記事・レポート

大人のための読書論

~書物語り、ブックトークより~

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2016年01月20日 (水)

第2章 本の読み方

 
澁川雅俊: 現代の論客佐藤優も『読書の技法』で体験的読書論をまとめています。「どう読むか」は読んだ本の内容をどう理解するかが眼目ですが、その一側面に本を読むスキル習熟の問題があります。副題「誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門」とあり、月平均300点の本を読むこの人物独特の流儀を披露しています。持論は多読の薦めで、その上で熟読すべき本と速読すべき本の選別とそれぞれの効果的な読み方を力説しています。それだけではなく、何を読むべきか、要点を記憶するための方法、いつ・どこで本を読むかなどへも眼を向けていて、多岐にわたる本の読み方を提唱しており、私たち自身の読書習慣を点検するチェックリストとして有効かもしれません。


知恵の源を求める

 読み方のスキルについては、『超一流の人がやっているフォトリーディング速読勉強法』〔山口佐貴子〕と『奇跡を起こすスローリーディング』〔伊藤氏貴〕があります。
「フォトリーディング」とは耳慣れない用語ですが、30年ほど前にある脳科学者が提唱した速読法です。つまり印刷されている文章を読むのではなく、開かれた紙面全体を脳の中で画像処理する発想が基になっています。所定のステップでこの技法を習得すると250頁の本の内容を15〜60分で読みとれるようになるとのことで、ことさら書名に「超一流の人がやっている」と角書きされていますが、表音文字本と漢字仮名交じり本でも本文の図像処理は同じだろうか、疑問が残ります。その速読法は、どちらかと言うと<より先に、より広い>情報を拾う読み方ですが、「スローリーディング」は<より確実に、より深く>知恵の素材を身につける方法として推奨されています。

知恵の源を求めるなどと言うと、いかにも精神論に傾斜しているように受け取られるかもしれませんが、高校国語の実績と脳科学に基づいた本の読み方を提唱します。とりわけ、本の中味を前に進んだり後戻りしたり、あるいは左か右かなどにゆっくり、ゆっくりと確かめながら進む遅読は、セレンディピティを磨く方法につながると主張しているのは説得力があります。なお外山滋比古は『乱読のセレンディピティ』で、異なる観点からその方法を論じています。

<読まない>とは本の存在を知らないこと

 最後に私たちの悩みを一挙に解決してくれるような標題の本を紹介します。それは『読んでいない本について堂々と語る方法』〔P・バイヤール〕です。
この本でフランスのあるサイキアナリストは、本を「<読む・読まない>」の違いは何なのかを文学読書を中心に詳細に論じています。古来私たちは、「読書=精読・熟読、そして行間をも読む」という考えに支配されてきましたが、著者は、たとえば「見る・触る・‘ペラペラ’と頁をめくったりはするが全く読まない」、「新聞の新刊広告や書評にいつも目を通し、‘これは!’と思う本を買ってくるものの家のそこかしこに積んどく」、「‘流し読み’、あるいは‘斜め読み’」、「ある本のことを他人に聞く、あるいは‘あらすじ’を読む」のような本の接し方であっても、本を<読んだ>としています。

彼によれば、<読まない>とは本の存在を知らないこと以外の何ものでもなく、大事なのは、しかじかの本を読む、あるいは読んだということではなく、何であれ何かを知ることができる本が必ずあるものだという本の世界について全体の見通しを掴んでいることだ、と述べています。実に深いことばですね。

(3章4章は1/27公開予定)

関連書籍

読書の技法 — 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門

佐藤優
東洋経済新報社

超一流の人がやっているフォトリーディング速読勉強法

山口佐貴子
かんき出版

奇跡を起こすスローリーディング—学びと喜びの人生を切り拓く読書法

伊藤氏貴
日本文芸社

乱読のセレンディピティ —思いがけないことを発見するための読書術

外山滋比古
扶桑社

読んでいない本について堂々と語る方法

ピエ−ル・バイヤ−ル
筑摩書房

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