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人事労務の法的課題

~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~

更新日 : 2009年03月13日 (金)

第7章 裁判所は鈍感だから方向転換できない。法改正が最良の策

高谷知佐子さん

高谷知佐子: 会場の皆さんからもご質問を募ってみましょう。

会場からの質問: 仕事ができる人間なら1時間で回せる仕事でも、仕事ができない人間では10時間かかるという場合。その人に時間外の対価を支払うのは納得できないので、時間以外での支払いの考え方はないのでしょうか。

高谷知佐子: なるほど。ただ日本の労働基準法の考え方は、原則時給換算です。だから、その働きがどうであれ、働いた時間に対して時給を払うということになります。今のお話ですと、時給単価での調整を考えていただくようになると思います。

山本紳也: 今先生がおっしゃった通り、法律が時間ベースでできていますので、働いた時間は払うのが絶対です。ほかの評価のところで、どう差をつけていくかという答えしか出せないというのが現状ですね。

高谷知佐子: 本当は、「時間をかけた人が偉いわけではない仕事」の場合は、違った給料の決め方を法律が許してくれればいいのですが、今の日本にないんです。

会場からの質問: ガソリンスタンド・チェーンの経営者です。日本のサービス業は、恐らく法律を守ればまったく営業できなくなるだろうと思います。もちろん法律は守らなければならないのですが、今の傾向は、ほとんどのサービス業を衰退させる結果になるんでしょうか。大変心配するところです。

高谷知佐子: その辺は政策的な話で、結局、国会が何とかしてくれないといけないんですね。悪口ではなく、裁判所は結構鈍感です。残念ながら、裁判所が自ら舵を切り方向転換するのは難しい感じがします。一番いいのは法改正ですが、例えば通達などのきっかけがないと裁判所は変えてくれない。サービス業の企業には、まだまだ苦難の時代が続かざるを得ないという感じはします。

私のお客さんでも、この関係の判例が出ると社内で検討せざるを得ないが、検討しては「財務上、無理だからやめました」となる。試算すると100億円とかになってしまって、「冗談じゃない」という状況です。

ですから、社員に「嫌われない」というと変ですけれど、訴えられないようにするのが企業にとっての最大の防御かなという感じがします。

山本紳也: 我々も、不正が見つかった企業の再生のお手伝いが最近多いのですが、ほとんどは内部告発から始まったケースです。従業員が会社をどう思っているとかというのを気にしていくことが、重要な時代になったことは事実ですね。

会社法と違って労働法は、大前提が強者である会社から、弱者の労働者を守るためなので、会社に有利な形にはならない。時代によって変わっていくのでしょうけれども、そこと折り合いをつけていくしかないという感じはします。

実際、リストラとか不利益変更の給与カットとか、10年20年前に比べると、「認められる」程度がだいぶ緩くなっている流れはあるので、徐々に変わってくるのを待つしかないところです。
(その8に続く、全10回)

※本セミナーで取り上げている病気や疾患などの説明および対処方法は、「ロバストネス」の観点からの仮説です。実際の治療効果は一切検証されていません。講師およびアカデミーヒルズは、いかなる治療法も推奨しておりませんし、本セミナーの内容および解釈に基づき生じる不都合や損害に対して、一切責任を負いません。病気や疾患などの治療については、信頼できる医師の診断と指示を必ず仰いでください。

該当講座

人事労務の法的課題

~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応

人事労務の法的課題
高谷知佐子 (森・濱田松本法律事務所 弁護士)
山本紳也 (プライスウォーターハウスクーパースHRS パートナー)

人事・労務専門弁護士の人気ランキングで常に上位に入る高谷知佐子弁護士をお迎えし、昨今の人事・労務問題をどう解決するか、企業の対応策を考えます。今回は、マクドナルド判決を取り上げます。東京地裁の判決を解説するとともに労働基準監督署の指導基準にも触れながら、これら問題の背景および本質を探ります。 ま....


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