記事・レポート

人事労務の法的課題

~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~

更新日 : 2009年02月27日 (金)

第5章 役員の1つ下のポジションは、管理監督者性を認める傾向

アカデミーヒルズで開催した「人事労務の法的課題~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~」セ

高谷知佐子: もうひとつ、「播州信用金庫事件」を見ておきたいと思います。原告は副代理という立場で、支店長と副支店長の下、3番目に偉い人と思ってください。裁判所は「管理監督者とはいえない」と判断しています。

この事件で特徴的なのは、【労働時間の裁量性】です。裁判所の主張は「副代理には、定時の金庫の開閉という仕事がある。渉外担当職員に対する指示相談という業務もある」。また意味不明ですが「原告の机は支店長の斜め前にあり、自由に中抜けできたと考えられない」などを論拠とし、「原告が自己の勤務時間について自由裁量を有していたとは評価できない」としたのです。

ここで原告が管理監督者でないとすると、この支店の管理監督者は、支店長と副支店長だけです。規模にもよりますが、現在の会社組織を考えると「相当上の層だけが管理監督者」というのに等しい判例となっています。

一方「姪浜タクシー事件」は、珍しく管理監督者性が認められた事件です。この事件の原告は営業次長。営業次長は、代表者や役員の次のポジションで、役員の直属というイメージです。

営業次長は営業全体について任され、労使間の取り決めに関しても使用者側を代表していた。取締役や主要な従業員が出席する経営協議会のメンバーとしても活動をしていたと、会社側は主張しました。

これに対して原告は「タクシー会社なので終業点呼、始業点呼というのがあり、タクシーが帰社したときの確認、出るときの確認に立ち会わなければならなかった」と言います。「マクドナルド事件」や「播州信用金庫事件」と同様、「労働時間の拘束を受けている」と主張したのです。

それについて、裁判所は「確かにそうかも知れないが、多数の乗務員を直接指導、監督する立場であるなら当たり前」と言っています。これは先ほどの判例と何か齟齬がある気がしますが、この事件においては、「終業点呼、出庫点呼にいなければいけないことが、労働時間の自由裁量性を否定するものではない」という考え方です。

これら多くの判例を見ていくと、あるポイントが見えてきます。裁判所の傾向として、役員の1つ下のクラス程度の人であれば、管理監督者性を認める傾向にあると。「姪浜タクシー事件」も役員の直属でした。「日本ファースト証券事件」も支店長の上は役員です。

ただ、役員の2つ下クラスになってくると、相当厳しい判断をしています。裁判所で勝ち切る人事制度を考えるのであれば、役員の直属ぐらいまでを管理監督者としないと、太刀打ちはできないという感じです。

「役員の直属だけ」だと全社員の10%を切るかもしれないし、場合によってはごく少数になるでしょう。1,000人規模の工場の工場長であっても、役員との間に誰かがいれば、「工場長も管理監督者ではない? じゃあ、工場は一体誰が管理監督しているの?」という疑問も出てきます。はっきり経営参画している、いわゆる経営会議などの出席者に絞ると、役員や執行役員、せいぜい部長までで、課長や次長も、裁判所には「管理監督者ではない」のかなと思います。

そういう意味で、ご相談されるお客さまには「どこを目指しますか?」と聞くわけです。「裁判でも勝ち切ります。天地神明にかけて、私たちはコンプライアンスに違反しません」というところを目指すのか、「通達に表れているような労基署の考え方を敷衍して、おかしくない程度で考える」ことにするのか、そこで出発点が変わってきますとお話しています。
(その6に続く、全10回)

※この原稿は、2008年9月3日にアカデミーヒルズで開催した『ヒューマンリソースマネジメントの舞台裏:人事労務の法的課題~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~』を元に作成したものです。

該当講座

人事労務の法的課題

~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応

人事労務の法的課題
高谷知佐子 (森・濱田松本法律事務所 弁護士)
山本紳也 (プライスウォーターハウスクーパースHRS パートナー)

人事・労務専門弁護士の人気ランキングで常に上位に入る高谷知佐子弁護士をお迎えし、昨今の人事・労務問題をどう解決するか、企業の対応策を考えます。今回は、マクドナルド判決を取り上げます。東京地裁の判決を解説するとともに労働基準監督署の指導基準にも触れながら、これら問題の背景および本質を探ります。 ま....


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