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これからの東京~ビジネスと感性が融合する都市像~

更新日 : 2008年02月08日 (金)

第4章 中国は現代アートも建築も熱い。しかし、日本は未だに実績主義です

隈研吾
米倉誠一郎: 確かに東京は成熟しつつあると言えますが、ニューヨークのあのエネルギーって何なんだろうか、とよく思うんですね。

すごく腹立たしいんですが、米国のビジネスコンサルタントの友人が来日して「日本はつまらない」と言うんですよ。「何がつまらないの」と言ったら「アメリカはギャラリーがいっぱいあって、絵を買う楽しみがある」と。

彼はニューヨークに住んでいますが、仕事の合間にギャラリーを回って、「これは」と思うアーティストの作品をまだ値段が安いうちに買う。作品を買うことでそのアーティストを応援する。有名になって値段が上がってくると嬉しいと言うんですが、その喜びはお金が儲かったからじゃなくて「やっぱり僕は美術に対して目がある」という満足感なんですね。

「東京にはそれがないんだよ」と彼は言うんですよ。確かにそうしたギャラリーって、東京には少ないかもしれない。

同時期にネットバブルで儲けた日本人と話をして、僕はとてもがっかりした。彼らは「ルノアールがいい」とか、「モネを今度買いたい」とか言うんだな。これはもうどうしようもないな、と思いました。ルノアールとかモネの絵画はエスタブリッシュしたものでしょう。「それより同世代の才能を見つけ出して応援しろよ」と僕は言いたい。「自分たちが日本の新しい美術を育てるんだ」という気持ちがないことにがっかりしたんです。

森ビルの森社長は、自分たちの宣伝ばかりしていると思った方もいるかもしれないけど、僕が立派だなと思ったのは現代アートの美術館をつくったり、六本木ヒルズのキャラクターに村上隆さんを起用したことです。

村上隆さんは芸大で日本画を学んで、それをベースにああいうキャラクターをつくった。世界で戦える、数少ない日本人のコンテンポラリー・アーティストです。森社長は同じ時代で頑張っているアーティストを応援してる。それなのに若い経営者たちがなぜルノアールなんだ、とね。

ところで、建築では新しい実験をさせようという熱気はありますか。

隈研吾: アートと同様、建築もそういう意味での思い切りはないですね。サラリーマン社会なのか、官僚社会なのか、何が悪いのかわからないんだけど……。建築も実績主義です。「実績を積んだ」ということは、値段は上がり切っちゃっているわけだから、それ以上上がることはない。それが新たにアピールする可能性って逆に低いんです。

それに対して、中国の現代美術はすごい。実は昨日の夜、中国の東門の現代アートのギャラリーに行きました。東門が正面に見えるお堀を挟んだところにあるフレンチ・レストランが、現代アートのギャラリーになっている。つくったのは、なんと5人の中国人の弁護士なんです。

米倉誠一郎: チャイニーズ弁護士ですか。

隈研吾: ええ。「俺たち、お金があるから、自分たちでギャラリーをつくって、アートを鑑賞するだけじゃなく、飯も食えるようにしようよ」とね。そこでは中国のモダンアートが買えちゃうんです。

そういう連中がいて活気づけているから、中国のモダンアート全体が勢いがある。今度はそれが中国の力になるでしょう。昨日もそういう循環を目の当たりにしました。日本とずいぶん空気が違っちゃったな、と思いましたね。

米倉誠一郎: 誰かこの暗い雰囲気を打開してください(笑)。

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