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大人のための読書論

~書物語り、ブックトークより~

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2016年02月03日 (水)

第6章 ブックガイド(1)

 
澁川雅俊: ちょっとばかり紛らわしいのですが、「ガイドブック」の一種です。 特定テーマやトピックに関連する本を複数選別し、それらを一括りとして紹介しています。もちろんそれぞれの本の内容が簡潔に解説されています。解説文は読書エッセイや書評と区別がつきにくいところがありますが、ブックガイドでの本の解説は、制作者の批評や感想をまじえないで、真っさらな説明が求められます。書誌学の分野でそれは解題と呼ばれ、本の書誌データ(著者名・書名・出版事項・出版形式)とその本の内容のほかは、著作のモチベーション・背景・目的などが忠実に分析された結果を客観的にまとめた簡潔な文章で書かれるように指導されています。
この種のガイドはこれまでは新聞・雑誌の書評欄に掲載されることが多かったのですが、最近ではラジオやTVやweb情報でも提供されています。なおラジオやTVなどこれをオーラルで行うと、ブックトークの形式になります。

 『ビジネスに効く最強の「読書」』〔出口治明〕などはこの種の本の点で、ビジネス界で功なり名を遂げた人物の一人が書いた本です。この人は、自他共に認める大の読書家で、前に述べた成毛の主宰するネット書評「HONZ」にいま旺盛に書評を寄稿しています。この本ではリーダーシップとか、意思決定とか、グローバリゼーションなどのトピックを掲げていますが、選ばれている本はMBAの教科書や啓蒙書ではなく、たとえばリーダーシップには『指輪物語』(トルーキンのファンタジー)、意思決定には『バウドリーノ』(エーコの中世西欧歴史小説)、グローバリゼーションには『大君の通貨』(佐藤雅美の幕末の国際通貨問題小説)などが読むべき本の1点に挙げられており、人間性に富んだ企業人を想定しています。副題に「本当の教養が身につく108冊」とあるように、本題の「ビジネスに効く」は「素養を養い、資質を磨き、将来展望の基盤を築くための」必読書と読みかえられる必要があります。

 
なお著者は最近『本の「使い方」』と謳った読書論を出しています。なお『ビジネスパーソンのための「最強の教養書」100』〔日経MOOK〕が類書としてありました。活躍中のビジネスマンやコンサルタントと若手の学者たちに取材しておよそ100点の教養書を集めて、スタイリッシュに並べていますが、ビジネス実用書と一般的啓蒙書が中心で、この本の編集陣は教養、あるいは教養書についてあまり深く考えていません。

 教養書に関して少し硬派のガイドブックもあります。『エリートたちの読書会』〔村上陽一郎〕は、古典の読書会を通じて、現在に生きる人間にとって何が本当に大事であるか再考し、そうした思索を通じて今日的および近未来的課題を展望でき、それらの課題解決に参画できる‘大’リーダー(叡智の人)養成を目指している団体(日本アスペン研究所)の事業に添った内容です。この本にはその読書会でテキストとして使われている30点余の古典書が掲げられていますが、それらの中からとりわけ『奧の細道』(芭蕉)、『平家物語』、『自然学』(アリストテレス)、『善なるもの一なるもの』(プロティノス)、『アメリカのデモクラシー』(トクヴィル)、『部分と全体』(ハイゼンベルク)とこの団体の中心人物である著者との対話が記述されています。なお古典と教養の重要なかかわりを論じた『古典を失った大学—近代性の危機と教養の行方』〔藤本夕衣〕を前々回のブックトークで紹介しています。


(7章8章は2/10公開予定)

関連書籍

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村上陽一郎
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藤本夕衣
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