記事・レポート

20世紀から21世紀の「幸福の方程式」へ

~消費と幸福の新しい関係~

更新日 : 2010年10月14日 (木)

第6章 今求められているのは、大衆ならぬ「帯衆」

袖川芳之氏

袖川芳之: 『幸福の方程式』が従来の幸福論にはない特色として設定したテーマは、「何かを買うことが幸福につながる」ということではなく、山田先生のお話にもあったように「将来も今と同じように買い続けられるという見通しを持てることが幸福なんだ」ということです。私のようなマーケターは、幸福になるにはこれを買えばいいと消費者に商品を提案するのが仕事なのですが、そうではないという視点です。例えば「今この車を買ったけど、これに3年乗ったら次はあれに乗り換えるんだ」という、消費の目標が続いていく感覚が幸福感なんだというのは、新しいマーケティングだと思います。

しかし、今は買い続けられる見通しが持てなくなってきたので、消費そのもののうれしさを味わえなくなったのです。そこで、消費そのものを楽しむのではなく、消費を道具として使うのがこれからの幸福な消費のあり方だろうと説いたわけです。その具体的な形が、自分を極めるという、自分の趣味の世界で成長を実感する消費と、環境や社会活動を通して社会に貢献する消費と、そして人間関係をはぐくむ消費の3つを提唱しました。

このことを単純に理解するためにお話ししたいのは、「今、幸福が漂流している」ということです。恐らく幸福にはベースがあって、そのベースの上で何か活動をするととりあえず断片的な幸福が得られるのですが、その幸福感がさらに幸福のベースをサステイナブルに強化するように感じられた時「ああ、幸せだな」と手ごたえのある幸福として感じられるのです。

80年代までの幸福を推進する主体は家族で、この幸福の断片とベースとの循環が非常にうまく機能していました。ところが今は雇用も危うくなり、所得も増えないので、ベースが揺らいでいます。欲しいものはあるし、買った瞬間はうれしいけれど、次につながらない。「ああ、またお金使っちゃった。」みたいな時代になっているのです。これを「漂流する幸福」と名づけました。

電通で調査した「消費に対する喜び」の回答では、「買うと喜びが得られるもの」に、住宅や国内旅行、パソコン、テレビなどが並んでいます。一方、「買っても特にうれしくない。単に使えればいいもの」の中に、DVDプレイヤーや車が入ってきています。つまり、車は“乗りたい”ものではなく“乗れればいい”消費財として捉えられているのです。

そのかわりに何が求められているのか……それは人との手ごたえのあるつながりです。その主体は大衆ならぬ「帯衆」、連帯する大衆というマスのあり方です。

人とのつながりが求められていることを示すデータがあります。内閣府が毎年行っている「社会意識に関する世論調査」です。それによると、2005年を境にして「日頃、社会のために役立ちたい」というポイントが伸びています。また「社会にもっと目を向けるべきか、個人生活の充実を目指すべきか」という設問でも、「社会に目を向けるべき」の回答が伸びています。「個人の利益か、国民の利益か」では、大幅に「国民の利益」が伸びているのです。
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山田昌弘 (中央大学 文学部 教授)
袖川芳之 (株式会社電通 ソーシャル・プランニング局 プランニング・ディレクター)

山田 昌弘(中央大学 文学部 教授)
袖川 芳之(株式会社電通 ソーシャル・プランニング局 プランニング・ディレクター)
いま、「幸せ」ブームと言われています。戦後、長い間「消費によって豊かな家族をつくるということ=幸福」という図式を誰もが共有していました。しかし価値観が多様化し、不況を迎えたいま、新しい「幸福の方程式」が求められています。本セミナーでは、「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」など数多くのブームの火付け役となった気鋭の社会学者である山田氏とマーケターの袖川氏が、幸福観の変化から読み解く新しいライフスタイルと消費のカタチについて語ります。


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