンで言っていた、「GDPじゃなくて幸福を最大限にしよう」というものです。

ジョン・F・ケネディも似たようなことを言いましたが、ロバート・ケネディははっきりと、経済的幸福にかわる新しい幸福のシステムが必要だと述べたわけです。ニクソンが出てくる直前で、アメリカ経済も斜陽に近づき、ベトナム戦争もきな臭くなっていた時代です。

その時代から、「豊かさ以外の幸福があるのではないか」という意識を持ちつつ今に至っているのですが、実際に関心が集まるのはGDPです。豊かさと幸福が関係ないならば、GDPの増大を目標にしなくてもいいのですが、そんなことを言う政治家は現れません。やはり我々は、経済的な豊かさから逃れられないということではないでしょうか。

では、「なぜ物質的な豊かさから逃れられないのか」——むしろ、こちらを解明してから、物質的な豊かさと関係ない幸福があるのかを議論していく必要があると思います。
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山田昌弘
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山田昌弘 (中央大学 文学部 教授)
袖川芳之 (株式会社電通 ソーシャル・プランニング局 プランニング・ディレクター)

山田 昌弘(中央大学 文学部 教授)
袖川 芳之(株式会社電通 ソーシャル・プランニング局 プランニング・ディレクター)
いま、「幸せ」ブームと言われています。戦後、長い間「消費によって豊かな家族をつくるということ=幸福」という図式を誰もが共有していました。しかし価値観が多様化し、不況を迎えたいま、新しい「幸福の方程式」が求められています。本セミナーでは、「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」など数多くのブームの火付け役となった気鋭の社会学者である山田氏とマーケターの袖川氏が、幸福観の変化から読み解く新しいライフスタイルと消費のカタチについて語ります。


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