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人事労務の法的課題

~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~

その他
更新日 : 2009年02月05日 (木)

第4章 店長系の責任・権限程度では、管理監督者と言い切れない

高谷知佐子: 昭和60年から最近までの、管理監督者であるかどうかが裁判で争われた主な判例リストを用意しました。昭和のものと平成元年から10年代、10年以降と分けて比べると、やはり平成10年以降、こういった形の訴訟件数が増えています。

参考に「日本ファースト証券事件」を見てみます。マクドナルド判決のわずか10日後の判決で、「管理監督者である」と珍しく認められた判例です。この事件の原告は、ある支店長です。「支店長が管理監督者でないといえるのか」と注目されたのですが、裁判所はこう判断しています。

まず、この支店長には30人以上の部下がいます。支店の経営方針を定め、部下を指導監督する権限も、中途採用者の採否を決定する人事権も持っていました。係長以下の人事についての裁量を有し、社員の降格・昇格にも相当な影響力を持ち、部下の労務管理を行っていました。自身の出欠勤、自分の休日は管理対象外です。

賃金面では、「月25万円の職責手当を受け、給与と合わせると月82万円」で、支店長以下より格段に高い。支店長会議も当然開かれ、会社全体の事業や経営方針について話し合われた実態もあるようです。これらを合わせて、管理監督者性が認められました。

ここでも、先ほど出した3つの判断要素がそのまま引用されています。支店長になると、「職務内容、権限、責任が十分に管理監督者たる位置にある」ことになっています。ただ、私が相談者にこの話をすると、「うちの場合は、支店に5人しかいないが、その場合は?」「10人いるが、みんな契約・派遣社員だが?」という話になります。

結局、支店長という肩書きや部下の人数もさることながら、支店の事業、経営上の重要な決定権や人事権を持っている、裁量権を持っているところが裁判所では重視されているのではないかと思います。

その他の判例がどうなっているのかを一緒に見たいと思います。今回は7つの例を挙げますが、「管理監督者だ」と認められたものは1件しかなく、「日本ファースト証券事件」と合わせて、企業側は8戦、2勝6敗になっています。

先ほど挙げた【職務内容、権限、責任】【労働時間の裁量性】【給与・手当・一時金などの処遇】の3要素で、会社がどう主張していたのか、結局裁判所がどう判断したのかというところを確認してみましょう。

「レストラン『ビュッフェ』事件」は有名な事件(原告勝訴)で、これも店長が原告です。【職務内容、権限、責任】では、裁判所は「店長としてウエイターの採用にも一部関与したと認められ、材料の仕入れ、店の売上金の管理は任されていた」と認定しますが、「それでは十分ではない」という判断です。

【労働時間の裁量性】では、店長もタイムレコーダーで出退勤が管理されていた。しかも、仕事が店舗の管理・運営だけではなく、人手の足りないときにはコックやウエイター、レジなどあらゆることをやっていたということで、管理監督者としての実態も認められませんでした。【給与】に関しても、店長手当として2万円から3万円では足りないとされました。

同じような流れで、いわゆる店長系の管理監督者性は、裁判ではほぼ全滅しています。以前は、タイムレコーダーを押させたり、欠勤したときに欠勤控除をしたり、そういうところで「労働時間の裁量がない」という判例が多く、マクドナルドも当然、店長にタイムレコーダーを押させない、労働時間の管理はしないという取り扱いはしてはいたのでしょう。

ところが、これらの判決を見ると、労働時間の裁量性もさることながら、特に小売店舗であるとか、外食系企業では、入社1-2年目の社員が店長を勤めていたりする現状とも相まって、「今の店長としての責任・権限程度では、管理監督者と言い切るのは難しい」とならざるを得ないと思います。
(その5に続く、全10回)

※この原稿は、2008年9月3日にアカデミーヒルズで開催した『ヒューマンリソースマネジメントの舞台裏:人事労務の法的課題~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~』を元に作成したものです。

該当講座

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人事労務の法的課題
高谷知佐子 (森・濱田松本法律事務所 弁護士)
山本紳也 (プライスウォーターハウスクーパースHRS パートナー)

人事・労務専門弁護士の人気ランキングで常に上位に入る高谷知佐子弁護士をお迎えし、昨今の人事・労務問題をどう解決するか、企業の対応策を考えます。今回は、マクドナルド判決を取り上げます。東京地裁の判決を解説するとともに労働基準監督署の指導基準にも触れながら、これら問題の背景および本質を探ります。 ま....


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