記事・レポート

20世紀から21世紀の「幸福の方程式」へ

~消費と幸福の新しい関係~

更新日 : 2010年10月12日 (火)

第4章 金融危機後に訪れた消費不安の時代

山田昌弘氏(左)袖川芳之氏(右)

山田昌弘: ジグムント・バウマンはブランドを「幸福の物語を保証するもの」と述べています。ロバート・ライシュという経済学者も似たようなことを言っていて、「ブランドとは何らかの保証だ」と言っています。

つまり、ブランドにはまるということは、そのブランドが提供する商品を次から次へと買うことによって、幸福を保証する個人の物語に自分を合わせていくということです。日本においてブランドがあれほど社会に広まったのは、地位付与機能があったからです。

これは女性に一番効きました。幸福度、生活満足度を測ると、20代女性と高齢女性、さらに主婦の幸福度が非常に高く、反対に、収入が一番高いはずの40代男性の幸福度が一番低いのです。このことから、パラサイト・シングル論を思いついたのです。

パラサイト・シングルは、親に基本的な生活をさせてもらっているから消費ができます。高収入の夫をもつ主婦は、働かなくてもお金が使えます。年金もしくは遺族年金をもらっている高齢者の奥さんも幸福なんです。

でも彼女たちにはまだないものがあります。それは、社会的に承認された地位です。そのときブランドが地位を付与するものとして機能したのです。パラサイト・シングルの調査のとき、「ブランド物を初めて買ったときに抱えて寝た」「使わずに毎日眺めた」という話をよく聞きました。つまり、職業的地位はないけれど、ブランドを買える地位になったことに幸福を感じたということです。

これは、他人からの評価を買っているということです。ブランド物には、間接的に他人の評価を買っている機能があり、ブランドを買い続けることができるという期待が幸福に結びつくのです。

また、家族の幸福ではなく、個人の幸福ですから1つのジャンルでいいわけです。家族を幸福にするには家もテレビもクーラーも、家族を幸せにするものはすべて買わなければなりませんが、ブランド消費なら自分がこだわるものだけでいいのです。

ここで、新しい形の貧困が定義されます。幸福を生み出すと期待されるブランドを買い続けることが将来できなくなる、という見通しによって不幸が訪れるのです。それが金融危機後の日本人の状態だったと思います。収入が増えていく見通しのもとならブランド物を次々と買い揃えられるという期待はできますが、ボーナスが出なくなり、新商品が買えない状態になると、すごく惨めな気分になる。ブランド消費もそういう意味で行き詰っていったのです。

そして金融危機後に訪れたのが、「消費不安の時代」です。とにかく「貧困に陥らない」という消極的幸福を優先する人が出てきました。将来が不安だから消費をせず、不幸になることを防ぐ施策が若者にとって最重要になったのです。本来は新しいものに手が伸びるはずの若者が守りに入っているわけですから、消費不況になります。「一番欲しいものは?」と今の学生に聞くと、「定職」と答えますからね。
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いま、「幸せ」ブームと言われています。戦後、長い間「消費によって豊かな家族をつくるということ=幸福」という図式を誰もが共有していました。しかし価値観が多様化し、不況を迎えたいま、新しい「幸福の方程式」が求められています。本セミナーでは、「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」など数多くのブームの火付け役となった気鋭の社会学者である山田氏とマーケターの袖川氏が、幸福観の変化から読み解く新しいライフスタイルと消費のカタチについて語ります。


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