記事・レポート

20世紀から21世紀の「幸福の方程式」へ

~消費と幸福の新しい関係~

更新日 : 2010年10月13日 (水)

第5章 21世紀にふさわしい新しい幸福の物語と消費のカタチとは?

山田昌弘氏

山田昌弘: 幸せをもたらす商品を買い続けることが幸福だ、という物語が行き詰っているのだから、消費も新しいカタチを求めるのではないかと、私と袖川さんで知恵を絞りながら『幸福の方程式』で新しい幸せの物語をつくろうとしました。少しご紹介しましょう。

今までの消費は、家族消費にしてもブランド消費にしても、「この商品を買えば幸せになる」という“間接型”でした。買うとなぜ幸せになるかについてはあまり考えずに物語に乗ったわけですが、結局は自分の人生が社会から肯定されるために消費していたと言えないでしょうか。とすれば、“直接”自分の人生を肯定するものにお金を使うことが、新しい幸福のあり方ではないかということで、3つの新しい幸福の物語を考えました。

1つは、自分を極めるという物語です。自分の内側にある自分では気づかなかったものとのつながりを得るという回路があると思います。オタクもそうですね。自分の感覚にぴったりのものを探し出したときに、人は幸福を感じるのです。

2つ目は、社会に貢献している、必要とされているという物語。最近、海外旅行に行く若者が減っていますが、唯一売れているのはボランティア旅行です。これは、例えばフィリピンの孤児院に行って洗濯を手伝ったり、子どもたちと遊んだりするツアーです。ツアー会社はそれで利益を得ています。エコ商品もこれに当てはまります。

最後は、人とつながっているという物語です。ブログやツイッターもそうでしょう。最近、主婦の大学院生が増えていますが、彼女たちにインタビューすると、「若い人と話せるのがうれしい」と言うんです。ゼミでも、若い人に自分の話を聞いてもらうがうれしいようです。私は最近、2カ月に一度クリニックに行くのが趣味なんですが、院長さんが友達なので、検査よりも話を聞いてもらうことが喜びなんです。高齢者が病院に行く動機も同じような気がします。

こう考えてみると、自分がいろいろなところでつながっているということを確認することをサポートするための消費が広がっていると気づきます。であれば、それにお金を使うことをサポートするシステムというのが、これからの新しい消費をつくるんじゃないかと思うのです。
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山田昌弘
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山田昌弘 (中央大学 文学部 教授)
袖川芳之 (株式会社電通 ソーシャル・プランニング局 プランニング・ディレクター)

山田 昌弘(中央大学 文学部 教授)
袖川 芳之(株式会社電通 ソーシャル・プランニング局 プランニング・ディレクター)
いま、「幸せ」ブームと言われています。戦後、長い間「消費によって豊かな家族をつくるということ=幸福」という図式を誰もが共有していました。しかし価値観が多様化し、不況を迎えたいま、新しい「幸福の方程式」が求められています。本セミナーでは、「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」など数多くのブームの火付け役となった気鋭の社会学者である山田氏とマーケターの袖川氏が、幸福観の変化から読み解く新しいライフスタイルと消費のカタチについて語ります。


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