記事・レポート

北京オリンピックと2016年東京オリンピック招致

更新日 : 2008年11月25日 (火)

第2章 中国とイギリスにみるオリンピック開催国の躍進と、日本の課題

竹田恆和さん
竹田恆和: 今回、開催国中国の活躍と、4年後の開催が決まっている英国の躍進が非常に目立ちました。中国は今回51個の金メダルをとり、初めてアメリカを上回って金メダルランキング世界一になりました。メダル総数でいうとアメリカが110個、中国が100個ですから、その点ではアメリカは面子を保ったということになるわけですが、中国の躍進には大変なものがありました。前回のアテネオリンピックから金メダルが19個、増えています。

中国はこのオリンピックを目標にジュニアの選手を育ててきました。全国にある専門学校、技術体育学校から優秀な選手を中央に集めて訓練する。また、今回は優秀な世界のコーチを多数集めて、中国で盛んで強いスポーツに特化して強化しました。体操、重量挙げ、飛び込み、卓球、そういったスポーツに関してはほとんどメダル総占めでした。

これまでのスポーツ大国は、アメリカやロシアですが、陸上あるいは水泳で非常に多くのメダルをとってきました。しかし中国は今回、陸上や水泳ではほとんどメダルをとっていません。それでこれだけのメダルをとったわけですから、今後中国が陸上や水泳に力を入れたら大変なことになるのではないかという気がいたします。

ただ、人口比から見ると、中国のメダル総数は42位なんだそうです。それを聞いただけでもびっくりしますし、大変な大国であることを感じます。

英国も今回非常に躍進しましたが、3年前にロンドンでの開催が決まり、それから非常に強化費をかけたわけです。日本の4、5倍ではないかと言われていますが、そういったカンフル剤で外国の優秀なコーチをたくさん受け入れ、これも英国の得意とするスポーツ、今回は自転車だけで7つ、トラックやボート、水泳で金メダルを多くとりました。前回のアテネが9個で、今回が19個ですから、倍以上の金メダルをとったわけで、恐らく4年後に英国はますます強くなるのではないかという気がいたします。

その2012年のオリンピック開催招致で戦ったパリ——パリはロンドンに敗れたわけですが、そのフランスは4大会振りに金メダルの獲得数を1桁に落とすという低調振りを見せました。

今回、日本は金が9、銀が6、銅が10と、25個のメダルをとりました。前回のアテネと比べれば、残念ながらメダル数は落としたのですが、世界のスポーツ事情の急激な変化により、すべてのスポーツのレベルがとても高くなってきています。そういう中で、日本の選手は持てる力を十分発揮して頑張ってくれたと思います。

しかしながら、いろいろ課題も見えてきていますので、今後、ロンドンあるいは2016年の東京オリンピック招致に向けて、さらに強化を進めるべく、今回の結果をさらに分析して、各競技団体とともに、もう一度国際競技力の向上策を練り直す作業に入っているところです。

今回の金メダルは9個ですが、このうちの7つは連覇による金メダルです。連覇というのは、それだけでも大変なことですが、その中でも北島選手の世界記録を含めた2種目の連覇で見せた、彼の精神力は大変なものだと思います。ただし、世代交代ということを考えると若い選手の台頭が少なかったということは、非常に大きな今後の課題だと思います。

今回、水泳が大変な記録を伸ばしました。これはレーザー・レーサーという新しい水泳スーツが記録を伸ばしたともいえると思うのですが、北島選手に「どうして上半身は着ないんだ?」と聞いたら、「上を着ればもっとタイムは早くなると思う。ただ上を着ると非常に圧迫感が強くて、自分は耐えられない」と。それでパンツだけにしたらしいのです。それだけスーツの影響力があるといえるのだと思います。

彼は200Mの予選でいい成績ではなく、確か3~4位だったと思うのですが、そのときは本当に自分は勝たなければいけないと、勝つことを意識し、 50Mを19かき(ストローク)で行ったんだそうです。それは気持ちのあらわれで、本来はもっとゆっくり泳いで行きたいところを19かきで行ってしまった。それを決勝で16かきにしたことによって、オリンピック記録が生まれているのです。それは自分にとってはすごい不安だと言っていました。急いではいけない、それの方が早いんだと自分に言い聞かせながら最大の努力をした。彼の冷静さと、勝負に対する執念、そういうものを本当に感じたレースでした。

(その3に続く、全9回)

※この原稿は、2008年9月11日に開催した六本木ヒルズクラブランチョンセミナー「北京オリンピックと2016年東京オリンピック招致~北京での日本選手団の成績とオリンピックの東京開催を目指して~」を元に作成したものです。

該当講座

北京オリンピックと2016年東京オリンピック招致

~北京での日本選手団の成績とオリンピックの東京開催を目指して~

北京オリンピックと2016年東京オリンピック招致
竹田恆和 ((財)日本オリンピック 委員会(JOC)会長/エルティーケーライゼビューロージャパン(株)代表取締役社長)

今回の六本木ヒルズクラブランチョンセミナーでは北京オリンピック開催直後の余韻がまだ残る9月に日本オリンピック委員会(JOC)会長の竹田恆和氏をお招きします。2冠を獲得した北島康介選手をはじめ、悲願の金メダルを手にした女子ソフトボール代表、体操で銀メダルを獲得した内村航平選手、フェンシングで銀メダルの....


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